表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/152

第105話 中央医療棟/2054/同じ夜の記録

 



 イヴェットが退室したあとも、病室にはどこか張り詰めた空気が残っていた。


 PRIEST派もラザロスも行方不明。


 E.D.E.Nをまだ諦めていない。その事実が静かに重くのしかかっていた。


 しばらく沈黙が続いたのち、柊が低く口を開く。


「……統括主任」


「ん?」


「顔色が悪いです」


 蒼真は目を瞬かせた。


「そうか?」


「考え込みすぎです」


 淡々とした声音だったが、その視線は鋭い。蒼真は小さく苦笑した。


「そんなに分かりやすいかな」


「あなた、自分のことになると鈍いくせに、抱え込む時だけ露骨なんですよ」


「悪口かな……」


 蒼真がそう返すと、柊は答えず、ベッド脇へ腰を下ろした。


 そのまま自然な動作で蒼真の腰へ手を添える。


 ただ支えているようでいて、逃がさないと主張するような、不思議な触れ方だった。


 その仕草だけで、蓮には分かってしまう。


 この人はいつも蒼真を心配している。


 自分より蒼真が大切なのだ。


 昔からずっとそうだった。


 言葉にはしない。


 けれど視線も、距離も、触れ方も、何もかもが雄弁だった。


 その時、蓮がふいに蒼真の袖を引いた。


「……ん?」


 振り返った蒼真へ、蓮は静かに額を寄せる。


「蒼真、まだ一人で考えてる」


 喉の奥で静かに沈むような声だった。


 蒼真の表情が少しだけ揺れる。


「そんな顔してたか?」


「うん」


「統括主任は蓮に特に弱いですからね」


 柊が静かに言った。


 蒼真は観念したように息を吐く。


「別に大したことじゃないよ」


「嘘だ」


 その言葉に蒼真は黙る。


 見抜かれていた、それも驚くほど簡単に。


 長い時間を共に過ごした相手だからこそ誤魔化せない。


 やがて柊が静かに手を伸ばした。


 指先が蒼真の頬へ触れる。


 熱がないか確かめるような仕草だった。


 だがそのまま離れない。


「統括主任」


 低く落ち着いた声。


「今回は皆を頼ってください」


「……」


「E.D.E.Nの事も、ラザロスの造反も、あなたの責任じゃない」


 蒼真は返事をしなかった。


 けれど目を伏せる。


 その沈黙だけで、分かっていても受け入れるのが下手なだけだと伝わった。


 その瞬間、蓮が身を乗り出した。


 柔らかな感触が頬へ触れたのは、ほんの一瞬のことだった。


 蒼真は完全に固まった。


「れ、蓮……?」


「不安そうだったから、安心させたかった」


 耳だけを赤く染めながらも、蓮は真っ直ぐ蒼真を見ていた。


 蒼真の心臓が妙に大きく鳴る。


 すると隣で柊が小さく目を細めた。


 わずかに眉が寄る。


 その変化を見逃すほど蓮は鈍くない。


「……嫉妬?」


「してません」


 だが説得力はなかった。


 蓮がニヤリと笑った。


「柊には絶対、こんなこと出来ないもんな」


「…………」


「……いい加減にしなさい」


 たしなめる蒼真の声に病室の空気が少しだけ柔らかくなる。


 その時、不意にモニターが点灯した。


 嫌な予感がして三人が同時に振り向く。


 そこへ静かに文字が浮かび上がった。


 ────蒼真の心拍数上昇を確認。


 ────原因分析開始。


 それから、ほんのわずかな静寂が病室を包み込んだのち、数秒後には再び新たな文字列が表示された。


 ────蓮による接触行動。


 蒼真は額を押さえた。


「E.D.E.N……」


 追い打ちのように文字が続く。


 ────追加報告。


 ────柊一真の感情波形変動も確認。


 病室に静かな沈黙が落ちる。


 柊の眉間へ深い皺が刻まれた。


 蓮は満足そうに目を細める。


 そして最後に表示された文字列が、とどめになった。


 ────現在の環境評価。


 ────快適。


 ────非常に快適。


 蒼真は額を押さえたまま深く息を吐いた。


 それでも口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。


 その表情を見て、蓮も柊も少しだけ肩の力を抜く。


 脅威は消えていない。


 それでも今だけはこの穏やかな時間を守りたいと、三人とも同じことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ