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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第73話 中央医療棟/2054/風が隠す罪

 



 中央医療棟。


 隔離病室前。


 認証ロック解除音がして、自動ドアが開く。


 白い病室、窓際のベッド。


 そこに座る少年が、ゆっくり顔を上げた。


 白く整った顔。


 黒髪。


 細い身体。


 けれどその鋭すぎる視線だけは懐かない猫のようだった。


 柊を見るなり、蓮の眉が寄る。


「……蒼真は」


 不躾どころではなかった。


 柊は苦笑する。


「会議だ」


「なんで来ない」


「お前のために働いてるんだろ。あの人がどれだけ忙しいと思ってるんだ」


 蓮はおし黙る。


 不満そうだった。


 隠そうともしない。


 柊は巨大な紙袋をベッドへ置いた。


「見舞いだ」


「……何これ」


「統括主任セレクトの品だ」


 嘘だった。


 三割くらい柊の趣味だ。


 蓮は袋を漁る。


 そして一際存在感を発する黒猫型クッションに目を止める。


 数秒の気まずい沈黙が流れた。


「……この、クッション」


「黒猫」


「見れば分かる」


 蓮は真顔だった。


 柊は吹き出しそうになったが真顔を維持した。


「統括主任は“これは外した方がいい”って言ったんだけどな」


「じゃあ何で入れた」


「似合うと思って」


「誰に」


「お前」


 蓮は嫌そうな顔をした。


 でもそっとベッドの端へ置く。


 柊はそれを見て少し笑った。


 蓮はそんな柊をじっと見る。


「……柊」


「ん?」


「あんた、ちょっと変わった。蒼真と、何かあった?」


 一瞬、空気が止まった。


 柊は目を細める。


 蓮の視線は鋭かった。


 十二年間閉じ込められて育ったせいで、感情表現は歪だ。


 でも執着だけは異常に強い。


 自分の“唯一”へ近づく存在を、本能で察知する。


「気のせいだろ」


「嘘だ」


 即答だった。


 柊は少し黙る。


 蓮はベッドの上で膝を抱えたまま、低く呟いた。


「蒼真の話をする時のあんた、少し違う」


 その言葉に、柊の喉が詰まる。


 蓮は感情を知らない。


 人間関係の“常識”を知らない分、本質だけを見抜く。


「……柊」


「何だ」


「蒼真に変なことしたら殺す」


 静かな声だった。


 脅しでも冗談でもない。


 本気だ。


 柊は数秒黙ったあと、小さく笑う。


「怖いな、お前」


「本気だから」


「ああ、知ってる」


 戦闘訓練中もそうだった。


 蓮は誰にも興味を示さない。


 同期兵にも、教官にも、AIにも。


 でも蒼真の名前だけには反応する。


 まるで、呼吸するみたいに。


「……蓮」


 柊が壁へ寄りかかる。


「もう少し他人に興味を持て」


「必要ない」


「……」


「蒼真がいればいい」


 迷いが無さすぎて、取り付く島もない。


 柊は息をついた。


「それ、本人にはあまり言うなよ」


「なんで」


「統括主任は、そういうのは苦手だからだ」


 蓮は黙って少し考える。


「……何で?」


「“必要とされる”ことには慣れてる。でも、“執着される”ことには慣れてない」


 蓮は理解できない顔をして眉を寄せた。


 柊は小さく笑う。


 この少年は、感情を知らない。


 だから愛情表現が全部極端だ。


 守りたい。


 触れたい。


 独占したい。


 それが“重すぎる”とは自覚していない。


「お前、そのうち統括主任を()()()()困らせるぞ」


「それは嫌だ」


「でも離れる気もないだろ」


「ない」


 やっぱり即答だった。


 柊は天井を仰ぐ。


 もうどうしようもないな、と思う。


 柊はため息をついて、大きな手で蓮の黒髪を軽く掻き回した。


 蓮が露骨に嫌そうな顔をする。


 でも払い除けない。


 完全には嫌っていない証拠だった。


 柊は改めて思う。


 この少年はおそらくこれから先、蒼真を誰よりも深く愛してしまう。


 世界と引き換えにしても構わないほどに。


 だからこそ、自分が蒼真の隣にいられる時間は、きっとそんなに長くない。


 柊は、苦い予感が胸に広がるのを感じていた。

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