ラストチャンス
休み明け、倉庫に佐渡がやって来た。
「光さん!本当にすみませんでしたっ!」
さすが営業マン佐渡。
両腕を脇に揃え、上半身を45度傾け、ピシッと綺麗なお辞儀をしている。
「佐渡係長、事情がどうであれ、来れないなら連絡は必須でしょ?何で私に直接言ってくれなかったの?今の今まで、全く返事もくれなかったし。それに、山本係長まで巻き込むなんて、どうかしてるよ。」
川野の機嫌は直らない。
佐渡へ芽生えていた淡い気持ちも、どこかに飛んでってしまったようだ。
そりゃそうだ。デートの相手に、勝手に代理を立てられ、今の今まで散々放置されたのだから。
「いやっ、それは⋯⋯。すみません、言えません。」
そわそわする佐渡。
「じゃあ、信用出来ないな。⋯佐渡係長の、嘘付かない真っ直ぐなところが良いと思ってたけど。もうお付き合いの方は無しという事で。さようならっ!」
そう冷たく言い放って、川野はデスクで仕事を始めた。
「光さん!」
「下の名前で呼ぶのも、もう無しっ!」
「川野さん!本当に⋯本当に申し訳ございませんでした!もう一度、チャンスを下さいっ!次は絶対そんなことしませんからっ!」
「嫌だ。理由を話してくれないし。誠意が伝わって来ない。」
「お願いします!もう一度っ!」
さすが営業マン佐渡。粘り強さも人一倍だ。
今、誰かがこの倉庫のドアを開けたら、きっと“パワハラ川野が佐渡をいびっている”と勘違いするだろう。
それくらい佐渡の謝罪は、迫力のあるものだった。
「もう信じてもらえないかもしれませんが、⋯本当に川野さんの事が好きなんです。このまま終わってしまうなんて⋯⋯。」
そう言って、佐渡は酷く情けない顔を浮かべた。
川野は、面倒見の良い姉御肌なので、こういう顔をされると弱い。
「う〜ん。困ったな⋯⋯。もう一度だけ。次、同じ事やったら、許さないからねっ。」
納得いかない川野だが、つい折れてしまった。
「ありがとうございますっ!絶対、絶対挽回しますから!今週末、土曜日とかどうですか?川野さんと一緒に見たい場所があって。これ、パンフレットです。」
佐渡はそう言って、遊園地のパンフレットを渡してきた。
「遊園地かぁ、もう何年も行ってないな⋯。乗り物とか苦手なんだよね。」
川野は乗り気でない。
高所恐怖症のため、ほとんどのアトラクションに乗れないのだ。
「そう言わずにぜひ!ディナーももちろん、ご馳走させてもらいますので、どうかよろしくお願いします。」
「⋯お酒飲んで良い?」
「もちろん!お好きなだけ飲んでください。デート楽しみにしてます!」
ガチャン―
佐渡が営業部の方に帰っていった。
佐渡は今、川野とは別の同僚とバディを組んで、新しい企画に取り組んでいる。
自分より、忙しい日々を送っているのは当然、川野も理解していた。
(疲れてて寝坊したのかな?プライド高そうだから、それが恥ずかしくて、言えなかったのかな⋯?)
とりあえず、そう思うことにした。
押しに弱い川野であった。




