表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜  作者: 桃山あんづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/67

ピザとチキン

遊園地の帰り道。

バスでも電車でも、2人はいつもの様な軽口を叩くことは無かった。


ただ寄り添い、時にはお互いの指を絡ませ、一言、二言、他愛のない言葉を交わして、見つめ合い微笑むのであった。


行きは、あれだけ長いと感じていた道のりも、あっという間。

2人は、最寄り駅まで帰って来た。


「川野さん⋯、この後どうします?」


山本が、そっと尋ねた。


こ、この意味は、どう捉えたら良いのか!?


今の今まで、山本との、まるで青春の様なやり取りに、うつつを抜かしていた川野が、現実に戻って来た。



「服濡れちゃってますし、店に入るのもあれなんで、俺ん家来ます?」



山本は、平然と提案して来る。


いやいや、これはどう答えるのが正解なのか。


色々と、心の準備も出来ていない。

でも、あっさり断って帰るのも違う気がする。


川野が戸惑っていると、山本がイタズラな目をして笑った。



「ふふふっ、川野さん、何考えてるんですか?夕飯のお誘いをしているだけですよ。お腹空きません?もし家で良かったら、デリバリーでも頼もうかなと思って。ウイスキー飲み比べも出来ますよっ☆」



なんだ、そういう事か!

川野は、ホッとした。少しガッカリもしたが…。



「確かに、お腹空きましたねっ!でも、急にお邪魔しちゃって、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよっ。ほら、いつもの川野さんらしく、流されて下さいっ!駅からそう遠くないので。」


そう言って微笑み、山本は片手で川野の手を握り、片手に傘を差して歩き出した。


自分の家とは正反対の道。

川野は再び、夢と現実の境界線にいるような、うっとりとした気持ちになっていた。





ガチャッ―


「どうぞ。」


「お邪魔します…。」



川野は、自分の部屋には人を招くこともあるが、誰かの部屋を訪ねることは、あまりなかった。

男の部屋なんて、以ての外だ。


どうしても緊張してしまう。


山本の家は、最寄駅から歩いて10分もかからない、幹線道路沿いに建つマンションの一角だった。

1LDKで、川野の部屋より広く、川野の部屋より綺麗に掃除されていて、整っている。



「上着預かりますね。シャワー先に浴びますか?」



”シャワー”とは!?



「結構ですっ!」


反射的に、そう言い返してしまった川野。

耳が赤くなってしまっている。



「ふふっ、だから何考えてるんですか?雨に濡れたから、風邪引いちゃいますよ?ほらっ、どうぞ!」


山本に促されるまま、流されるまま、脱衣所まで連れて来られた。



「川野さん、タオルと着替え、用意しておきますね。濡れた衣類は洗濯機に入れといて下さい。後でまとめて洗うので。あっ、着替えはスウェットとかで大丈夫ですか?」


「はい…。あっ、でもウエストのサイズが…。山本さんの方が、遥かに引き締まっていて細そう…。ズボン入るかな…。」


状況に付いていけず、よく分からない事を心配し出す川野。



「はははっ、そんなに気になるなら、一番デカいサイズ、用意しておきますねっ!シャンプーとか、適当に使って下さい。ではっ。」


山本は、結構失礼なことを爽やかに言い残し、脱衣所の扉を閉めた。




シャァァ―


熱めのシャワーに打たれながら、川野は必死に落ち着きを取り戻そうとしていた。


(大丈夫、冷静に…。夕飯を食べて、お酒飲んで……。)


「かぁぁぁ~っ!」


その先の想像をかき消すように、髪の毛や顔をわしゃわしゃ洗って行く。


逆に山本は、なぜあんなに平然としていて余裕があるのか?

年下男子に翻弄され、悔しい気もあるが、これが恋愛経験の差なのかも知れない。




「先にシャワー頂いてしまってすみません。ありがとうございました。ズボンも入りました。」


ボソボソ言いながら、川野が浴室から出て来た。



「おかえりなさい!……へぇ~。ふふっ、川野さんて、化粧落とすと幼く見えますね。あっ、これ使って下さい。」


そう言うと、山本はドライヤーとヘアオイルを渡して来た。



「ありがとうございます…。」


「くせ毛用なので、結構サラサラになりますよ。あと、川野さん、何が好きか分からなかったので、とりあえずピザとチキン頼んでおきました。俺も入って来ますね。」



そう言って、山本は浴室に入って行った。


なんともスマートな男だ。


きっと、この様なシチュエーションを、色々な女性と幾度も繰り返して来たのだろう…。

元々、川野とは恋愛観も、ライフスタイルも違う。


(浮かれ過ぎっ…。)


川野は、自分の頭をコツっと殴った。





山本が浴室から戻って来た。

目の前のローテーブルには、ちょうど届いた熱々のピザとチキンが並べられた。

ソファーに腰掛ける2人。


「川野さん!何飲みます?おすすめはこれです。」


リビングの端には、山本がコレクションしている洋酒の棚があった。

山本はそこから、自分の特にお気に入りのウイスキーを一本、持って来た。


「これ、香りがめちゃくちゃ良いんですよ。俺はハイボールにしますが、川野さんも一緒で良いですか?」


ニコッと微笑みかける山本。


「同じで大丈夫ですっ!美味しそう!」


愛想笑いを浮かべる川野。



「……どうしたんですか?ピザ嫌いでしたか?」


不安そうに川野を見つめる山本。


「ピザ大好きです!ウイスキーも!ありがとうございます…。」



川野はとうとう、愛想笑いも作れない程、悲しい気持ちになってしまった。


山本がスマートに振舞えば振舞うほど、自分が惨めに感じて来る。

山本は何も悪くないのに。


情けない…。こんなに優しくしてもらっているのに…。


「…ウイスキー、やっぱりロック、ダブル(2倍量)でお願いしますっ!」


こうなったら、酒の力を借りよう。

いかにも高そうなウイスキーだが、今の川野には必要だ。




「ふふっ……チャラいですよね。」


山本が悲しく笑った。


「俺、自分で言うのもなんですが、こういう見た目で…。優しくしたいだけなんですけど、色々と勘違いされて。川野さんも、こういうのタイプじゃないですよね……。ロックダブルですね、かしこまりました。」


冷凍庫に、氷を取りに席を立つ山本。


”傷つけてしまった!”


川野はとっさに席を立ち、山本の背中に抱き付いた。




ギュッ―


そのままそっと、山本の腰に両手を回した。


「…ごめんなさい。多分、この感情は嫉妬です。…自分でも驚いています。」


背中に顔を埋めながら、川野が囁いた。

山本の心臓の音がトクトクと聞こえて来る。


「…ちゃんと言って下さい。」


「…えっ?」


2つのグラスを、キッチンの作業台に置き、山本が振り返った。



「まだ、川野さんの気持ち、聞いてないです。」


「えっ、…同じ気持ちです。」


「ちゃんと、はっきり言って下さい。」




川野は、山本の肩に手を回し口づけた。



「大好き…。」



瞳を真っすぐ見つめ、気持ちを伝えた川野。


山本は、何とも嬉しそうな笑みを浮かべた。



「俺も大好きですよ。光さん。」





その後2人は、それはそれは、甘美なひと時を過ごした。



すっかり冷めてしまったピザとチキン。

いつになったら、2人の胃袋に入っていくのだろうか…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ