探偵・増岡の推理
川野にとって、長い一日が終わろうとしていた。
午後はどうなるかと思ったが、途中で外回りの仕事が入ったので、川野は何とか気持ちの切り替えが出来たようだ。
「ただいま戻りました!これ、頼まれた物、受け取って来ました。よろしくお願いします。」
川野が倉庫に戻り、残務処理をしていると、増岡が周りを警戒しながら、そろりそろりと入って来た。
カチャンッ―
増岡はそっと、倉庫のドアの鍵をかけた。
(何をしているのだこの男は…。)
川野は、増岡に冷たい視線を送った。
「増岡課長、お疲れ様です。一体、何をしているんですか?」
すると、増岡はそわそわしながら川野の近くに寄って来て、声量を抑えつつ話し出した。
「一体、何をしてるんですか?じゃないよ!何をしてるんですか?は、お前の方だよ!佐渡から聞いたぞ。お前と佐渡が付き合う事になったって。もう、あいつの浮かれようったら。ご機嫌で外回りに行ったぞ。」
「まだ正式には付き合ってないし、例え付き合ってても、何か問題でも?」
川野は、面倒臭そうに答えた。
「大問題だね!佐渡が悪い男だとか、そういう事じゃない。お前は山本じゃなかったのかよっ!?」
「はっ!?」
普段は超鈍感な、増岡の名推理(?)が始まった。
「俺は、山本が昼休憩時に、いつも倉庫を訪ねていたのを知っている。俺の席から丸見えだからな。最初はあまり気にしていなかったが、俺がタイミングを見誤って倉庫のドアを開けた時、お前と山本がその、見つめ合っている光景を見て理解したよ。ズバリ!密会を楽しんでいるのだと。」
「密会て何よ!密会って。」
「しーっ!続けさせてくれ。そこから俺は、外回りの時以外は自分のデスクで飯を食べ、山本が倉庫を訪ねて来るのを観察していた。ささやかな楽しみになっていた。お前がここにいる時は、休憩時間めいっぱい倉庫から出て来ない。お前がいない時は、ドアを開けて確認して、すぐトボトボと経理部に戻っていくんだ。健気だねぇ。だから、俺はもうすっかり、2人はそういう仲だと思っていたんだよ。それがなぜ?佐渡なんだ?」
「あのね、山本係長は社内恋愛はしないって言ってたし、私にも興味がないってはっきり言ったの!暇を潰しに来ていただけなの!それを観察していたあんたは、もっと暇人!大体、佐渡係長だって、経理部の凪ちゃんだって、ここによく来てるし。妄想も大概にしてよっ…。」
増岡の勝手な憶測に、川野はイライラしていた。
今は、誰かの見解なんて受け入れる余裕がない。キャパオーバーだ。
本当はもう、一刻も早く家に帰り、自分の殻に閉じこもりたいくらいなのだ。
「酷い言われようだな!休憩時間くらい好きな事して良いだろっ!まぁ、俺も最近忙しかったから、観察をおざなりにしていた間に、何かあったのだろうが⋯。川野、お前は恋愛に対して、自分から動かないところがあるから。そのせいで今まで、何人もの男を泣かせてきたのも俺は知っているぞ。佐渡と付き合うなら付き合うで、ちゃんと向き合えよ。泣かせるなよ?」
増岡も、恋愛に関しては川野と同じぐらい鈍感で自分から動かない。
ただ、今日の増岡は、ひと味違う。
まるで、恋愛のエキスパートの様な口ぶりだ。
「……ありがと、増岡。佐渡係長の事は、ちゃんと大事にしたいと思ってるから。」
口うるさい!と思っても、何だかんだ、心配をしてくれる増岡に感謝する川野であった。
「俺ら今年で35歳だけど、せっかく恋愛のチャンスがあるなら、楽しまなきゃな!まぁ、40歳になってもお前が独り身だったら、俺が嫁にもらってやるから!」
ドヤ顔で決めセリフを言う増岡。
しかし、もちろん冗談だ。
将来、川野を嫁にもらおうなんて、これっぽっちも思っていない。
「増岡、それ、私だから良いけど、思わせぶりな事を気安く言わない方が良いよ?だいたい私に、今まで何人もの男を泣かせてきたって言ったけど、あんただって何人もの女子を泣かせてきたのを、私は知ってるからね!」
川野の調子が戻り、反撃が始まった。
増岡は、今まで口合戦で川野に勝ったことが無い。
ただ心配で、ここを訪ねただけなのに…。
今の冴え渡っている増岡なら、ワンチャン勝てるか?
いいや、無理だろう。




