第四章 アリスの仲間たちとの出会い
まぶたを開けた瞬間、リサは思わず息を呑んだ。
「……なに、この世界……」
目の前には、絵本からそのまま飛び出したような光景が広がっていた。
巨大なキノコが森のように立ち並び、
宙にはティーカップがふわふわと漂い、
足元の花々は、まるで人間のように表情を変えている。
「わぁ……すご……!」
リサは思わず駆け出した。
現実では重かった足取りが、ここでは羽が生えたように軽い!
草原の風は甘い香りがして、空は虹色に揺れている。
現実ではありえない色彩が、視界いっぱいに広がっていた。
そのとき――
「おやおや、新入りさんかい?」
背後から声がした。
振り返ると、そこには大きな帽子をかぶった男が立っていた。
帽子屋だ。
絵本で見たままの姿なのに、妙にリアルで、妙に人間らしい。
「えっ……ほんとに帽子屋さん?」
「もちろんさ。ここはデジタルワンダーランド。なんでもありの世界だよ」
帽子屋はにやりと笑い、リサの手を取った。
「さぁ、歓迎のティーパーティーへようこそ!」
案内された先には、長いテーブルが置かれていた。
その上には、色とりどりのケーキや紅茶がずらりと並んでいる。
「すごっ……! これ全部食べていいの?」
「もちろんさ! さぁさぁ、遠慮はいらないよ!」
帽子屋が手を叩くと、白ウサギが慌てた様子で走ってきた。
「遅刻だ遅刻だ! 新入りの歓迎会に遅刻だ!」
「白ウサギまで……!」
リサは笑いながら席についた。
紅茶を一口飲むと、ふわっと花の香りが広がる。
「おいしい……!」
映画館のポップコーンよりも、ティーパーティーの紅茶の香りの方が数倍リアルに感じる
「だろう? ここは夢の世界だからね。味も香りも、現実よりずっと鮮やかなんだ」
帽子屋が胸を張る。
そこへ、木の上から声が降ってきた。
「楽しんでるかい?」
見上げると、チェシャ猫が枝の上でにやにや笑っていた。
「チェシャ猫まで……! ほんとに全部そろってるんだ……!」
「何言ってるのさ?」
「そうだよワンダーランドの住人はもっともっと沢山いただろ?」
「そうなの?あたしはアニメと絵本の不思議の国のアリスしか知らないから」
「それは残念、原作にはもっと色々なキャラクターやエピソードが載っているんだよ」
「そうなんだ」
リサは胸が高鳴った。
映画の疲れも、翔子とのすれ違いも、全部忘れてしまいそうだった。
「ねぇ、ここって……ずっと遊んでていいの?」
リサがそう尋ねると、帽子屋は一瞬だけ表情を曇らせた。
ほんの一瞬…ノイズが走った様に。
けれど、確かに曇った。
「……まぁ、楽しめるうちは楽しむといいさ」
「え?」
「さぁさぁ! ケーキのおかわりはいかがかな!」
帽子屋は明るく話題を変えた。
その不自然さに、リサは少しだけ首をかしげる。
(……なんか、変?)
でも、すぐに甘いケーキの誘惑がその違和感を押し流した。
「おかわりする!」
リサは笑顔で皿を差し出す。
そのとき、チェシャ猫が木の上からぼそりと呟いた。
「……帰り道のこと、まだ知らないんだねぇ」
「え? なにか言った?」
「なんでもないさ」
チェシャ猫はにやりと笑い、姿をふっと消した、一瞬のノイズを残して。
リサは首をかしげたまま、ケーキを口に運ぶ。
甘い。
美味しい。
楽しい。
――でも、胸の奥に小さな不安が芽生え始めていた。




