第69話 居住区画棟/2054/timeless scar
部屋の窓越しに、白い早朝の光が差し込んでいた。
都市は、人々は既に稼働している。
空中輸送路を走る無人輸送機。
遠くで鳴る警備ドローンの起動音。
AI管理都市の朝は、いつだって正確だった。
蒼真はしばらく、自分がどこにいるのか分からなかった。
柔らかい熱が背中にある。
規則正しい呼吸。
腰へ回された腕。
そこでようやく思い出す。
「……っ」
昨夜の記憶が、熱を伴って蘇った。
蒼真は胸元まで赤くなり、諦めたように薄く目を閉じる。
信じられなかった。
自分がよりによって柊の腕の中で眠るなんて。
しかも、その安心感に抗えなかったなんて。
「起きましたか」
すぐ後ろから声が落ちてくる。
僅かな違和感でも完璧に覚醒し活動できる強化兵士の声。
柊だった。
蒼真の身体が微かに強張る。
柊はそれに気付いたらしい。
「……すみません。嫌でしたか」
「いや、そうじゃなくて……」
反射的に否定していた。
柊が僅かに息を止める気配。
蒼真は視線を逸らしたまま、小さく呟く。
「嫌じゃ、ないけど……その、恥ずかしいんだよ」
その一言だけで背後の男が空気を凍らせる勢いで黙り込む。
「……貴方は」
掠れた声。
「本当に、人を殺しますね」
「何だそれは」
「自覚がないから余計に質が悪い」
蒼真は少しだけ笑った。
久しぶりだった。
こんなふうに自然に笑ったのは。
蓮といるときは保護者としての気遣いや安心させてやりたい思いからくる微笑みなので、蒼真自身の感情ではない。
柊の腕が、そっと蒼真を引き寄せる。
昨夜よりずっと静かな触れ方。
まるで何より大事なものを抱えるようだった。
「熱、下がっています」
額へ触れながら柊が言う。
「顔色も昨日より良い」
「……そうか」
「あ、俺が寝てる間に身体、綺麗に洗ってくれたんだな。体液でベタベタだったのがさっぱりしてる」
「…………はい」
耳を赤くしながら柊は続けた。
「俺の、せいですから」
柊はそこで少し黙った。
何かを迷うみたいに。
「……アンカー切れによる禁断症状も、もう落ち着いてる」
言いながら、蒼真の睫毛が揺れる。
本来なら、もっと酷くなるはずだった。
頭痛、震え。
神経痛、極度の焦燥。
末期の麻薬中毒者とそう変わらない。
長期接触者は、アンカーが絶たれると神経系が不安定化する。
だから蒼真は、定期的にアレクシスと接触し、依存していた。
激務をこなし、E.D.E.Nを完成させるために。
でも今は違う。
柊のアレクシスのものより濃厚なアンカーを過剰ではあったが接種出来たからか────。
驚くほど身体が静かだった。
柊は優しかったが、土台体力が違いすぎるので蒼真は殆ど意識が飛んでいた。
おそらく酷使されたであろう腰から下の痛みも、あまり感じない。
高濃度の神経活性因子による疲労回復効果が効いているのだろう。
柊が抱き締める腕に、少し力が入る。
「……貴方は、多分ずっと」
低い声。
「アンカーなんかを欲しがっていたんじゃない」
「……」
「ただ、誰かと共に居てもいい場所が欲しかったんでしょう」
蒼真は何も言えなかった。
誰にも弱さを見せられない。
期待され続ける。
正しさを、重すぎる責任を強要される。
だからずっと、自分を人間扱いできなかった。
でも柊は違う。
壊れそうな時も、醜い依存も。
全部見ていた上で、まだ抱き締めてくる。
それが怖いくらい甘やかだった。
「……柊」
「はい」
「お前の方こそ後悔、してない?」
自分でも驚くほど弱い声だった。
柊が息を呑む。
次の瞬間、強く抱き締められた。
「するわけないでしょう」
即答だった。
「むしろ、今さら無かった事にしろと言われる方が無理です」
蒼真の胸が痛む。
柊は額を蒼真の肩へ押し付けたまま、小さく笑った。
「困りました」
「何が」
「好きな人が、思った以上に可愛かった」
「……は?」
「その顔、反則です」
蒼真は思わず振り返る。
柊の目が柔らかく細められていた。
普段の彼を知っている人間が見たら、絶対に幻を見たと思う顔だった。
「そんな顔、するのか」
「貴方の前だけですよ」
さらりと言う。
蒼真は言葉に詰まった。
心臓がうるさい。
柊はそんな蒼真を見て、堪えきれなくなったように笑う。
「……本当に無防備ですね」
「うるさい」
「昨夜よりずっと表情が柔らかい」
指先が頬へ触れる。
その優しさに慣れたら、もうひとりで立てなくなる。
絶対に、頼りすぎてはいけない。
そうでなければ、おそらくただでさえ先が短いであろう自分たちの未来が、更に早く断たれる事になる。
「……今度、なぜお前の感情抑制の効果が弱くなったか精密検査させろ。そのままじゃ任務にも支障が出るだろ」
蒼真は冷徹な予測から逃げるように柊の胸元へ額を押し付けた。
柊が小さく息を飲む。
それから、大切そうに髪へ口づけた。
「はい」
窓の外では、巨大モニターにAI統治局のニュースが流れている。
今日も世界は合理的で、冷酷で、完璧だ。
けれど、その片隅で。
男二人では狭すぎる居住区画棟のベッドだけが、不完全な人間の熱を隠していた。
えっラッブラブか?って自分でもビックリしたw
後朝の朝の余韻もすごいし
柊×蒼真がメイン面しはじめてる……?
いやいやもうそろそろ蓮も出てきますし
柊にとって本当に守りたかった存在もこれから
ぽっと出してきます
もちろん今一番愛してるのは蒼真なんですけど
これからイロイロあるとゆーことでw




