誰が1番、ズルいのか?
川野は山本と、それは甘い甘い週末を過ごした。
一晩では飽き足らず、日曜の夜まで、愛を囁いては求め合った。
休み明け、佐渡は会社を欠勤した。
表面上は体調不良らしいが、きっと原因は川野にもあるのだろう。
週末デートをドタキャンされて以来、全く佐渡から連絡が来ない。
“さようなら”とメールを送った川野だが、音信不通の佐渡の事は多少、気にかけていた。
山本も、佐渡の事情は知らない様なので、謎が深まるばかりだ。
ガチャン―
「こんにちは!バード運輸です!川野さん、お疲れ様です。今日は15口になります。サインをお願いします。」
「吉井君、お疲れ様です!今日もありがとうございます。」
伝票に押印する川野。
バード運輸の吉井君は、まだ20代前半の元気な青年だ。
川野が荷受け担当になったことで、今ではすっかり顔馴染みになっていた。
「ありがとうございました!川野さん、なんか良いことありましたね?顔緩んでますよ。では、失礼します!」
吉井君にそう言われ、川野は耳が真っ赤になった。
「経理部には3口⋯。哲也くん会議室かな?もうっ!どういう顔して会えば良いかな?」
川野がキャッキャはしゃいでいると、1人の女が倉庫に入って来た。
ガシャン―
「川野さん、今、時間よろしいですか?」
「あっ、本島さんお疲れ様です!大丈夫です。」
相手は同じ企画・営業部の本島だった。
28歳で若手の部類に入るが、仕事をバリバリこなすキャリアウーマンだ。
実は、川野と同じ主任の役職についている。
そして、佐渡の今取り組んでいる企画のバディだ。
「川野さん、佐渡さんがあなたに、いつまでもしがみつこうとしているので、はっきり言いますね。私、彼と寝ました。」
!!!
いきなりの衝撃の事実に、川野は絶句した。
本島の声が、だんだん大きくなって来る。
「⋯フッ、もっと怒りなさいよ。ムカつくな⋯。ご存じないと思いますが、私、あなたがパワハラして、ここに来たせいで、来月から横浜への異動が確定してるんです!おまけに、良い感じだった佐渡さんまで奪って。あなたのせいで、私の人生台無しですよっ!」
“やってしまった!”
川野は思った。
自分はただでさえ恋愛事情に疎く、基本は倉庫にいるので、社内恋愛の情報は、小林が増岡に片思いしていることぐらいしか知らなかった。
佐渡も恋愛はさっぱりと言っていたので、まさかこれ程身近に、そういう女性がいるとは、思ってもみなかったのだ。
「あの⋯佐渡さんとは、お付き合い前でしたし、人事異動に関しては、上に言ってください。」
川野は罪悪感を覚えたが、そう言うしかなかった。
本島が更に、イライラしている。
「私、あなたみたいな人、大嫌いです!左遷でここに来たはずなのに、ずっと笑顔でヘラヘラしていて。増岡課長にも馴れ馴れしいし。佐渡さんにも思わせぶりな態度して。⋯真面目にやってる私がバカみたい⋯。」
川野は本島に色々言われ、ただただ話を聞いていたが、徐々に怒りが込み上げてきた。
「あの、嫌ってくれるのは構わないですが、そこまで本島さんに、言われる筋合いはないです。確かに私は、佐渡さんからの申し出を断らなかったのは事実です。でも、本島さんはそれ以前に、佐渡さんに、ちゃんと思いを伝えてましたか?もっと早く伝えていたら、こんな嫌な思いをしなくて良かったのでは?それと⋯。横浜に異動となって、これは私にも要因はありますが、1番の原因は、私を飛ばした、堀田課長だと思いますので。」
川野は、正論の様な言葉を並べたが、言葉を吐き出したあとに、胸が傷んだ。
自分は、ズルい⋯。
山本への思いを誤魔化し告白もせず、佐渡と付き合おうとしていた。
そして、山本がこちらを振り向いたら、佐渡の気持ちなどそっちのけで、深い関係になった。
佐渡のことに関しては、本島を責める資格はない。
佐渡の申し出をきっぱり断っていたら、これほど皆が傷付かずに済んだのだろうと、川野は責任を感じた。
「⋯佐渡さん、私とお付き合いしてくれないって。クッ⋯。」
ガシャン―
涙を滲ませた、本島が行ってしまった。
川野はフォロー出来なかった。
追いかけもせず、1人倉庫に残った。
「仕事中だけど、連絡入れておくかっ。(スマホ画面ポチポチ)“本島さんから事情を聞きました。”っと。」
川野は佐渡にメールを送信した。
送信して30秒もせずに、佐渡から電話がかかって来た。
「もしもし⋯、佐渡さん?」
「グスンッ、川野さん⋯。すみませんでした。」
「事情は分かったよ。でも、せめて連絡くらいは欲しかったな。あと、代理デートは無いよ。⋯そしてごめんっ。私も言う事ある。山本さんと付き合う事になった。」
「グスン、グスン⋯。僕、本島さんに今の企画の事で、相談があるって言われて、川野さんとのデートの前日に食事しに行ったんです。お酒を勧められて飲んでいたら記憶が飛んで⋯気づいたら翌朝で、本島さんの家にいたんです。グスン⋯。もうこの時点で終わったと思ったのですが、どうしても諦めきれなくて⋯。次のデートも、本島さんに予定がバレて、デートに行ったら川野さんにバラすって言われて⋯グスンッ。すっぽかしてすみませんでした⋯。」
佐渡は、泣きながら真実を話した。
本島は佐渡が酒に弱いことを知っていて、謀ったのだろう。
「分かったよ。」
川野は優しく相槌を打った。
「でも⋯グスンッ。川野さんもひどいです。グスン、グスン⋯。山本とそんな急に付き合うなんて、元々好きだったのでは?グスンッ⋯元から、グスンッ⋯僕の事なんてグスンッ⋯見てくれて無かった、グスンッですね⋯。グスン。」
図星だ。
図星だが、佐渡は分かっていない。
川野は一度は、本当に向き合おうとしていた。
そのチャンスを、自ら手放したのは佐渡自身だ。
更に、デートに代理なんて立てなきゃ良かったのに。
ダークホースは増岡ではなく、山本という事も知らず、愚かな事をしたのだ。
川野は、色々言いたいこともあったが、グッと我慢した。
「佐渡さん、佐渡さんとのデート楽しかったですよ。こんな風になってしまいましたが、仕事仲間として、今後とも宜しくお願いします。明日からまた、会社来てくださいね。有能な佐渡さんがいないと、仕事回りませんから。」
「グスンッ⋯。ウゥっ⋯。わかりました⋯グスン。」
電話が切れた。
佐渡の事を責められないのは、自分にも非があるからだ。
川野は深いため息をついた。
昼休憩、山本が倉庫にやって来た。
事の顛末を説明したら、ひどく驚いていた。
「恵介、そんな事になってたんだね。どうりでそりゃ焦るよな⋯。」
山本が神妙な面持ちで続けた。
「でも、光さんも責任感じてるみたいだけど、それは違うよ。そんな事言ったら俺だって⋯。もっと早く、光さんに気持ち伝えてれば良かったと思うし⋯。恵介は俺を信用して代理を頼んできたのに、俺は恵介に、光さんへの気持ちを隠して、その話に乗ってたんだから。光さんがズルいなら、俺だってズルいよ。恵介もズルいし、本島さんもズルい。」
「恋愛って、難しいよね⋯。」
「そうですね⋯。難しいですよね⋯。」
「ふ〜ん。哲也君にも、恋愛難しいと思う事があるんだ。」
川野がニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「俺だってありますよっ!大体、俺が女好きで遊びまくってるって思ってたでしょう?俺は夜遊びしますけど、クラブでオールナイトですからね!誰かとワンナイトではありませんからっ。⋯意外と一途なんですよっ。」
チャラい見た目とは裏腹に、意外と純情な山本であった。




