新しい席
12月に入り、本島が横浜支社へ異動になった。
本人の気持ちはともかく、主任から係長への栄転だ。
企画・営業部のデスクが1つ空いたため、川野はとうとう倉庫から出る事となった。
企画・営業部のオフィスは、細長い部屋になっている。
全部で12名いるのだが、部長は本社と兼任のため、ほぼ第二支社にいる事はない。
座席は、10席が5席ずつ2列で向かい合わせになっていて、部長席と増岡の席のみ、その10席とは別に、離小島でL字型に2席置かれている。
オフィスと廊下を区切るのは、ガラスのパーテーションのため、窓に背を向けて座り、前を遮るものの無い増岡の席からは、廊下や向いの倉庫のドアがよく見渡せるのだ。
川野の新しい席は、佐渡の席の向かい側だ。
佐渡が窓側の1番端の席に座っているが、川野は本島が座っていた、出入口のドア側の1番端の席を、そのまま引き継ぐ事となった。
川野から見て、左斜め向いの少し離れた所に、増岡の席がある。
向かい合う席の間には、低めのパーテーションがあるのだが、30cmにも満たないため、佐渡とはお互い顔が丸見えだ。
おまけに、お互いノートパソコンを使用しているため、遮るものがほとんどない。
大変、気まずい。
あの一件があってから、川野と佐渡はほとんど喋っていない。
お互い、無視を決め込んでいる訳では無いのだが⋯。
先月に挑んだ、大型スーパーのバレンタイン企画コンペが見事に通ったので、これから当然、2人が主体で進める事となる。
ますます気まずいが、やるしか無い!
川野は、気持ちを新たに頑張ろうと、意気込むのであった。
川野と山本の近況はというと⋯。
一言で言うと、熱々だ。
平日、休日に関わらず、都合のつく時はお互いの家を行き来している。
仕事終わりに、夜景を見に行ったり、外食をする事もあるが、時間がある時は、家で2人きりでゆっくり過ごす方が楽しい様だ。
山本は、見かけによらず一途で、クラブ通いも最近はしていない。
ただ、ヤキモチ焼きな一面もあり、川野の席が移動した事が、あまり面白くないみたいだ。
夕飯を済ませ、川野の部屋のソファーでくつろぐ2人。
「光?今週末どこか行きたいところある?」
隣に座る、川野の肩に片手を回しながら、山本が尋ねた。
「哲也君ごめんっ!今週末は、クリスマスイベントの設営の手伝いが入ってて⋯土日は仕事なんだよね。」
これから年末年始に向けて、企画・営業部は大忙し。
クリスマスや正月イベントの、設営や手伝いが何件も入り、通常業務も相まって、休日返上や深夜残業も多くなってくる時期だ。
また、本島が異動した事で、川野の仕事量もこれから一気に増える。
「へぇ~、やっぱり営業部って忙しいんだねぇ。⋯えっ!じゃぁまさか、クリスマスは一緒に過ごせない感じ?」
心配そうな山本。
ホリデーシーズンは2人っきりで、王道な甘いデートをして過ごしたいらしい。
「う〜ん。24日はダメかも。25日は、片付けが翌日だから⋯夜遅くなら、なんとか会えるかな。あっ、あと大晦日は一日、大丈夫だと思う。」
スケジュール帳を見ながら、淡々と答える川野。
「そっか⋯。大変だね。」
山本は、川野をギュッと抱きしめた。
「光ともっと一緒にいたいなぁ⋯⋯。俺も、イベント手伝いに行っちゃおうかなぁ⋯?」
「私も、もっと一緒にいたいよ?でも、哲也君は哲也君で年末は忙しいだろうし⋯。申し訳ないよ。」
「確かに、今月の月次は早めに終わらせなきゃいけないんだよなぁ⋯。う〜ん。」
「年始は、お正月過ぎれば落ち着くかも!そしたら、ゆっくり温泉でも行かない?」
「ふふっ、それは最高だね。」
山本は、これから川野と会う回数が減るという不安より、佐渡と増岡が、物理的に川野と近くなった事の方が不安のようだ。
その不安を打ち消すかのように、川野を更にキツく抱きしめるのであった。




