常連さんが増えました
「バレンタインだから、恋みくじとか設置するのはどうですか?」
「うむ。それだと良い結果が出なかった人が、告白の勇気を失くしてしまうのでは?」
「いやっ、そこは悪い結果を入れなきゃいいんですよ!運勢っていうより、応援メッセージみたいな!」
第一印象はイマイチだった2人だが、川野と佐渡は、意外と相性が良い様だ。
あの眉間に皺を寄せていた佐渡が、今ではこうして昼休憩まで削って倉庫まで出向き、パイプ椅子に座り積極的に川野と意見交換をしている。
同じくらい、仕事に対する熱量と技量がある、川野との話は尽きないようだ。
「おみくじも良いですけど、絵馬なんてどうです?恋愛成就コーナーみたいなものを設置して。七夕の短冊みたいに飾るスペースを作るんです。」
「良いですねっ!提案の具体例で載せましょう!…ところで、ここの色はやっぱりショッキングピンクが良いと思うんですけど…。」
「分かってないですね。そこはあえて品を保つために、パステルピンクにしてるんですよ。」
「いやいや、聞き捨てならないですね!ショッキングピンクだってポップで鮮やかで可愛いじゃないですか!」
当然、意見が食い違う事も多々ある。
今回は、設置するハートのオブジェの差し色の意見が合わない。
睨み合う二人。
この光景も、日常になりつつある。
ガチャッ―
「こんにちはぁ…。」
「おうっ!山本じゃん。どうした?」
佐渡が、親しげに声を掛けた。
あの一件以来、しばらく振りの山本の登場だ。
「おう、恵介。…ここにいるの珍しいね。」
「あぁ、今抱えてる案件の締め切りが近くてね。色々、話を詰めてるんだよ。川野主任は山本知ってますよね?僕と山本、同期なんですよ。なっ?」
佐渡は、山本が来たのが嬉しいのか、ニコニコしている。
「そうなんですね。お2人が同い年と聞いていたので、なんとなく予想してましたが。」
川野が相槌を打った。
「川野主任、アイディアを沢山出してくれるから、予想以上に良いものになりそうなんだ。面白い人だし。最初はどうなるかと思ったけど、今では良い相棒だよ。ねっ!……で?山本は何しに来たの?」
川野の胸がざわついた。
「……川野主任、これあげます。」
そう言って山本は、ぶっきらぼうに右手に持っていた紙袋を差し出した。
「ありがとうございます…。」
川野が受け取ると、それはジーンと温かく、甘い匂いの焼き芋だった。
700mlのペットボトルくらいのサイズの、大きい焼き芋だ。
「これ、こんなに大きいのもらっちゃって大丈夫?山本係長の分は?」
「いいんです。川野主任なら、これくらい1人で食べれるんじゃないですか?よく知らないですけど。……食べきれなかったら、恵介と半分こして食べてください。」
「山本お前、…妬いてるのか?」
佐渡がニヤニヤしながらチャチャを入れた。
「そんな訳無いだろ?別に興味ねえよ。」
ガチャン―
山本が行ってしまった。
「……なんか、すみません。川野主任が勝手にフラれた感じになってしまいましたね。」
バツが悪そうに佐渡が言った。
「うん。大丈夫…。」
川野は、そう答えるので精一杯だった。
「この焼き芋、いつも行列出来てる所のじゃないですか?温かいうちに食べた方が良いですよ?」
珍しく、佐渡が気を遣っている。
せっかく買って来てもらった、温かい焼き芋。
今は川野の喉を通れないであろう。




