表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜  作者: 桃山あんづ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/67

対応しかねます

10月に入り、しばらく経った。

川野は、経理部の手伝いを無事に終え、倉庫のデスクに戻っていた。


ガチャッ―


「こんにちはぁ~。」


山本がやって来た。片手にはアイスを2つ持っている。


「川野さん、これあげます。期間限定のスイートポテト味ですって。」


いつものパイプ椅子に腰掛けながら、ニコッと笑い、そのうちの1つを差し出して来た。


「えっ!美味しそう!食べる!…⋯でも、経理の手伝いも終わったし、お礼もらい過ぎちゃってるよ。申し訳ない。ここも結構、涼しくなってきたし。」


「いえっ、川野さんのお陰で、クラブのイベントも行けましたし。ありがとうございました。」





経理部の中で、川野と山本は、特に親しく話さなかった。


仕事量が多くミスも許されないので、軽口を叩ける雰囲気ではないし、真顔キャラを通している山本を、崩壊させる訳にはいかなかった。


川野は、小林からランチに誘われ外食する事も度々あり、いつの間にかアイスのじゃんけん勝負も、消滅していた。



用も済んだし、こんな風に山本が訪ねて来ることは、もうないと思っていた。

正直、川野は戸惑っていた。



「(モグモグ)う~ん…。じゃあ、次は焼き芋、持ってきますよ。近くの広場に、焼き芋のキッチンカー来る時あるんで。美味しいですよ。」


「そうなんだ。じゃあ、来てたら教えて!買ってもらっちゃ悪いし、その場で食べた方が、きっと温かくて美味しいじゃん?」


「いいんです!俺が食べたくて、勝手に買ってくるんで。…川野さんは、ここで待ってて良いです。」


山本は一瞬ムキになり、不機嫌そうに言った。




モグモグ…モグモグ…




沈黙の時間が流れる。


甘くて美味しいはずのアイスが、口の中にその余韻を残せず、ひたすら2人の喉を通っていく。




川野は思い立った様に、口を開いた。


「そうだっ!山本係長、お願いがあります!」


「(モグモグ)…何ですか急に。」


「そこの奥の棚の上段に、平積みになった古いファイルがあるのですが…下ろしてもらえますか?山本係長、背高いので、お願い出来たらと思って。」


「結構あるんですか?」


「そうなんです!上部のスペースに、天井近くまで積まれていて。脚立はあるのですが、私、実は高所恐怖症で…。登れるんですけど、降りるのが苦手で…。手伝って頂けると嬉しいです!」


川野は頭を深く下げ、頭上に手を合わせて、精一杯お願いをした。


「ふふふっ、高所恐怖症なんて意外です。川野さんにも怖い事ってあるんですね。」


山本の、いつもの笑みが戻った。


「良いですよ。よろこんで。」





スタスタスタ―


「ここから、ここまでのファイルです。古いものなので、もう保管期間も過ぎてそうで…チェックしたいんです。」


「了解です。もう取り出して良いですか?」


「ありがとうございます!お願いします!」


上から順に、山本に取ってもらい、川野はそれらのファイルを、用意した段ボールに入れって行った。


「うわっ!けっこう埃舞いますね。係長大丈夫ですか。マスク持って来ましょうか?」


「俺は大丈夫です。すぐ終わりますよ。」


山本は文句ひとつ言わず、涼しい顔で次々とファイルを下ろしてくれた。

なんとも頼もしい男だ。


「ここなら私も届くので。よいっしょ!」


残り少しになった平積みのファイル。川野は身長が165cmあるので、手が届く上段手前のファイルを取ろうとした。

その時だった。


「あぶないっ!!」


川野には見えていなかった、奥のファイルの山が崩れ、落ちて来たのだった。


「痛っ!!」


山本はとっさに手でキャッチしようとしたが、数冊のファイルが、川野の頭に見事に命中した。


幸い、中身の入っていない軽いファイルだったが、それでも多少、痛かっただろう。



「大丈夫ですか?俺が全部下ろすから、待っててくれれば良かったのに…。」


山本は、床に落ちたファイルを拾い上げながら、そう言った。


「川野さんて本当にせっかち…ふふっ、はははっ。」


山本は、川野を見て笑い出した。


「ハクションっ!何?何笑ってるの!?人が痛みに耐えてる時に!」


「いやっ、すみません。ふふふっ、これ。でっかい埃ついてます。」


そう言って山本は、川野の頭に付いた、たんぽぽの綿毛くらいの埃を払ってやった。


「うわっ!でっか!汚っ!他に付いてないっ?」


川野は焦った。午後から外回りに行くため、埃を付けて行く訳にはいかない。


「そうですねぇ〜…。」


山本は川野の周りを一通りチェックして、そっと川野の顔を覗き込んだ。



「ついでにキスでもしておきます?」



山本の唐突な言葉に、川野は目を見開き、固まってしまった。

耳は真っ赤になっている。




「……ふふっ、冗談ですよ。」


山本は、パッと顔を離し、意地悪な笑みを浮かべた。


「係長!ありがとうございました!自分、これから外回りなので…失礼しますっ!!」



そう言って川野は、後片付けもせずに、倉庫から逃げるように出て行った。



純情乙女かっ!





川野光35歳

歳を重ねても、対応しかねる事は、まだまだ沢山あるのであった。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ