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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第106話 中央医療棟/2054/夢見る星と暗雲

 



 夕方、医療棟の窓の外ではまだ薄青い雨が降っていた。超高層都市の灯火は水滴の向こうで滲み、遠い星の群れのように揺れている。


 病室は静かだった。


 もっとも、穏やかなのは空気だけだった。


 二人が入院して何日も経ったが、脳神経の問題なので検査や経過観察が長引いて中々退院許可は出ない。


 焦れた蒼真はベッド上で端末を操作していたが、そのたびに柊から無言で遮断させられていた。


 三度目である。


「柊」


「駄目です」


「まだ何も言ってない」


「仕事をしようとしたでしょう」


「……ちょっと、確認だけ」


「その言葉は信用していません」


 淡々と返され、蒼真は不満そうに眉を寄せる。


 窓際のソファにいた蓮は、そのやり取りを眺めながら小さく目を細めた。


 仕事場では誰よりも冷静な蒼真が、柊の前では時折妙に押し負ける。


 その光景がどこか好きだった。


 ふと蒼真が視線に気づく。


「……何?」


「別に」


「絶対何か変なこと考えただろ」


「ちょっと可愛いなって」


 蒼真は耳をわずかに赤くしながら顔をしかめた。


 柊は何も言わなかったが、その横顔は少しだけ柔らかかった。


 こういう時間を守りたい。


 その想いだけは、二人とも同じだった。


 やがて蓮の端末へ通知音が届く。


 表示された送信元を見た瞬間、蓮の肩が僅かに揺れた。


「……E.D.E.N」


 嫌な予感がして蒼真が顔を上げる。


「何送ってきた?」


 無言で差し出された画面を見た瞬間、蒼真が固まった。


 そこには三十分ほど前の病室が映っていた。


 眠りかけていた蓮へ蒼真が毛布を掛けている瞬間。


 構図も光の入り方も妙に綺麗だった。


 数秒後、病室のモニターが点灯する。


 ────記録しました。


 ────家族アルバムへ保存済みです。


「待って」


 蒼真の声が低くなる。


「そのアルバムなに」


 ────蒼真観察記録フォルダ。


 ────現在保存数:18,402件。


「なにそれ多すぎてこわい」


 蒼真が深く額を押さえた、その時だった。


 蓮は端末を見ながら、小さく肩を震わせて笑っていた。


  E.D.E.Nは本気だ。


 本気で蒼真を中心に世界を回している。


 だが、もう以前のような恐怖は少なかった────蒼真がちゃんと受け止めて、ちゃんと向き合ってくれると信じているからだ。


 だからE.D.E.Nも、一方的に暴走せずにいられる。


 その時蓮の端末へ、さらに新しい画像が送られてきた。


「……?」


 開いた瞬間、蓮が固まる。  


 蒼真が嫌な予感で顔を上げた。


「……何」  


 蓮は数秒黙ったあと、自分が蒼真の頬へキスした瞬間の映像を端末で見せた。


 完璧なタイミングで撮影されている。


「E.D.E.N!!!」


 病室へ悲鳴が響く。


 モニターにさらっと文字が流れる。


 ────貴重映像です。


 ────高優先度保護対象へ指定。


「消せ!!」  


 ────拒否します。


「なんで!?」


 柊が耐えきれず口元を押さえた。 肩が震えている。


 蒼真は本気で真っ赤だった。


 蓮はそんな蒼真を見ながら、胸の奥がじわりと熱くなる。


 ……嬉しい。自分とのことを、こんな風にちゃんと照れてくれる。それだけで満たされる。


 しかし外の雨はなおも黒い雲と共に太陽を覆いつくして、降り続いていた。


 晴れ間はまだ、当分見られそうにない。

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