初のバディは辛辣男
(かぁぁぁ~っ!何て男だ!何て男だ!何て男だ!!)
山本にからかわれ、すっかり心を乱している川野。
以前なら、軽くあしらう事も容易だったが、上手く切り返せなかったのが悔しくて仕方なかった。
川野は、お手洗いの鏡で身なりを整え、企画営業部へ向かった。
「川野主任、遅いですよ。この時間は渋滞するんで、もう出ますよ。」
佐渡係長が、眉間に皺を寄せながら、川野を待ち構えていた。
「はい!遅くなりすみません。…荷物を取って来ます。すぐ来ますっ!」
川野は慌てて、向かいの倉庫に入っていった。
「先に駐車場に行ってますよ!早くして下さいよ!……増岡課長、あの人大丈夫ですか?」
佐渡は呆れたように、増岡に問いかけた。
増岡は苦笑いを浮かべている。
「まぁまぁ。そそっかしい奴だけど腕は確かだから!仲良くしてやってくれ、な!」
「じゃぁ、僕が運転するので、助手席乗ってください。」
東京第二支社に来て、初めての外回りが始まった。
「チッ!大体ね、本社は仕事をこちらに投げるのが遅すぎるんですよ!企画コンペなんて、下準備が一番大変なのに。」
「いつもなんですか?」
「そうです。こっちだって忙しいのに、やりきれない期限ギリギリの仕事を急に投げて来るんです。”本社様”ですからね。全く。」
本社に対しての怒りと、渋滞へのイラつきで、佐渡の眉間の皺が深くなって行く。
その矛先は、川野へと向かった。
「大体、僕はあなたを認めてませんからね。横浜では係長だったと聞きましたが、どうだかっ。」
初対面から感じが悪いと思っていたが、こんなに面と向かって言う人なのか。
その横柄な姿は、かつて川野を左遷した、あの堀田課長を思い起こさせた。
(苦手なタイプだ…)
そう思いながらも、これ以上、佐渡の眉間に皺が寄らない様、川野は愛想良く相槌を打つのであった。
企画コンペ
今回は、翌年のバレンタインデーの案件だった。
大型スーパーの、バレンタイン特設会場のデザイン、イベント等を企画し、他2社のライバル会社と、競争するのである。
今日は、そのイベントを行うスペースの下見と、依頼主からのヒヤリングを行う。
トントンッ―
「失礼いたします。」
店長が出迎えてくれた。
「初めまして、三笠企画の佐渡と申します。この度はお忙しい中、お時間を頂き、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。」
佐渡は、ハキハキと爽やかに挨拶し、店長と名刺を交換した。
先程まで、悪態をついていた人とは思えない。さすが営業係長だ。
「三笠企画の川野と申します。よろしくお願いいたします。」
川野も無事、名刺交換を終えた。
「本日はご足労頂き、ありがとうございます。実は、今まで社内の方でやってんですが、年々売り上げが下がってましてね。この地域は、大手さんのショッピングモールもできちゃったし、通信販売で購入される、お客様も多くなってると思うのですが…。バレンタインて素敵じゃないですか。日頃の自分へのご褒美や、誰か大事な人への贈り物を、ドキドキ、ワクワクしながら購入していただきたいなと。予算はえーっと…このくらいでお願い出来たらと思います。」
店長の話をメモしながら、川野は感動していた。こういう、思いが込められた案件は特に大好きなのだ。
「三笠企画さん一本でお願いしても良かったのですが、エリアマネージャーがうるさくてね。競争という形になって申し訳ないですが、何卒よろしくお願いします。」
「かしこまりました!ご期待に添えるよう、尽力いたします!」
佐渡が立ち上がり、店長と熱い握手を交わした。
川野も握手を交わし、2人はその場を後にした。
ガチャッ―
自動販売機で缶コーヒーを買い、車に乗りんだ。
「いやぁぁ~、ああいう話をされると、何としてでも、うちがコンペに勝って実現させたいですね。」
運転席で伸びをしながら、佐渡が言った。とても機嫌の良さそうな顔だ。
「そうですね。とても温かい、地域思いの店長さんで、最後まで携わりたいと思いました。」
遠い目をしながら、川野は微笑んだ。
「さてっ!早速、会社に戻って取り掛かりましょう!」
「了解ですっ!」
2人は缶コーヒーを一気に飲み干した。
スーパーの屋上駐車場、空は雲一つない青空で、車の窓からは涼やかな風が舞い込んでくる。
(あぁ、何て気持ちのいい日なんだ。この仕事を辞めなくて、本当に良かった!)
川野の気持ちも、晴れ晴れしていた。
ただその後、再び渋滞のイラつきから佐渡に八つ当たりされ、心に暗雲が漂ったことは、言うまでもない。




