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倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜  作者: 桃山あんづ


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21/67

映画は楽しめましたか?

佐渡との2度目のデートの日がやって来た。



”……次は覚悟しといて下さいね、光さん。”



佐渡からの言葉がずっと、頭から離れない。

2人の関係を進めたいという意味だと、さすがの川野も理解していた。



「川野光~!腹は括ったか~?ここまで来たら覚悟決めろよ~。」



鏡に映る自分を、勇ましく鼓舞する川野。

男前だ。

誠実で、自分の事を大事に思ってくれている佐渡と、とうとう向き合おうとしている。


「よしっ、準備完了。」


サボンの香りの香水を手首に馴染ませ、川野は家を出た。



今日も、鈍行の赤い電車に乗って出掛ける。

空は曇がかかっていて薄暗い。


(雨降らなきゃいいな…)


川野の心は、意外と落ち着いていた。

この時までは……。





待ち合わせは、13:00に吉祥寺駅だった。

何回か電車を乗り継ぎ、待ち合わせ10分前に到着した。


佐渡はまだ来ていなかった。

前回待たせてしまったので、そのくらいが丁度良いと、川野はあまり気にしていなかったが、13:00になっても佐渡は来ない。

スマホで連絡を入れてみても、応答がない。


川野は心配になって来た。

日時や場所を間違えたのか?

そう思い、やり取りしたメールの履歴を確認するが、合っている。


5分、10分と過ぎて行く。

あの、キッチリとした佐渡から遅刻やキャンセルの連絡が来ないなんて⋯。



(この電車に乗ってなかったら、今日は来ないのかな⋯?)



川野が、不安そうに改札越しのホームから向かってくる人達を見渡していると、1人のスカした男が、こちらに片手を上げて挨拶しながら歩いてきた。




「げっ!!⋯何で?」




川野は、心臓が飛び出そうになった。

山本が歩いてきたのだ。



「こんにちは、川野さん。今日は代理で来ました。」



この男はなぜここにいるのか?

川野が言葉を失っていると、山本が説明し出した。



「恵介、今日は急用が出来たそうです。俺が暇だと思ったのか、連絡よこしてきて。18:00 までなら空いてるのでOKしました。」



「だって、私の方には連絡来てないよ?聞いてないよ⋯?仕事ならそうと言って欲しかったな⋯。」



川野は、どうしたら良いのか混乱している。



「仕事じゃないみたいですよ。俺も、川野さんに直接言えば?とは言ったのですが。まぁ、けっこう焦ってて必死だったので。とりあえず、時間も限られてるので。行きましょうか?」



山本は何も感じてないのか、淡々と喋りながら歩き出した。



(えぇぇぇ〜!!そっちの覚悟は出来てたけど、こっちの覚悟は出来てないよぉぉぉ〜!!!)



今にも泣きそうな、情けない顔をしながら、川野は山本の後を付いて行った。




「山本係長、無理に付き合うことないんですよ?予定もあるって言ってたし。申し訳ないですよ。」



川野は山本に、遠回しに帰るよう促した。



「いえ、次の予定は、ここからそう遠くないので。それに、恵介の頼みなので。」



ひたすら淡々としている山本だが、帰る気はないようだ。


川野は、非常に気まずいが、とりあえず流れに任せようと思った。





今日は、吉祥寺のミニシアターへ行く。


佐渡が、次に川野とバディを組みたいと思っている、企画コンペの対象先だ。


開館50周年記念で発売する、記念品を製作するという案件だ。


佐渡は、川野とのデートを兼ねて、休日のシアター内を見て回りたかったらしい。




「ここですね。何か手伝う事あれば言ってください。」


「ありがとう。じゃぁ⋯、ロビーから回って、雰囲気とか、感じたことあれば教えてくれますか?些細なことでも良いです。」


「分かりました。」


川野と山本は別々に歩き出した。


山本は辺りを見渡しながらゆっくりと歩き、川野は、ロビーやチケット売り場などの写真を撮っている。



山本が戻って来た。


「川野さん、さすがに映画館の中は、チケット買わないと入れないですね。どうします?」



そうなんです。

映画鑑賞も、デートプランに入っていたんです⋯。



「山本係長、映画観ます?私と別々の物を見て頂いても、もちろん良いのですが⋯。」


川野は、遠慮気味に、山本に尋ねた。


「えーっと、今からやるのが⋯ホラーか恋愛映画ですね。川野さんはどっちが良いですか?」


山本は川野と一緒に観る気らしい。


「ホラーでお願いしますっ!」


「ふふっ、ホラーですね。分かりました。チケット代は、後から恵介に請求するので、俺が買っちゃいますね!」



久々に、山本の微笑む顔を見た…。



倉庫で最後に話した時、川野は自分が感情的になったせいで、山本に冷たくしてしまった気がして、ずっと心の奥底で罪悪感を覚えていた。


山本は案外、気にしていないのかも知れない。

嬉しいような、寂しいような⋯。複雑な気持ちだ。

でも、少し仲直りが出来た気がして、心の荷が降りたようだ。



「ありがとうございます!じゃあ、ポップコーンとドリンクは私買いますね!」


「ふふふっ、いや、そこはジャンケンでしょ?」


ジャンケンポンッ!―


軽口を叩き合った、当初を思い出す。


ジャンケンに負け、大きなポップコーンを抱えた川野の顔は明るかった。






「ふふふっ、はははっ!!」


映画館から、爆笑しながら出てきた山本。

不機嫌そうな川野が後から出てきた。



「川野さん、ふふっ、ホラー観てたんですよ?なんで怖がりもせず、ふふっ⋯ずっと険しい顔してたんですか?」


山本が笑い過ぎて、目に涙を浮かべながら言った。



「いや、やっぱり冷静に考えておかしいよなと。恵介君は、何を思って山本係長にお願いしたのかと。同期で友達だからって、デート代理は無いでしょ。その思考回路が、映画よりよっぽどホラーでしょ。てか、人の顔で笑い過ぎ。」



両腕を組みながら、男前な渋い顔をしている川野。



「俺も、増岡課長とかに頼めば?って勧めたんですけど、恵介が“上司で頼みづらいし、光さんと仲良いから駄目だ”って言ってました。」


「いや、増岡でも無いでしょ。今日は仕事はおまけで、デートだよデート!代理を考えてる根本が間違ってるよね。来れないって連絡すれば良いだけなのに。」


「⋯俺が来て、迷惑でしたか?」


ふと、山本から笑顔が消えた。


「いやいやっ!そんなんじゃなくて⋯。申し訳ないなと思ってて。協力してくれて、本当に助かったよ!ありがとうね!」


川野は、佐渡とデート出来ずにガッカリしている訳では無い。

むしろホッとしている。


ただ、佐渡が山本を巻き込んで、自分は連絡もよこさず雲隠れしていることに、腹を立ててるだけなのだ。



「川野さん、まだ時間あるんで、どっかでお茶しません?」


山本が提案して来た。

18:00ギリギリまで付き合ってくれるのか。

慈悲深い男だ。




2人は映画館近くのファミレスに入った。



「川野さーん。何が良いですか?」


タブレットを川野の方に向けながら、山本が聞いた。


「どうしようかな?ビールとつまみ系にしようかな。」


「ふふふっ、パフェとかパンケーキとかじゃないんですね。さすが川野さん。ブレないですね。」



どうやら山本にとって、自分の前で可愛いを意識せず、己の思いのままに行動する川野が、ツボらしい。


「じゃあ、俺もハイボール入れちゃおっかなぁ☆あっ、ここの食事代も恵介に請求するんで、遠慮なく行っちゃって下さい。」


山本がニッコリ笑って言った。


「よしっ!じゃあ、唐揚げと、フライドポテトと、サラダと⋯」


「もっと高いもの頼みましょうっ☆」



こうして2人は、時間いっぱいまで、佐渡の懐事情に全く遠慮をすることなく、飲み食いを繰り広げた。



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