表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の血統  作者: ノニ
12/13

6a

王妃アーヴェレッヘの葬儀が終わった後。

カルヴェスは地下監視牢から姿を消した。

破壊された拘束術式。 凍りついた鉄格子。 倒れ伏す騎士達。

残されていたのは、 吹雪のような膨大な魔力痕だけだった。

報告を受けた家臣達は騒然となった。

すぐに追手を出すべきだ。 国家反逆罪で指名手配すべきだ。 禁術研究者として処刑対象に――

誰もがそう進言した。

だが、玉座に座るアルヴェインは、 静かに言った。


「追う必要はない」


広間が凍りついた。


「陛下……!?」


側近が息を呑む。

アルヴェインは書類へ視線を落としたまま、 淡々と続けた。


「好きにさせろ」


その声には、 怒りも憎しみもなかった。

ただ、 長い戦いが終わったような静けさだけがあった。


その日から、 王都では噂が広まった。

王アルヴェインは冷酷な男だ、と。

母を壊した、弟を切り捨てた、 逃亡しても追わなかった。

王ですらなく、 化け物だと囁く者もいた。


だがアルヴェインは気にしなかった。

執務室の窓から空を見上げ、 僅かに目を細める。


――生きたか。


その事実だけで、 十分だった。

もう禁術でも、 母でも、 王家でもない。

どこでもいい。

誰にも縛られず、 弟が生きていてくれるなら。

それだけで良かった。




それから数百年――

アルヴェインは王として国を治め続けた。

王妃に恵まれ、 子を授かり、 老いてなお民に敬われた。

名君だった。

だが晩年になっても、 アルヴェインは時折、 遠くを見るような目をしていた。

誰を思い出しているのか、 家族は皆知っていた。

ある夕暮れ、死期を悟ったアルヴェインは、 寝台で静かに横たわっていた。

周囲には王妃と、 成長した子供達。

その中の一人が、 ずっと胸に抱いていた疑問を口にする。


「……叔父上は、何故探さなかったのですか」


静かな問いだった。

アルヴェインは、 しばらく黙っていた。

窓から差し込む夕陽が、 老いた横顔を赤く染める。

やがて彼は、 小さく息を吐いた。


「……生きていてくれさえすれば、何も望まない」


その言葉に、 部屋は静まり返った。

王としてではない。

兄としての、 たった一つの願いだった。

アルヴェインはゆっくり目を閉じる。

長い人生だった。

守れたものもある。

壊したものもある。

だが最後の最後で、 彼の脳裏に浮かんだのは、 王国でも家族でもなかった。


雪の日に笑っていた、 幼い弟の姿だった――


乾いた唇が、 静かに動く。


「……一目でいいから」


呼吸が浅くなる。


「姿を……見たかった」


それが、アルヴェイン王の、 最期の言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ