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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第71話 中央監視ブリッジ/2054/秘密の硝子で遊ぶ猫

 



 ────月のない夜。


 特別第七研究都市区画中央統括棟。


 中央監視ブリッジ。


 都市全域を見渡せる巨大ガラス窓の前で、蒼真は一人立っていた。


 下層区域のネオンが滲んで見える。


 AI管理下の都市は、巨大な電子回路だった。


 人間すら、その中の部品に見える。


「……またそんな顔してる」


 背後から声がした。


 振り返らなくても分かる。


 アレクシスだった。


 金の髪を持つ、長身の強化兵士。


 軍用コートを無造作に羽織り、壁へ寄りかかっている。


 鋭いアイスブルーの目が、蒼真を眺めていた。


「最近ちょっとマシな顔になったと思ったのに」


「何しに来たの」


「別に。通りかかっただけ」


 嘘だ。


 この男はいつもそうだ。


 気まぐれな猫みたいな顔をして、妙に人を見ている。


 アレクシスは蒼真へ近づく。


「禁断症状は?」


「……落ち着いてる」


「へえ」


 その瞬間だけ、面白そうにアレクシスの目が細くなる。


「誰かに埋めてもらった?」


 蒼真の喉が詰まる。


 アレクシスは笑った。


「図星かよ」


「……うるさい」


「で、誰?」


「アレクには、関係ないよ」


 蒼真は顔をしかめてべっと舌を出した。


 年相応の、青年らしい珍しい反応だ。


 折角蒼真が舌を出したので、アレクシスは素早くキスをした。


「っ!」


 アンカーの味がする、いつものキスだ。


(柊のほど濃くないけど、比べたら甘いし頭がくらくらする。酒みたいだ。)


「……だれと比べてんだ」


 にやにやしながら考えていることを見抜かれる。


 だが十五からの付き合いの相手にいちいち慌てたりはしない。


「うん。やっぱりアンカーでも人によって味や濃度が違うみたいだ。今度サンプル採らせてくれ」


「ふーん」


「……それよりアレク、俺が禁断症状起こすの分かってて五日もほっといたな……覚えとけよ」


「悪い。でも禁断症状出てるお前っていつもよりとんでもなく可愛くて色っぽいからさ~」


「…………」


 ぎろっと音がしそうなほどアレクシスを睨みつけた。


 軽く笑って、アレクシスはそれ以上聞かなかった。


 興味本位で触れてくるくせに、妙なところで踏み込まない。


 だから余計に掴めない。


「でも気をつけろよ」


 窓の外を眺めながら、アレクシスがぼそりと言う。


「俺達みたいな人間は、一回“本当に安心できる相手”を覚えるともう終わるから」


「…………分かってるよ」


 一言だけ言って蒼真は黙る。


 その沈黙だけで十分だった。


 アレクシスは苦笑する。


「もう手遅れっぽいな」


「そんな事、無い」


 その時、監視ブリッジ入口の自動ドアが開いた。


「統括主任、次回会議の────」


 入ってきた柊が、一瞬だけ言葉を止める。


 アレクシスと蒼真。


 二人の距離と空気。


 それを見て、柊の目が僅かに細くなった。


 ほんの僅かだった。


 普通の人間なら絶対気付かないくらい小さな変化。


 アレクシスはそれにも気付いたらしい。


 途端に口元が吊り上がる。


「……へえ」


 極悪に、楽しそうだった。


「なるほどね」


「アレクシス」


「いや別に? 俺は何も口出ししないし、誰にも言わねえよ」


 完全に面白がっている。


「なぁ柊、さっきまでの俺たちの話聞いてた?」


「?……いいえ」


「蒼真はさ、ちょっとアンカーが切れて禁断症状が出てる時が一番色っぽい……」


「アレクシス!!」


 慌てて遮った蒼真は頭痛を覚えた。


 柊は無言のまま資料を差し出す。


 その顔は完璧に無表情だった。


 だが、資料を受け取る瞬間────。


 蒼真の指先を掠めるように、柊の手が触れる。


 一瞬だけ、強く。


 独占欲を押し殺すように。


 目ざとくそれを見たアレクシスが吹き出した。


「ぶはっ、重っ!」


「黙っててください。それに、()()()()()()()()()()()()()()()


 柊が珍しく怒りを滲ませた声を出す。


 蒼真は思わず目を見開いた。


 柊はすぐに表情を戻す。


「……失礼しました」


 だが耳が赤い。


 蒼真は、それを見た瞬間、どうしようもなく胸が痛くなった。


 恋人ではない。


 この関係には名前も付けられない。


 誰にも知られてはいけない。


 蓮にも、E.D.E.Nにも、評議会にも。


 この世界のどこにもない、関係という事だ。


 それでも、触れられた指先だけで息が乱れるくらいには、もう互いを知ってしまっていた。


 足早にブリッジから出ていく柊を、蒼真はぼんやりと見送った。


 ────そんな蒼真を、猫のように薄氷の瞳を細めながらアレクシスが見ていた事は、誰にも気付かれなかった。

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