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デスゲームで冷酷な男と組んだら、なぜか俺だけ守られている  作者: しゃとーぶりあん


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第43話 車内/2052/白と黒

 



 蓮に差し出された蒼真の手の温度は、予想よりもずっと現実的だった。


 夢でも幻でもない、確かな体温。


 それに触れた瞬間、蓮の内部で組み上げてきた心を覆う鎧の一部が、静かに崩れた。


 拒絶する理由は、いくらでもあったはずだった。


 疑うべき根拠も、裏切りを想定する材料も、十分すぎるほど揃っている。


 だが────、指先が離れなかった。


 離すという選択が、思考の候補にすら上がらない。


 ただ、そのまま────はじめて差し出された、温かい手を握り返していた。







 蓮の移送は、驚くほど静かに行われた。


 警備も、監視も、過剰な演出は一切ない。


 まるで最初から“予定されていた出来事”であるかのように、すべてが滑らかに進行する。


 第十三研究棟の外に出たとき、蓮は一度だけ足を止めた。


 初めての、外────。


 冷え切った外気に白くなる自分の息が不思議だ。


 無限に続くような雪原。


 閉じられた世界だと思っていた施設の外に、さらに広い“世界”がある。


 その認識が、わずかに視界を歪める。


 細かい雪が、目に入ったせいだと蓮は思った。


「行くぞ」


 低く落ち着いた声が、背後からかかる。


 振り返ると、そこに立っていたのは────異質な男だった。


 雪の中でも埋もれないほどに明るい色彩を放つ金髪。


 アイスブルーの眼は冷ややかに澄み、余計な感情を一切含んでいない。


 長身の体躯は、ただ立っているだけで空間を圧迫する。


 だがその圧は、威圧ではなく戦うために最適化された故に醸し出されているものだ。


 姿勢も、動きも一切無駄がない。


「……誰だよ」


 蓮の問いに、男は一瞬だけ蒼真の方へと視線を落とす。


「アレクシス・ヴァルディア。GENERAL直属の執行官だ」


 淡々とした自己紹介。


 肩書きは簡潔だが、その裏にある権限の重さは、言葉以上に明白だった。


 蒼真は何も補足しない。


 それが、この男の位置づけを逆に強調する。


 “説明が不要な存在”つまり────評議会からの監視役と言う事だ。


 アレクシスは踵を返し、先導する。


「車を回してある」


 その一言で、すべてが繋がる。


 施設からの離脱、外界への移動。


 そして────蓮の、これまでとは全く異なる時間のはじまり。


 黒い車体は、雪景色の中で異様なほど存在感を持っていた。


 光を吸い込むような塗装。


 無駄な装飾を排したフォルム。


 ただの移動手段ではない、“選ばれた者だけが乗る装置”のような印象を与える。


 蓮は一瞬だけためらい、そして乗り込む。


 静かにドアが閉まった。


 外界の音が、完全に遮断される。


 静寂が車内を包む。


 だがそれは、第十三研究棟のそれとは違う。


 隔絶ではなく、外からの隔離。


 守られているような────錯覚。


 車は雪の中を滑るように走り出す。


 白の世界が、ゆっくりと後方へ流れていく。


 蓮は窓の外を見続けていた。


 視線は固定されているが、意識は別の場所にある。


 隣の若い男。


「どこへ、行くんだ?お前の研究室か?」


 思わず行き先を尋ねた蓮に、蒼真は苦笑しながら答えた。


「それじゃあ君の扱いは今まで通りって事になっちゃうだろ」


「向かうのは俺の社宅だよ。一人じゃ広すぎるから同居人が居てくれる方が良い」


「……っ」


 今日は信じられない事ばかり起こる。


 蒼真に触れた手の感触が、まだ残っている。


 なぜその手を握ったのか。


 その理由を、うまく説明できない。


 だが、後悔はなかった。


 蓮は黙り込んだ。


 そんな二人を、バックミラーごしにアレクシスがじっと見つめていた。







 ────その時、蒼真も蓮の事を考えていた。


 最初にあったのは、ひとつの不整合。


 データベースに残る、微細な欠落。


 研究員の配置記録。


 物資の搬入ログ。


 消費電力の推移。


 それらが示す数値は、どれも許容範囲内に収まっている。


 単体で見れば、問題にはならない。


 だが、相互に照合したとき────、わずかに、齟齬が生じる。


 統計的には誤差。


 だが、連続して発生している。


 しかも、特定の施設に集中して。


 第十三研究棟。


 その番号が、繰り返し浮上する。


 蒼真はその時点で、結論に近いものを得ていた。


 ────あの子の、仕業では、ないか────。


 隠蔽は、意図を示す。


 意図は、必ずどこかに歪みを残す。


 彼はその歪みを辿った。


 記録を遡り、削除されたログを再構築し、欠損した部分を推定で補う。


 その過程で、いくつかの“消失”が浮かび上がる。


 事故処理。


 配置転換。


 不明。


 理由は様々だが、結果は同じ。


 人員が、消えている。


 しかも、その頻度が不自然に一定だ。


 ランダムではない。


 意図された間隔。


(────それだけ、酷い扱いを受けて来たんだろう。これからは、多大なサポートとケアが必要だな)


 蒼真はそこで、意図的に思考を止めた。

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