お人好しな男
佐渡との遊園地デートの日がやって来た。
彼に押し切られ、つい会うことを約束してしまった川野だが、当然気が乗らない。
「今日デートしたとして…その先どうすれば良いのかな…。」
ぶつぶつ言いながら、支度をする川野。
「遊園地だから、さすがにジーパンで良いかな。」
川野の私服は、ジーパンにTシャツにカジュアルなジャケットを合わるのがスタンダードだ。
靴はスニーカーと、動きやすさ重視の服装を好んでいる。
佐渡の着て来そうな服装に、合わせるのも面倒になっていたので、自分の着たいもの着ていく事にした。
「これで、よし。」
いつも通り、サボン系の香水を手首に一吹きかけ、家を出た。
今日の行先は東京郊外のため、10:00に品川駅で佐渡と合流して向かう予定だ。
川野はいつもの様に、最寄駅から赤い電車に乗る。
駅に着き、交通系ICカードを取り出し改札を通ろうとした。
その時だった。
「川野さーん!……待って!」
名前を呼ばれ振り返ると、山本が息を切らしてこちらへ駆けて来ている。
「…ハァ…ハァ…。間に合って良かった…。」
その言葉で全てを察した川野。
マイペースな山本が、偶然自分を見つけただけで、これだけ全力疾走して来る訳がない。
「……佐渡係長、今日もばっくれましたか?」
なかなか息が整わない山本は、前屈みになり膝に両手をつきながら、川野を見上げ苦笑いを浮かべた。
川野は完全に呆れ顔だ。
「やっぱり、そうなんですね~。あぁぁ~!随分とまぁ、舐められたもんだわ!帰ろっ。山本係長、ここまでご足労頂き、ありがとうございます。巻き込んで申し訳ございませんでした。」
やってられるかっ!
あれだけチャンスをくれと、せがんで来たくせに。
よりによって、また山本に泣きついた情けない男。
帰ってやけ酒だ!
川野の、佐渡に対する怒りのボルテージは最高潮だ。
「待ってください!…俺と行きません?仕事の下見もあるんですよね?」
「いやいやいや、さすがに迷惑かけられないですよ。仕事って言ったって、佐渡係長が勝手に私とやりたいって言ってた仕事だし。もうこの状況で、私はあの人とバディすら組みたくないのでっ!」
「でも、川野さんもその仕事自体は興味あるんでしょ?実際は他の人がやるもしれないですけど。写真とか撮っておけば、どっちに転んでも、その企画に貢献できると思いますよ?」
山本の冷静な説得に、帰宅モードの川野の気持ちが揺れた。
「それも、そうか⋯。家に帰っても、酒に溺れるだけだからな…。一応、行っておいた方が良いか…。でも、山本係長に同行してもらうのは申し訳いなです!一人で行って来きます。」
「ふふっ、川野さんてホント、言葉通りにしか受け止めてくれないですよね。……じゃあ、言い方変えますね。俺、今日は一日空いてるんです。迷惑じゃなければ、佐渡は放っておいて、俺とデートしましょう。」
「デ、デート?」
山本は、ニッコリ微笑んでいる。
佐渡への怒りと呆れで、現状が見えていなかった川野だが、山本から、ちゃんとデートに誘われている事をようやく理解した。
同情心からなのか、ただの暇つぶしなのか…。
「…心遣い、ありがとうございます。よろしくお願いします…。」
どちらにしろ、川野の耳は真っ赤に燃えていた。
「じゃあ、電車に乗りますか。」
「はい。あっ!!ちょっと失礼します。佐渡係長から⋯…やっぱり連絡来てないか。えーっと…(画面ポチポチ)”さようなら”っと。OKです。行きましょう!」
2人は赤い電車に乗り込んだ。
昼間の鈍行列車は、休日でもそこそこ空いている。
2人は座席に腰掛けた。
窓の外は、今日も曇っている。
「山本係長…山本さんは、いつ佐渡さんから連絡来たんですか?」
川野が思わず聞いた。
「あぁ、9:00少し前くらいかな。よく分からないんですけど、相変わらず焦ってて。10:00に品川駅って急に言われて。でも品川駅って広いじゃないですか。川野さんの連絡先は知らないし、すれ違ったら終わりだなと思って。とりあえず最寄り駅なら、急げば間に合うかなと。」
目の前の、中吊り広告を見上げながら、山本が答えた。
「そっか…。ありがとうございます。助かりました!山本さんて、面倒見良いですよね。」
「そうですか?そうでもないですよ。」
「そうですよ。だって、こんな他人のしょうもない事、放っておけば良いのに。お人好しですよ。」
山本はマイペースに見えるが、実は人の気持ちに敏感な男だ。
相手が困っていると、つい手を差し伸べてしまう。
川野の孤独感を察し、頻繁に倉庫に顔を出してくれたり、友人の無茶振りで代理デートも行う優しい男だ。
「だって、恵介はともかく、川野さんが困るじゃないですか。放っておけないですよ…。」
「…。」
川野は、山本のその優しさが、たとえ同情心から来ているものでも、嬉しかった。
嬉しくて、むず痒くて、切なくなる…。
一度、蓋をした感情が溢れ出て来そうになる。
(これは駄目だ……)
川野は、必死に冷静になろうと思い、目の前の中吊り広告を、片っ端からひたすら読み出した。
とにかく思考をチェンジしたかった。
「ふふっ、川野さん顔が険しいですよ?さぁ、乗り換えましょうか。」
こうして2人は電車を乗り継ぎ、遊園地へと向かった。




