2人の仲はどの程度?
「わぁぁ~もう、この香りだけで美味しいよね。」
テーブルに提供された、出来立ての料理たち。
餃子&八宝菜にお供する、冷えたレモンサワー、最高である。
向かいに座る山本は、ラーメンとチャーハン、ハイボールを注文した。
「とりあえず乾杯っ!いただきますっ!(グビグビ)はぁ…もう間違いない!」
「(グビグビ)ふぅっ⋯そういえば、さっきから何ぶら下げてるんです?それ。」
山本は、川野の脇を指さした。
「あ、これ?⋯えっへっへ、酒屋さんでゲットしたんですよ。泡盛とおつまみですっ!」
川野は自慢げに、大きな袋を掲げた。
「ふふっ。へぇー、川野さんて焼酎飲むんですね。ビール大ジョッキってイメージでした。」
意地悪そうな顔でそう言いながら、山本はラーメンをすすった。
川野は”ビール大ジョッキのイメージ”という、なかなかの失礼な発言を気にも留めず、生き生きと、前のめりに語り出した。
「ビールも好きだよ。ハイボールも好き。レモンサワーも好きだし。甘くないやつなら何でも好きかも。でも泡盛が一番好き!一口飲んだ瞬間、頭の中に青い空、青い海、白い砂浜のイメージが浮かんで、三線の音が穏やかに流れてくるんだよね。癒しの楽園って感じ。沖縄行ったことないんだけどね。山本係長は?」
「ふふっ、めっちゃ語りますね。”係長”はいらないですよ。社外だし、俺の方が年下なんで。」
「そう?じゃあ、山本君?…偉そうか。山本さんで行こう。山本さんは何が好きなの?」
「俺は、ウイスキーのロックか、ハイボールですね。ウイスキー好きなんです。クラブとかで飲む時は、テキーラとかカクテルとかもよく頼みます。」
そうだそうだ、この男は、夜の街を遊び歩くシティーボーイだった。
自分ももう少し、お洒落な酒を挙げておけば良かったと、川野は後悔した。
「ねぇ、ラーメンとチャーハンだけじゃ、お酒進まないんじゃない?これ、良かったらどうぞ。」
そう言って川野は、餃子と八宝菜を皿に取り分け、山本に差し出した。
「ありがとうございます。逆に川野さんは、ごはん頼んでないので。チャーハンあげます。」
「あっ、ありがとう。…いただきます。」
2人は料理をシェアし出した。
美味しいものに釣られて、軽々しくここまで付いてきたが、よく考えたら自分と山本は、どの程度の仲なのか。
アイスは何回か一緒に食べたし、期間限定の上司ではあるが…。
スッと通った鼻筋。切れ長の目は下を向くと、まぶたの奥から二重が少し現れる。
猫背気味になり、大きい肩を丸めながら、もりもりチャーハンを頬張っている。
(ハンサムと可愛さが、行ったり来たりしている⋯。)
川野がまじまじと観察していると、それを察した山本がバチっと!視線を合わせてきた。
(おっ!目力強っ!)
川野は思わず、両手をかざし、”眩しい”とジェスチャーをした。
「ふふっ、もう酔っぱらってるんですか?耳赤いですよ。もっとお酒強いと思ってました。早く食べないと、料理冷めちゃいますよ。」
「はい…。」
耳が赤い?
川野は、全く酔っていないが、そういうことにしておこう。と心に決めたのであった。
「はぁぁ~。全てが美味しかった。お腹いっぱい。」
2人は満足そうに、店を出た。
「今日はご馳走するって言ってるのに、結局払っちゃうんですね。」
山本は少し不機嫌そうだ。
「いや、ここは割り勘でしょ!でなきゃ気軽にごはん行けないよ。」
「そうですか?⋯じゃあまた今度。次はご馳走させて下さい。」
しばらく話しながら歩いていると、分かれ道に差し掛かった。
「さてとっ。山本さんはあっちだったよね。じゃあここで。お疲れ様です!」
「あっ!待ってください。…川野さんて、せっかちですよね。…⋯もう遅いんで、嫌じゃなければ家の近くまで送りますよ。」
「えっ?まだ23時前だよ?家も逆方向だし、1人で普通に帰れるから大丈夫だよ!」
家の近くまで送る?
今までそういう事を言う男性に、出会ったことがない川野は、あっさりと断った。
「でも、夜道は物騒だし、川野さんもそれなりに…なんで、気を付けた方が良いですよ。」
「大丈夫!大丈夫っ!見た目強そうって言われるし、声も大きいから。じゃあ、また明日!」
ニコッと笑い、大きな袋を大事そうに抱えながら、川野は帰っていった。
奢らせてもくれないし、送らせてもくれない…。
(本当に変わった人だなぁ。あんなに無防備だと心配になるよ…)
昼間の暑さは残るが、夜風は徐々に秋めいてきている。
山本は、少し寂しそうな顔をしながら、川野の背中を見送った。




