第七章 芋虫とキノコの秘密
キノコの森は、まるで巨大な傘が無数に並んでいるようだった。
赤、青、紫、縞模様、星柄……色も形もバラバラで、どれも現実では見たことのないものばかり。
「うわぁ……ここ、写真撮りたい……」
思わずスマホを取り出そうとしたが、ポケットは空っぽだった。
「あ、そうだ……持ち物、全部置いてきちゃったんだっけ」
少し寂しくなったが、すぐに気持ちを切り替える。
(鍵を見つけなきゃ。帰るために)
帽子屋が前を指差した。
「ほら、あそこ。煙が見えるだろう? あれが芋虫のところさ」
白い煙が、ゆらゆらとキノコの隙間から立ち上っている。
リサは駆け足で近づいた。
◆ 気難しい芋虫との対面
煙の元にたどり着くと、巨大な青い芋虫がキノコの上に寝そべっていた。
長いパイプをくゆらせ、ゆっくりと煙を吐き出している。
「……誰だい、君は」
低く、どこか眠たげな声。
リサは胸を張って名乗った。
「私はリサ! 帰り道を探してるの。小さな扉の鍵を持っているって聞いて!」
芋虫は半眼のまま、じろりとリサを見た。
「帰り道……ねぇ。そんなもの、探してどうする」
「帰りたいからだよ! 私、やらなきゃいけないことがあるの!」
芋虫はパイプをくゆらせながら、ふぅっと煙を吐いた。
「……ふむ。君は、他の者たちとは違うようだ」
「違うって?」
「ここに来た者の多くは、帰ることを諦めてしまう。
だが君は……まだ“外”に未練がある」
リサはむっとした。
「未練じゃないよ! 帰るのは当然でしょ!」
芋虫はくすりと笑った。
「まぁいい。鍵が欲しいのだろう?」
「うん!」
芋虫はゆっくりと体を起こし、巨大なキノコを指差した。
「このキノコを食べなさい。
片方をかじれば小さくなり、もう片方をかじれば大きくなる」
リサは目を丸くした。
「えっ、そんな魔法みたいな……」
「魔法ではない。ここでは常識だ」
帽子屋が横から補足する。
「小さな扉は、普通の大きさじゃ通れないんだ。
だから、体を小さくする必要がある」
白ウサギも頷く。
「鍵も高いところにあるから、大きくなる必要もあるんだよ」
リサはキノコを手に取った。
「……これを食べれば、鍵が取れるんだね?」
芋虫はゆっくりと頷いた。
「ただし、気をつけなさい。
大きくなりすぎても、小さくなりすぎても……戻れなくなる」
リサは息を呑んだ。
(戻れなくなる……?
でも、やるしかない)
胸の奥に、翔子の困った顔が浮かぶ。
(ちゃんと謝りたい。
だから――絶対に帰る)
リサは決意を込めてキノコを握りしめた。
「ありがとう、芋虫さん。絶対に成功させる!」
芋虫は再びパイプをくゆらせ、煙の向こうで微笑んだ。
「行きなさい。君の道は、君にしか歩けない」
リサは大きくうなずき、キノコの森を駆け出した。




