一歩、踏み出そう
川野と山本は、小高い山の上にある、レトロな遊園地に到着した。
電車を降りてからは、路線バスを使い、ここまで来た。
「やっと着いた…。結構、道のり長かったですね。山本さん疲れてませんか?」
「俺は平気ですよ。川野さんこそ、電車の中でずっと考え事してたみたいですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですっ!」
道中、過剰に山本を意識しないように、電車の中吊り広告を片っ端から、熟読していた川野。
実は少し、疲れてしまっている。
昼過ぎという事もあり、2人は園内の、屋外フードコートのテーブルに着いた。
「遊園地とか久しぶりだな。…ライトアップまで、まだまだ時間ありそうなので、ご飯食べたら何か乗りましょうか?」
遊園地のパンフレットを眺めながら、山本が提案した。
「あっ、私、アトラクションほとんど乗れないです。ほらっ、高い所苦手なもので…。」
「ふふっ、そうでしたね…。でも、他に見るものとかあまりないし…。それじゃあ、お互い苦手なものにチャレンジしてみます?俺は意外と、怖いのが苦手なんです。だから、お化け屋敷とか?川野さんは高い所が苦手だから、ジェットコースターと観覧車、どちらかに挑戦してみますか?」
山本が、怖いものが苦手な事を初めて聞いた川野。
苦手なのに前回、文句ひとつ言わず、ホラー映画を一緒に観てくれたのだ。
川野は究極の選択を迫られているが、自分だけ逃れる訳にはいかない。
「あのくらいの大きさの観覧車なら、腹括れば行けそうですっ!」
漢気を見せる川野。
「ふふっ、了解です。後で乗りましょうね☆」
山本は意地悪そうな笑みを浮かべた。
昼食を済ませ、早速お化け屋敷に向かった。
「山本さん怖いの苦手なのに、なぜホラー映画OKだったんですか?知らずに申し訳ない事しちゃって。ごめんなさい…。」
列に並びながら、川野が言った。
「う~ん。…苦手なんですけど、川野さんがホラーっていうから。俺と恋愛映画観るのなんて、嫌だったでしょ?それに、怖かったけど、川野さんが変な顔ばかりしてるから、そっちが面白くて…。意外と大丈夫でした。だから、きっと今日のお化け屋敷も行けそうな気がします!」
可愛い事を言っているけど、失礼な事を言われてるような…?
川野は何だか、複雑な気持ちになったが、この心優しい年下男子を守ってやろうと、心に決めた。
「わかった。私が先頭を切るから付いて来てねっ!!」
「…手、握って良いですか?」
(はぁ、可愛い……)
ガシッ!!―
川野は耳を真っ赤にしながら、勇ましく山本の手を握り、暗闇に突入した。
「ははははっ!!」
お化け屋敷から、山本が爆笑しながら出てきた。
後から出てきた川野は、相変わらず勇ましい顔をしている。
「ふふふっ、やっぱり川野さんは強いですね。驚いた時も、キャーッとかじゃないんですもん。わぁっ!!の一言で終わるんですもん。お化け役の人達、おどかし甲斐がなくて凹んでるんじゃないですか?ふふっ。」
「何言ってるの。手だけじゃ足りず、人の腕をギュッと掴んでピーピー騒いでたクセにっ!」
「だって川野さん、歩くの早くて俺の手だけ持っていくんですもんっ!まぁ、でも楽しかったです。」
「それはそれは。楽しめたなら良かったです。」
川野だって、本当はキャー!くらい叫ぶ。
ただ、山本がどんどん密着して泣き付いてくるので、お化けに驚いている余裕がなかっただけなのだった。
「じゃあ、次は観覧車行きましょう!」
お化け屋敷という試練を乗り越え、とても元気な山本。
だんだん顔が青ざめてきている川野。
「…なんか、雨降りそうだし、観覧車乗っても景色とか見えずらいんじゃない…?」
川野は、徐々に恐怖に囚われていた。
小さい観覧車とはいえ、山の上に建っているので、高さはそれなりにあるだろう。
高い所が苦手なのはもちろんだが、そこから万が一落ちてしまったらと、想像して恐怖を感じてまうのだ。
「本当にギブなら言って下さい。でも、俺は今日の川野さんなら行ける気がしますよ。」
山本が優しく微笑む。
根拠はないが、この顔を見ていると、勇気が出て来る。
「…二言は無いです。行きましょう!」
川野は勇気を振り絞った。
「手を繋ぎましょう。」
ギュッ―
山本は川野の手を優しく握り、観覧車の席へ、エスコートした。
登り始める観覧車。
ゴンドラの中は、こじんまりとしていて、長い山本の足は、向かい側に座る、川野の両足を挟む形で置かれている。
離すタイミングを失った片手は、握り合ったままだ。
色々な事に緊張している川野は、手に汗をかき始めた。
「…やっぱり、怖いですか?」
少し心配そうに、川野を見つめる山本。
「…大丈夫です。」
目の前の山本を直視できず、見たくもない外の景色を、薄目で見る川野。
外はあっという間に暗くなってきている。
「…川野さん、ハンカチ持ってます?俺持ってなくて。」
「ハンカチ持ってます。」
「貸して下さい。」
受け取ったハンカチで、山本は川野の手を拭い出した。
「ご、ごめんなさい!汗、気持ち悪かったですよね。」
川野は慌てて、自分の手を引っ込めようとした。
しかし、山本は離さない。
「そんなこと全然思ってません。手を握れてラッキーとすら思っています。…外の景色が怖ければ、俺の顔でも見てれば良いんですよ。」
俯きながら、山本は言った。
観覧車がてっぺんまで登った。
川野の心拍数も最高潮だ。
「あっ!ライトアップ始まってますね。川野さん、下見るの怖いだろうから、俺が撮りますね!」
良い感じだったのだが…。
思い立った様に、山本がスマホを取り出し、動き出した。
そうだ、仕事の下見をすっかり忘れていた。
こちらの案件は、遊園地のエントランス付近の広場に、イルミネーション等の装飾を施すというものだ。
ちょうど、今の時期はクリスマスの装飾になっているが、これは第二支社より規模が大きい、三笠企画の本社が施している。
第二支社は、バレンタイン時期の特設スペースの仕様を頼まれていて、これから本格的に取り組むところなのだ。
カシャッ、カシャッ―
山本は、イルミネーションの全体の写真を収めようと、一生懸命撮ってくれている。
でも川野は、山本が動く度にゴンドラが揺れるので、恐怖で動けない。
「…怖い。」
キュッ―
山本はすかさず、川野の手を優しく握った。
「すみません…。少しでも役に立てたらと思ってつい。大丈夫ですか?」
「ごめん。大丈夫…。」
青ざめながらも安心した様子で、川野は微笑んだ。
「川野さん、もうすぐで出られますよ。頑張りましたね。あと…写真送りたいので、後で川野さんの連絡先教えてください…。」
山本がニッコリ微笑んだ。




