藤田さんと沼田さんと三浦君
企画・営業部は12名いるが、その半数は増岡のチームとして活動している事が多い。
事務所のデスクに大抵いるのは、川野の隣の席の藤田さん、佐渡の隣の席の三浦君、三浦君の隣の席の沼田さんだ。
佐渡は、新人・三浦君の教育係をしている。
三浦君は少々内気で、気の優しそうな青年なので、佐渡の辛辣な態度に付いていけてるのか?と思ったが、様子を見ていると、意外と佐渡は後輩にはキツくないらしい。
沼田さんは、42歳・妻子持ちの男性だ。
第二支社の立ち上げの時に、中途採用でここに来たらしい。眼鏡をしていて、ポチャッとしていて、人の良さそうな顔をしている癒し系だ。
奥さんに、健康を心配されて食事制限をされているそうだが、ストレスが溜まると、ランチ時にコンビニで買った大盛りパスタをかき込む姿が、度々目撃されている。
川野の隣の藤田さんは、52 歳の女性パート従業員だ。
結婚を機に、正社員だった以前の職場を辞め、ずっと専業主婦をしていたそうだが、お子さん2人が成人した事で、再び働き出したそうだ。
主に営業の見積書の作成や、電話対応など事務的な事をやっている。
人当たりの良いお上品なマダムで、周りによくお菓子を配ってくれる。
今日も、事務所奥をパーテーションで仕切ったミーティングスペースに、増岡チームが籠もっているので、事務所のデスクにはこの3人と、佐渡と川野の5人が座っている。
午後3時、藤田さんが各席に、個包装のクッキーを配り出した。
「チッ!また本社から嫌味のメールが来てるよ。市場調査が足りないって?冗談じゃないよ。俺らは、お前らの手下じゃないんだよっ!自分でやれよっ!」
佐渡が、眉間に皺を寄せている。
本社の上から目線の態度が、常に気に入らない様だ。
佐渡の隣で、苦笑いをする三浦君。
「あらあら、佐渡係長?あまり怒っていると、川野主任が怖がっちゃいますよ?ねぇっ?」
川野と佐渡の事情を知らないであろう藤田さんが、話を振って来た。
「あっ、えへへっ。いつもの佐渡係長って感じなので、大丈夫ですよ。あははっ⋯。」
川野はとりあえず、無難に返した。
「そう?佐渡係長、先月はなかなか機嫌が良かったのよ〜?」
「藤田さんっ!茶化さないでください!」
佐渡の眉間の皺が深くなる。
「まぁまぁ、これ、佐渡係長お好きでしょ?クッキーどうぞ!」
藤田さんは、余裕の笑みを浮かべた。
佐渡の機嫌の悪さなんて、息子を2人育て上げた彼女にとって、可愛いうちに入るのだろう。
さすがだ。
「はいっ、川野主任もどうぞ!期間限定のチョコレート味で、ハマっちゃって。」
「ありがとうございますっ!頂きます。」
第二支社に来てから、なかなか濃いめの方々としか、今まで接してこなかったので、意外と穏やかな事務所の雰囲気に和む川野であった。
「川野さん、食べてる場合じゃないですよ。16:30から打ち合わせなので、そろそろ出ますよっ。」
「(モグモグ)⋯はいっ!⋯⋯では、行ってきます!」
会社が入るビルには地下駐車場があり、三笠企画の社用車も3台ほど停まっている。
ガチャッ―
佐渡と川野は車に乗り込んだ。
「川野主任。僕も大人なので、今後の仕事には私情を持ち込みませんので。あの事は忘れて下さい。それと、席が向かい合っていて、気まずいのは分かりますが、あまり顔に出さないで下さいね。藤田さん、おっとりしているようで感が鋭いので。一連の事がバレると面倒なんです。」
車を発進させながら、佐渡が言った。
川野への気持ちに踏ん切りがついたのか、思ったより穏やかな口調だ。
「はいっ、もちろんです。佐渡係長にご迷惑かけないよう、普通にします。」
「それと。プライベートでは山本に軍配が上がりましたが、仕事のバディとしては、僕の方が上なので。今後とも宜しくお願いしますよっ。」
「⋯はいっ、こちらこそ。宜しくお願いします。」
タジタジになる川野。
大人なフリをしても、やはりどこか負けず嫌いな佐渡であった。




