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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第122話 居住区画棟/2055/目覚めの余白に、温かな温度を

 



 窓の外から差し込む朝日が、部屋を柔らかな金色へ染めていた。


 昨夜までの蕩けた熱い空気は跡形もなく消え、静かな鳥の声だけが穏やかに響いている。


 蒼真はゆっくりと瞼を開いた。


 久しぶりによく眠れたという実感があった。


 頭痛は消え、神経を焼くような疼きもほとんど残っていない。


 ぼんやり天井を見つめてから身体を起こそうとすると、視界の端で黒い影が動いた。


「……起きましたか」


 香ばしい匂いがすると思ったら、窓際では柊が淹れたばかりの珈琲を飲みながら立っていた。


 兵士としての制服は既に整えられ、髪も乱れ一つない。


 いつもの柊だった。


 その姿を見た瞬間、昨夜の出来事が不意に脳裏へ蘇る。


 また、気絶している間に風呂に入れてくれたようだ。


 この部屋に備え付けのシャンプーとボディソープの匂いがする。


 柊の、濃密なアンカーの匂いも、まだ全身に残っている。蒼真は思わず赤くなりながら咳払いをした。


「……おはよう」


「おはようございます」


 短い挨拶だけなのに、どちらもどこかぎこちない。


 互いに視線を合わせようとして、同じように逸らす。


 その様子がおかしくなり、蒼真は肩を揺らした。


「笑わないでください」


「いや……悪い」


 謝りながらも笑みは消えない。


 柊もほんのわずかに口元を緩め、それ以上は何も言わなかった。


 昨夜について説明を求めることも、言い訳をすることもない。


 その沈黙は不思議と居心地が良かった。


「身体はどうですか」


「驚くくらい楽だ。……その、ありがとう。面倒かけて、ごめん」


 正直な気持ちだった。


 数日間まとわりついていた頭痛とめまい、焦燥感が抜け、思考まで澄み渡っている。


 柊は安堵したように小さく息をついた。


「謝らないで下さい。あなたが良いなら、俺もそれが嬉しいんです」


 蒼真は昨夜脱ぎ捨てた白衣を手繰り寄せながら笑う。


「今日から通常営業だな」


「その前に約束してください」


 穏やかな声だった。


 それでも仕事中の護衛として報告を行う時と変わらない真剣さがあった。


 蒼真は手を止める。


「何をだ」


「今後、徹夜はしないでください」


 部屋に静けさが満ちる。


 柊は続けた。


「昨日の状態は危険でした。歩行も困難になっていました」


「……まあ、少し無理はしたけど」


「少しではありません」


 珍しく言葉に迷いがない。


「統括主任が倒れれば、多くの人が困ります。私も、その一人です」


 最後の一言だけ、ほんのわずかに声が柔らかくなった。


 蒼真は目を瞬かせる。


「お前がそういうことを言うとは思わなかった」


「思ったことを述べただけです。今後、徹夜はしないと約束して下さい。でなければ()()()()()は致しかねます」


「なんだ、脅迫か?」


「お願いです」


 その返答に蒼真は苦笑した。


 部下で、護衛でもある柊が珍しく願いとして口にした。


 だからこそ断りづらい。


「……分かった」


「本当ですか」


「なるべく、守る」


「『なるべく』は不要です」


「厳しいな」


「アンカー切れ状態の統括主任を見てしまったら、誰でも厳しくなります。無理な働き方をするから、中毒も依存も酷くなるんですよ」


 蒼真は頭を掻きながら観念したように笑う。


「降参だ。徹夜は禁止にする」


 その言葉を聞いた柊の肩から、わずかに力が抜けた。


 それだけで十分だった。


 無理に感情を表へ出さなくても、長く隣にいた二人には互いの変化が分かる。


 ベッドから出ようとしたところで、自分が何も着ていない事に気づいた蒼真は思わず眉を上げた。


「ちょっと、向こう向いてろ」


 そう言いながら、白衣を羽織り、クローゼットのシャツを引き寄せる。


 柊は一拍置いてから、淡々と返した。


「もう全部見てるんですから、今更ですね」


「……そういう問題じゃないだろ」


「なぜですか」


 あまりにも平然とした返答に、蒼真は言葉を失った。


 昨夜のことを思えば、確かに今さら隠せるようなものは何もない。


 だが、だからといって開き直られると別の意味で困る。


「お前、ほんとに遠慮ってものを知らないな」


「必要がないと思っただけです」


「あるんだよ、普通は」


「普通は、気絶した相手を風呂に入れたりもしません」


「……それはそうだけど、大体お前がもっと加減してくれれば俺だって気絶しないんだぞ」


「…………すみません」


 謝る柊に蒼真は苦笑しながら着替えを終え、襟元を整えた。


 その間、柊は本当にきっちりと顔を背けて珈琲を飲んでいたが、耳だけはしっかりこちらの衣擦れの音を拾っている気配があった。


 寝室を出る前に、柊が先に扉へ向かう。


 その足取りはいつも通り静かで、何事もなかったように見えた。


 だが扉を開けた先には、既に朝食の支度が整えられていた。


 小さなテーブルの上に並んでいるのは、焼きたてのトーストと、卵料理、簡単なサラダ、それから温かいスープ。


 そして、蒼真の前には湯気の立つミルクティーが置かれていた。


 珈琲ではない。


 蒼真が苦いものを好まないことを、柊は当然のように覚えていた。


「……これ、お前が作ったのか」


「はい。簡単なものですが」


「簡単、ねえ。俺は出来ないな……あっ、この食パン、行列ができる店のやつだ」


 蒼真は椅子に腰を下ろし、目の前の朝食を見つめる。


 見た目は素朴だが、どれも丁寧に作られているのが分かった。


 柊は向かい側に座ると、蒼真が手を付けるのを静かに待った。


「食べないのか」


「あなたが先です」


「見張りかよ」


「見届けです」


 その言い方が妙に真面目で、蒼真は思わず吹き出しそうになる。


 だが、柊の目は冗談ではなかった。


 昨夜の無理を見ていたからこそ、ちゃんと食べるところまで確認するつもりなのだろう。


 蒼真は観念したようにフォークを取った。


 ひと口、卵を口に運ぶ。


 ほどよい塩気が広がり、空っぽだった胃にじんわりと染みていく。


「……うまい」


 素直な感想だった。


 柊はそれを聞いて、ようやく少しだけ表情を緩める。


「それなら良かったです」


 蒼真はトーストをちぎり、ミルクティーをひと口飲んだ。


 苦味のない、柔らかな甘さが喉を通る。


 トーストもさすが人気店のものなので、小麦の味が違うおいしさだった。


 昨夜までの張り詰めた感覚が、少しずつほどけていくようだった。


「ミルクティーまで用意してたのか」


「スリランカのキャンディ茶葉です。珈琲は苦手でしょう」


「よく覚えてるな。……甘くすれば、なんとか飲めるぞ」


「知ってます」


 柊はそう言って、蒼真が食べる様子を黙って見守った。


 急かすことも、口を挟むこともない。


 ただ、食べ終えるまで席を立たず、きちんと食べ切るのを見届けるつもりでいる。


 その視線は静かで、けれど妙に温かかった。


 蒼真は少しだけ照れくさくなりながらも、残さず朝食を平らげた。


「……これで満足か」


「はい」


 満足そうに答えた後、柊はようやく自分の分の食事に手を伸ばす。


 その様子を見て、蒼真は小さく息を吐いた。


 部屋を出る頃には、昨夜の気まずさも少しだけ薄れていた。


 廊下へ出ると、研究棟は既に慌ただしく動き始めている。


 端末を抱えて走る研究員や警備部隊が行き交い、世界は昨日と変わらず忙しかった。


 蒼真は白衣の襟を整え、いまだ監視網拡張計画で大騒動のTOKYO DEEP-9へ向かって歩き出した。


「今日も忙しくなりそうだな」


「はい」


 柊は半歩後ろを歩く。


 その距離は今までと同じだった。


 けれど互いの胸の内だけは、もう今までと同じではなかった。


 特に関係が変わるわけではないが────より、特別な絆だった。




だんだん柊が肝っ玉母さんポジ、

もしくは有能メイドに…(衝撃)

どんどん蒼真と蓮の育ての母に

なっていきそうで震える。

蓮は次回登場時から中学三年生になります。

今頃桜の季節です…ぴえん。

少しでも続きが気になるなーと

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バモス~★(もうサッカー終わったよ)

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