第十二章 現実への帰還と王様の正体
光に包まれた通路を抜けた瞬間、リサはふっと体が軽くなるのを感じた。
次に目を開けたとき――
そこは、ショッピングモールの特設会場だった。
「……戻ってきた……?」
リサはゆっくりと身を起こした。
丸いカプセルの蓋が開き、外の空気が流れ込んでくる。
さっきまでいたワンダーランドの鮮やかな色彩は消え、
代わりに蛍光灯の白い光がまぶしく照らしていた。
「お嬢さん、お目覚めですかな?」
聞き慣れた声がして、リサは顔を上げた。
白衣の博士が、満面の笑みで立っていた。
「デジタルワンダーランドはいかがでした?」
リサはしばらく博士を見つめた。
ワンダーランドでの出来事が、頭の中で一気に蘇る。
帽子屋。
白ウサギ。
チェシャ猫。
芋虫。
そして――ハートの女王。
(……王様)
リサはゆっくりと立ち上がり、博士に歩み寄った。
「ねぇ博士」
「はい、なんでしょう?」
リサはにやりと笑った。
「なかなか楽しかったわよ、王様」
博士の表情が、ぴたりと固まった。
「…………」
リサは腕を組んで言った。
「トランプ兵に命令して、通路を塞いでたのって……あなたでしょ?」
博士はしばらく沈黙したあと、深いため息をついた。
「……やれやれ。バレていましたか」
そして、白衣のボタンを外し始めた。
リサは目を丸くする。
「えっ、なにして――」
白衣を脱ぎ捨てた博士の下には、
ワンダーランドで見たものとそっくりの、
小さな金色の王冠が輝いていた。
「わたくしが……ハートの王でございます」
博士――いや、王様は恥ずかしそうに頭をかいた。
「女王が悔しがっていると思いましてね。
訪れた人々に負け続けてしまうのが、どうにも忍びなくて……」
「だからって、閉じ込めるのはダメでしょ!」
リサが言うと、王様は肩をすくめた。
「反省しております。
しかし、あなたのおかげで女王も満足したようですし……
これで、しばらくは大人しくしていられそうです」
リサは呆れたように笑った。
「まったく……変な王様」
王様は胸に手を当て、深々とお辞儀をした。
「あなたの冒険に感謝します、リサ殿。
またいつでも、デジタルワンダーランドへお越しください」
「もう閉じ込めないでよ?」
「もちろんですとも」
王様はにっこり笑い、カプセルのひとつに乗り込んだ。
「では、わたくしは戻ります。
女王が待っておりますので」
カプセルの蓋が閉まり、柔らかな光が灯る。
次の瞬間、王様の姿はデジタルの光に溶けるように消えていった。
リサはしばらくその場に立ち尽くし、
そして大きく息を吐いた。
「……あたしも帰ろう。“樹”に」
夕暮れの風が吹き抜け、リサの金髪をそっと揺らした。




