第九章 小さな扉の発見
金の鍵を手に入れたリサは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
(これで……帰るための道が開けるんだ)
白ウサギがぴょんと跳ねながら言う。
「次は小さな扉を探さなきゃね! でも、あれは本当に小さいんだよ。見つけるのが大変なんだ」
帽子屋も頷く。
「ワンダーランドのどこかにあることは確かだが、場所は気まぐれに変わる。
“探そうとしない者”の前にしか現れないとも言われている」
「探そうとしない者……?」
リサは首をかしげた。
「探さなきゃ見つからないのに、探すと見つからないって……どういうこと?」
チェシャ猫が木の上に現れ、にやりと笑う。
「ワンダーランドはね、焦っている者には意地悪なんだよ。
心を落ち着けて、ただ歩けばいい。そうすれば、扉のほうから君を見つけてくれる」
「……なんか難しい」
「難しくないさ。君はもう、十分に“帰りたい理由”を持っている」
チェシャ猫は意味深に言い残し、また姿を消した。
リサは深呼吸をした。
(焦らない……焦らない……
翔子に謝りたい気持ちも、シャロンさんに会いたい気持ちも、ちゃんと胸にある。
だから、きっと見つかる)
リサは歩き出した。
◆ 扉が現れる瞬間
しばらく歩くと、森の木々が少しずつ開けてきた。
風が柔らかく吹き抜け、草の香りが漂う。
白ウサギが耳をぴくりと動かす。
「……なんか、変だよ」
「変って?」
「空気が……静かすぎる」
帽子屋も足を止めた。
「これは……“扉が近い”ときの気配だ」
リサは胸が高鳴るのを感じた。
(本当に……?)
そのときだった。
草むらの中で、何かがきらりと光った。
「……あれ?」
リサはしゃがみ込み、草をかき分けた。
そこには――
手のひらほどの小さな木製の扉が、ぽつんと立っていた。
「見つけた……!」
白ウサギが目を丸くする。
「ほんとに出てきた! すごいよ、リサ!」
帽子屋も感心したように言った。
「君の心が落ち着いたからだよ。
ワンダーランドは、そういうところなんだ」
リサは金の鍵を取り出し、小さな扉の鍵穴にそっと差し込んだ。
カチリ。
扉がゆっくりと開く。
その向こうには――
豪華絢爛な赤い絨毯が敷かれ、金色の柱が並ぶ、壮麗な城の入り口が広がっていた。
「これが……ハートの女王の城……!」
白ウサギが震える声で言う。
「ここから先は……本当に気をつけてね。女王は気まぐれだから」
帽子屋も真剣な表情になる。
「でも、君なら大丈夫だ。
君は“帰る理由”を持っている。
それは、どんな魔法よりも強い」
リサは深くうなずいた。
「ありがとう。行ってくる」
小さな扉をくぐり、リサは女王の城へと足を踏み入れた。
その背中には、もう迷いはなかった。




