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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第67話 居住区画棟/2054/a bittersweet night descends

 



 ブラインドの隙間から差し込む都市の光だけが、薄青く室内を照らしている。


 蒼真はベッドへ押し倒される形になったまま、荒い呼吸を繰り返していた。


 柊の指が頬へ触れる。


「……酷い熱だ」


「平気……」


「その台詞、信用できません」


 掠れた声だった。


 普段の冷静な敬語とは違う。


 抑え込んでいた感情が滲み出ている。


 蒼真はぼんやりと柊を見上げた。


「……何を、考えているんですか」


「はじめて、会った時のこと、おもいだしてた……」


 急激に摂取した濃厚な神経活性因子────。


 俗称【アンカー】の作用で息を荒げながら蒼真は柊の頬に手を伸ばした。


 軍人らしく鋭く整った顔立ち。


「……あなたのおかげで、殺処分を免れました」


 けれど今だけは、その瞳が痛いほど優しい。


「どうしてそんな顔をするんですか」


 柊が低く問う。


「まるで、捨てられるのを待っているような顔だ」


 胸が軋んだ。


 蒼真が生きてきた場所では昔からそうだった。


 必要とされる間だけ存在を許される。


 役に立たなくなれば終わりだ。


 だから、自分から何かを欲しがることを知らない。


 柊の指先が、蒼真の赤くなった唇をなぞる。


「俺は、あなたにそんな顔をさせたくない」


 その声が、駄目だった。


 張り詰めていた理性が崩れる。


 蒼真は思わず柊の服を掴んだ。


 柊が目を見開く。


 次の瞬間────深く唇を塞がれた。


「……っ」


 今度のキスは優しくなかった。


 長年押し殺していた感情が、一気に溢れたみたいだった。


 呼吸を奪うほど激しい。


「!……っく、ぅ」


 苦し気に息を吐いた蒼真の指先が震える。


 柊の手が背中へ回る。


 逃げられないようにさらに抱き寄せられた。


「蒼真……」


 はじめて呼び捨てにされた名前を呼ぶ声が熱い。


 何度もなぞって、確かめるように。


 蒼真はそのたび胸が苦しくなった。


 こんなふうに求められることに、慣れていない。


 アレクシスは違った。


 彼は人には懐かない山猫のように気まぐれだった。


 興味本位で壊れかけた子供に気まぐれに優しくしただけだ。


 でも柊は違う。


 ずっと耐えていた。


 その感情の重さが分かってしまうから、怖かった。


 柊の額が肩口へ落ちる。


 息がひどく熱い。


「……貴方を誰にも渡したくない」


 低く掠れた声。


 蒼真の心臓が跳ねる。


「柊……それは、」


「こんな状態の時に言うべきじゃないのは分かっています」


 苦しそうに笑う気配。


「でも、もう限界なんです」


 そのまま再び唇が重なる。


 指先が絡む。


 互いの熱が混ざる。


「あっ……んんっ」


 静かな部屋に、乱れた呼吸だけが響いていた。


 蒼真はいつの間にか、柊へ縋るように抱きついていた。


 乱れた白衣の胸元から、しろい肌が覗いた。


 離れたくないと思ってしまった。


 その事実が恐ろしい。


 依存は弱さだ。


 蒼真自身が誰より理解している。


 柊の腕の中にいると、自分が人間に戻ってしまう。


 完璧な開発責任者、統括主任、または人の形をした演算装置ではなく。


 ただ、孤独に耐え切れず、誰かに触れていてほしいと思う、弱い人間に。


 慌てて手を柊の胸板に付いて、距離を取ろうとする。


「……離れろ。【アンカー】はアレクから明日……っ!」


 言いかけた蒼真の両手首が強い力でベッドに押さえつけられる。


 ぎし、とベッドの軋む音と、痛みに蒼真が顔を歪めるのは同時だった。


 柊が顔を背けた蒼真の髪へ顔を埋める。


「……好きです」


 小さな声だった。


 けれど、その告白は蒼真にとっては鉛のように重かった。


「!……柊……でも、」


「ずっと、言えませんでした」


 言葉を遮られた蒼真は静かに目を閉じる。


 胸の奥が痛い。


 嬉しいけれど、ひどく苦しい。


 その真摯な気持ちには、()()()応えようが無いのに。


 I.W.S.C.上層部からすると、“強化兵士がE.D.E.N開発責任者へ過剰な私情を持った”などという事例は到底許容されない。


 柊のこの感情が公に暴かれてしまったら、もう以前のような二人には戻れない。


 柊の手が背を撫でる。


 壊れ物を扱うみたいに。


 その優しさが、余計に駄目だった。


 蒼真は震える息を吐いて、覆いかぶさって来る柊の肩へと諦めたように顔を埋めた。


 ここには命令も管理もない。


 あるのはただ、長い間、言葉にできなかった感情と。


 決して未来は無いと分かっていても互いを壊れるほど求めてしまう、ただの人間の熱だけだった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ペコリ

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