倉庫は怖くて嫌なので
企画コンペが、いよいよ明日に迫った。
佐渡が夜の倉庫を怖がるので、今日は定時で会社を後にし、川野の家で最終確認を行うこととなった。
「佐渡係長、本当にワガママですよ!」
「仕方ないじゃないですか。営業部のテーブルも、会議室も別チームが使ってたし、休憩スペースは人の出入りがあって集中出来ませんし。倉庫は怖くて無理ですし。」
川野は納得がいってなかった。
佐渡は潔癖症のため、自分の家には他人を入れたくないそうだ。
最近、仕事が忙しくて掃除もままならないのに、そこに辛辣で潔癖な、佐渡が来るなんて。
「ちょっ!ちょっとドアの前で待ってて下さい。一応、室内チェックするので。」
「大丈夫ですよ。川野主任の部屋が綺麗だなんて、これっぽっちも思ってませんから。」
相変わらず失礼な男だ。
そう思いながら、川野は部屋の中を急いでチェックして回った。
ガチャッ―
「汚い部屋ですが、どうぞ〜。」
「お邪魔します。」
パソコンと資料を両手にぶら下げ、佐渡が入って来た。
「⋯⋯ギリギリ大丈夫です。」
川野は、最低限の整理整頓を行なったが、どうやら潔癖の佐渡にとって、川野の部屋はだいぶ散らかっている様に見えるらしい。
「どうもすみませんねっ!最近、残業続きだったので、仕方ないんで。さぁ、そこに荷物置いてください。」
川野の家は1DKだ。
居間と寝室があり、居間にはソファーとローテーブルが設置してある。
大きなローテーブルは、仕事を持ち帰った時に、資料やパソコンを広げるのに最適だ。
横浜時代は、同僚達とよくこのテーブルを囲んで、持ち帰り残業をしたことも度々あった。
時には酒やつまみを持ち寄って、飲み会をしたこともある。どれも懐かしい思い出だ。
「さて、早速始めますか!」
2人は時間を計りながら、プレゼンテーションの予行練習を何回もやり、微調整を行なった。
次に、資料に不備がないか、隅々までチェックをした。
「よしっ!完璧ですね。川野主任、お疲れ様です。」
「ばっちりですね!これで明日、企画勝ち取りに行きましょうっ!」
連日の残業で、疲れも溜まっているだろうが、2人の顔は生き生きとしていた。
「21時か⋯。佐渡係長、お腹空きませんか?」
「あぁ、確かに。そうですね。」
川野と佐渡は、仕事が最優先の人間なので、夕飯も食べずにいた。
「他人の作ったご飯とか食べれますか?家の中にあるもので良ければ炒飯くらい作れますが。嫌ならカップ麺でも。あっ、もちろん帰っても大丈夫です。」
「⋯⋯炒飯でお願いします。」
意外な答えが帰って来た。
「じゃあ、サービスで冷凍餃子も付けますね!」
川野は、手の込んだ料理は作らないが、こういうスピード料理には慣れている。
トントントントンッ―
「佐渡係長、TVでも観ててください。すぐ出来ますから!」
「はい。」
「お待たせしましたっ!あり合わせですが、炒飯と冷凍餃子です。良かったら召し上がって下さい。」
川野がローテーブルに料理を運んできた。
佐渡はなぜか緊張している。
川野の料理を信用していないのか?
「いただきます。」
佐渡が炒飯を口に運んだ。
「(モグモグ)⋯⋯美味しいです。」
「良かった!佐渡係長は嘘を付かないので、美味しいは社交辞令じゃないってことですよね?私もいただきます(モグモグ)」
川野はニッコリ笑い、炒飯を食べ始めた。
佐渡の眉間に、皺が寄らなくて良かったと安心したのだ。
「⋯僕、普段は外食やテイクアウトばかりなので、こういう手作り料理は久々です。⋯ありがとうございます。」
「いえいえ、私も忙しい時は作ったりしないのですが、今日は気分が乗っていたのでね☆」
「ご馳走様です。」
「お粗末様です。」
川野は空になった食器を下げ、洗い始めた。
「佐渡係長、この時間だとまだ10分刻みで電車あるので。⋯⋯佐渡係長?⋯⋯佐渡さーん?」
佐渡の応答がない。
川野は慌てて、濡れた手を拭きながら居間へ戻った。
スヤスヤ―
なんと、佐渡がソファーに座ったまま、うたた寝をしてしまっている。
お腹がいっぱいになったからなのか、疲れがどっと押し寄せたのか⋯。
起こすべきか、そのまま寝かせてやるべきか?
川野は非常に迷った。
迷った挙句、声を掛けてみることにした。
「佐渡係長、明日は大事なコンペですよー。起きてくださーい。」
川野はソファーの手前で膝を付き、腕を軽く揺すりながら優しく声を掛けた。
佐渡の目がゆっくり開いた。
「⋯すみません⋯俺、寝てましたか?⋯」
「寝てましたよっ。やっぱ疲れてますよね。」
「あぁ⋯すみません。⋯つい心地良くなってしまって⋯。今何時ですか?」
「22時です。まだ電車はありますよ〜。」
「了解です。⋯⋯⋯川野さん、明日コンペ終わったら、2人でお疲れ様会しませんか?」
傾いた体を直しながら、佐渡は尋ねた。
「良いですね!美味しいお酒を飲めるよう、頑張りましょうね!」
「そうですね。頑張りましょう。」
佐渡が微笑んだ。
そうして佐渡は、川野の家を後にした。




