第五章 出口を塞ぐトランプ兵
ティーパーティーがひと段落したころ、リサはふと周囲を見渡した。
「ねぇ、この世界って……どこから来て、どこから帰るの?」
帽子屋はティーカップをくるくる回しながら、曖昧に笑った。
「帰り道かい? そりゃあ……あるにはあるよ」
「あるの? じゃあ――」
「でも、今は通れないんだ」
帽子屋の声が、ほんの少しだけ沈んだ。
リサは眉をひそめる。
「通れないって……どういうこと?」
白ウサギがぴょんと跳ねて、慌てたように言った。
「トランプ兵が通路を塞いでるんだよ! ぎっしりと! もう、ぎゅうぎゅうに!」
「えぇ……なんでそんなことに?」
チェシャ猫が木の上に姿を現し、尻尾をゆらゆら揺らしながら言った。
「さぁねぇ。女王の命令だって噂だけど……真相は誰にもわからないさ」
「女王の……命令?」
リサは思わず立ち上がった。
「じゃあ、女王に聞けばいいじゃん! なんで通れないのかって!」
帽子屋は困ったように帽子のつばをいじる。
「女王の城はね、小さな扉の向こうにあるんだ。普通の大きさじゃ通れない」
「小さな扉……?」
「そう。鍵も必要だし、扉の場所もわかりにくいし……まぁ、難しいんだよ」
リサは腕を組んで考え込む。
(帰れない……?
でも、私、帰らなきゃ。
翔子にも、シャロンさんにも……ちゃんと謝らなきゃいけないし)
胸の奥がきゅっと痛む。
そのとき、白ウサギがリサの袖を引っ張った。
「出口、見に行ってみる?」
「うん、行く!」
白ウサギに案内され、リサは森の奥へ進んだ。
道はくねくねと曲がり、木々はどれも奇妙な形をしている。
やがて――
「……ここだよ」
白ウサギが指差した先に、巨大なアーチ状の通路があった。
その通路を埋め尽くすように、トランプ兵たちがぎっしりと並んでいる。
「うわっ……なにこれ……!」
兵士たちは一糸乱れぬ隊列で立ち、盾を構え、通路を完全に塞いでいた。
しかも、奥から次々と新しい兵士が湧き出してくる。
「無限……?」
リサは思わず後ずさった。
白ウサギが肩を落とす。
「ね? これじゃ通れないんだよ……」
「ちょっと押してみたらどう?」
「押したら増えるんだよ!」
「増えるの!?」
「そう! 押すと“押された分だけ”増えるの!」
「意味わかんない!」
リサは頭を抱えた。
時々トランプ兵士の動きがぎこちなくなります。
「え?何?」
「コマ落ちだよ…こんだけいるんだ、バグってる奴がいるのさ」
チェシャ猫が木の上からひょいと顔を出す。
「だから言ったろう? 帰り道は塞がれてるって」
「じゃあ……どうすればいいの?」
「さぁねぇ。女王に聞くしかないんじゃない?」
帽子屋もやってきて、深刻そうに言った。
「女王の城は、小さな扉の向こうだ。鍵を探さないといけない」
リサは拳を握った。
「よし……行こう。鍵を探して、女王に会って、帰り道を開けてもらう!」
白ウサギが目を丸くする。
「えっ、行くの!? 危ないよ!」
「大丈夫。だって――」
リサはにっと笑った。
「帰らなきゃいけない理由があるから」
夕暮れのような虹色の空が、リサの背中を照らした。
こうして、リサの“本当の冒険”が始まった。




