2人のお疲れ様会
大型スーパーの屋上駐車場。
缶コーヒーを片手に、2人は営業車に乗り込んだ。
「…佐渡係長?」
「川野主任…。」
「イェーイッ!!」
パチッ!!!
2人はハイタッチを交わした。
無事に企画コンペが終わったのだ。
「やりきりましたね!先方の反応も良さそうなので、このまま選ばれますようにっ!」
助手席に座る川野が、はしゃぎながら拝んでいる。
「選ばれて当然ですよ。あれだけ力を入れましたからね。」
佐渡も、平静を装っているが、手応えを感じてニヤニヤが止まらない。
「もうすぐ定時ですね。では、会社に帰ったら、そのまま飲みに行きましょう。」
「楽しみにしてます!」
佐渡が、予約してくれた店は、カウンターの寿司屋だった。
地域に馴染んでいるような、昔ながらの寿司屋だ。
佐渡が自分へのご褒美で、よく行く店らしい。
「らっしゃい!お客さん、今日はデートですか?」
大将がいきなりぶっ込んで来た。
「違いますよ。会社の同僚です。今日は打ち上げです。」
「はははっ、すみません。お連れ様がいること滅多にないから、てっきり。お似合いに見えますけどね!今日は、いつものでよろしいですか?」
「よろしくお願いします。あと、瓶ビールにグラス2つ。」
佐渡の眉に少し皺が寄っている。
川野は、佐渡と一緒に釈明しても良かったが、これが大将の通常運転なのだろうと思い、愛想笑いを浮かべ、黙っていた。
「とりあえず、コンペお疲れ様でした。」
「お疲れ様です!」
お互い、グラスにビールを注ぎ合い、乾杯をした。
「はぁぁ〜っ。久々のお酒!天国だわ。」
川野は、企画コンペの仕事に取り組み出してから、今日まで酒を断っていた。
少しでもパフォーマンスを上げるためだ。
久々に解禁した酒の味は、どれだけ美味かったか。
「本当に、美味しいですね。」
佐渡が微笑んだ。
「鯛、とても美味しいです!」
「鯛好きですか?これから出てくる、鮪やいくらも美味しいですよ。」
次々と提供される、艶のある新鮮なお寿司たち。
2人は舌鼓を打ちつつ、企画コンペの話や、仕事への愚痴を繰り広げていた。
ところが、佐渡の様子が⋯⋯どんどん顔が赤くなって行くではないか。
「佐渡係長、大丈夫ですか?ソフトドリンク頼みますね。」
「すみません、ゆっくり飲んでるつもりだったのですが、油断してました。」
実は、佐渡は酒に弱いのだ。
グラス1杯程度なら、まぁまぁ飲めるのだが、今日は酒豪・川野のペースでビールを注がれてしまい、2杯目に突入していのだ。
「こちらこそすみません。勝手にお酒注いでしまって。」
「大丈夫です、顔に出やすいだけなので。」
佐渡は見栄を張ったが、疲れもあり、実際はけっこう酔っぱらっていた。
会計を済ませ、2人は寿司屋を後にした。
大将はニコニコしながら送り出してくれた。
「佐渡係長、今日はご馳走様です。とても美味しかったです。」
「いえ、これくらい。上司ですからね。」
佐渡の足が少しフラついている。
「大丈夫ですか?タクシー呼びましょうか?」
「いえ、少し休んだら大丈夫です。」
「じゃぁ⋯あそこのベンチに座りましょうか。」
2人は、目先にあった広場のベンチに腰をかけた。
川野は、近くの自動販売機でお茶を買い、佐渡に差し出した。
「ありがとうございます⋯。」
佐渡は、重くなった頭を上げ、お茶をチビチビ飲みだした。
目がトロっとしていて、長めの前髪が少し乱れている。
色白の肌は、首筋までうっすら赤く染まっている。
「⋯川野さんて、お付き合いされてる方いるんですか?」
いきなりの質問に、川野は困惑した。
どういう魂胆があるのか?
「今は特にいないですね。佐渡さんは、いらっしゃるんですか?」
とりあえず無難に答えた。
「僕は⋯。大将も言ってたでしょう?いませんよ。仕事一筋なもので。女性関係はあまり。」
「そうなんですね。まぁ、この仕事していると、例えお付き合いしても、なかなか会える時間とか作るの難しいですよね。」
「じゃぁ⋯好きな人は?」
佐渡は、川野の顔を見つめていた。
川野は、そこまで恋愛事情に切り込まれるとは思ってもみなかったので、どう答えるのが正解なのか分からない。
分からないが、間違えてはいけない。
間違えてはいけない?
自分には、好きな人なんていない!
好きなものか⋯。
「⋯いえ⋯いません。」
川野は、心の中に浮かんで来ようとした感情を、押し潰すように答えた。
その時だった。
チュッ―
!!
唇が、唇に重なった。
佐渡の腕が、そのまま川野の肩を優しく包みこんで行った。
「⋯⋯俺じゃ駄目ですか?⋯俺、嘘つけないんで。隠したり出来ません。⋯好きです、川野さん。付き合って下さい。」
真っ直ぐ川野を見つめる佐渡。
あまりの急展開に、頭が付いて行けない川野。
この先一体、どうすれば良いのか?
戸惑っていても、佐渡は容赦がない。
ずっと川野を見つめて、返事を待っている。
来る者拒まず⋯
去る者追わず⋯
「⋯考えさせて下さい。」
川野はそう呟いた。




