騒動の真相
川野の任された仕事はこうだ。
・ネットで流行物の情報収集
・書庫のファイルや段ボールの整理整頓
・荷物の受け取りと仕分け
現在、年末年始のイベントに向けて、様々な案件が動きまくっているので、川野がその中へいきなり飛び込むには、タイミングが悪い。
「雑用ウェルカム」
川野自身も、とりあえず心を落ち着かせたい思っていたので、都合が良かった。
段ボールを古い日付順に並べながら、仕分けをして行く。
「⋯もう、クリスマスとかお正月とか、サンプル作り始めたりする時期だよね。形になるまで大変だけど、やり甲斐あって楽しいんだよね⋯。」
川野もここへ来る前に、ちょうどクリスマスの案件を頂いていた。
バディを組んでいたのはパワハラ騒動の相手、上野ミカだった。
上野は今年入社したばかりの新人だ。
素直で真っすぐな子で、川野係長!川野係長!と慕ってくれていたので、川野も大変可愛がっていた。
2人で仕事終わりに飲みに行く事も多く、仕事の相談や愚痴、恋バナまでする仲になっていた。
上野の様子が変わったのは夏頃だった。
大学時代から付き合っている恋人に、プロポーズされたのがきっかけだった。
そこから上野の仕事への熱量が下がり始め、フワフワ浮つくようになっていた。
川野は、一時的なものだろうからと、上野の捌ききれない仕事のフォローも行なっていた。
このクリスマスの案件なら、上野の仕事への熱量も戻るかもしれない。
そう思って、川野は上野に段取りを任せたのだが⋯
川野の考えが甘かった。
大事な初打ち合わせの資料作りを、全くやっていなかったのだ。
「ミカちゃん!これもう明後日打ち合わせなんだけど。何で何も手を付けてないの?自分で資料作るの大変なら、なんで相談してくれなかったの?」
「⋯」
上野はずっと俯いている。
「あぁぁ~、どうしよう、時間がないな⋯今日は残業出来る?私も手伝うから、一緒にやろう!」
「⋯無理です」
上野は俯いたまま、答えた。
「えっ、でもさ、これは敢えてミカちゃんにやって欲しくてお願いしたんだよ?4週間もあったじゃん?途中で声かけたけど、大丈夫ですって言ってたじゃん?」
「残業出来ません⋯今日は⋯衣装合わせなんですぅっ!」
上野の俯いた顔から、涙の粒がボロボロ落ちてきた。
あぁ、そういう事か。川野は何とも言えない虚しさを感じた。
「⋯もう良いや。私やるね!お疲れ様です!」
「川野係長、すみま⋯」
「もういいから!」
翌朝、上野が堀田課長と会議室に入っていった。
上野は、川野からパワハラを受けたと告げた。
「川野!ちょっと来い!」
堀田課長の高圧的な声が響く。
残業でも時間が足りず帰宅後、徹夜で資料を作り続けた川野は、身も心もボロボロだ。
それなのにこれから、あの感じの悪い上司と話さなきゃならないのか⋯
川野は返事もせずに、スタスタと会議室へ入っていった。
課長にありのままを話したが、
その言い方は部下を萎縮させる!
お前には分からないと思うが、上野は人生最大のイベントの準備をしているのだ。
そんな時に重い案件を押し付けるなんてパワハラだろ!
などと、散々喚き散らかされた。
(パワハラなんてどの口が言ってるんだよ。)
(お前の方がパワハラだろ。)
(“お前には分からない”って?セクハラも入ってるぞ。)
川野は、心の中で淡々とツッコみながら、もうどうでも良くなっていた。
上野にパワハラを訴えられたのが悲しいとかもない。
上野が結婚する事、川野には相手すらいないから、羨ましい気持ちはあった。
でも、伝えてくれた時は嬉しくて乾杯もしたし、わざと忙しくさせて意地悪しようなんて、これっぽっちも思ってなかった。
上野は結婚式の準備で頭がいっぱいで、川野と飲みに行ったり、プライベートな話をする事も減っていたので、川野はその日が、衣装合わせの日だとも知らなかった。
ただ、上野が結婚後もこの会社で頑張っていきたいと言っていたから。
だから仕事への情熱を、取り戻して欲しかっただけなのだ。
この川野の熱さが、この時の上野の気持ちと噛み合わなかったのだ。
「ミカちゃん、元気かな⋯。」
上野とは仲直りする機会もなく、後味が悪い別れ方になってしまったが、恨んだりはしていない。
可愛い後輩だったもの。
ただし堀田、お前だけは許さない!




