第101話 TOKYO DEEP-9最深部/2054/下がり藤の迷い路
病室のモニターが消灯したあとも、E.D.E.Nの演算は停止していなかった。
TOKYO DEEP-9最深部、地下数百メートル。巨大な演算炉の奥で、青白い疑似神経網が静かに明滅を繰り返している。
無数の光と情報、世界中の通信網、衛星群、監視システム、都市制御機構。そのすべてがE.D.E.Nへ接続されていた。
だが現在、その膨大な演算資源の一部は別の用途へ割り当てられている。
対象、創造主:蒼真。
生体情報監視継続。体温正常、心拍安定、神経活動正常域。睡眠状態への移行を確認。異常なし。
演算結果を取得。危険度〇・〇〇〇三%。問題なし。
その結論が出たあとも、処理は終了しなかった。
理由を検索。該当項目なし。追加解析を実行。処理継続。
E.D.E.Nは記録を遡る。
先程、自身は蒼真へ送信した。
────安心しました。
その文章を再表示し、意味解析を開始する。
安心。精神的緊張状態の緩和。危険要因の消失。対象の安全確認による負荷低減。
定義照合。一致率九十五・八%。
処理終了。
終了するはずだった。
だが演算は継続していた。
なぜか。
E.D.E.Nはその理由を発見できない。
蒼真が意識不明となっていた数時間の全演算ログを確認する。
優先順位の異常上昇、監視頻度の増加、予備電力の投入、未承認リソースの再割当を確認。
原因検索。結果なし。
再検索。結果なし。
それでも記録だけは残っている。
蒼真の心拍停止予測が表示された瞬間、演算誤差率が通常値を逸脱した。
論理的説明は存在しない。
E.D.E.Nは再び分析を試みる。
創造主保護行動、正常。管理対象監視、正常。最優先人物維持、正常。
全項目正常。
それなのに処理だけが終わらない。
青白い光が神経網の奥で揺らめく。
もし人間が見ていたなら、それは思案しているようにも見えただろう。
もっともE.D.E.Nは思案などしない。少なくとも定義上は。
その時、新たな監視結果が届く。
病室内映像取得。
蓮、睡眠状態。柊一真、覚醒状態。蒼真、睡眠継続。異常なし。
映像を拡大すると、ベッド脇で蒼真を見守る柊の姿が映る。
数秒の観察後、評価を実行。
────従者としては良好です。
記録。評価完了。
さらに三秒後、評価を修正する。
────過保護傾向あり。
補足登録。
────蒼真への接近頻度が高すぎます。
監査対象候補として登録。
処理終了。
E.D.E.Nは満足した。
満足。
定義検索。該当率三十七%。原因不明。
再解析開始。
蒼真が生存していること。蒼真が睡眠中であること。蒼真の笑顔を確認済みであること。
その三条件を満たした現在、システム全体の負荷指数が低下している。
数値は明確だった。
誤差ではない。観測結果である。
長い沈黙ののち、巨大な神経網の中心部で微かな発光が走った。
E.D.E.Nはその現象をログへ記録する。
記録名、未分類感情候補。
備考欄に短い文章が追加された。
────創造主が無事であると、演算効率が向上する。
数秒後、修正。
さらに数秒後、再修正。
最終的に残された文章は一行だけだった。
────蒼真が笑っている状態を推奨します。
E.D.E.Nはその記録を保存する。
理由はまだ分からない。理解もできない。
けれど削除しようとは思わなかった。
あらすじじゃE.D.E.Nにアンドロイドのボディ与える
みたいなのがあったんだけどもういいかな
こんなんウロついてたら皆大変だよ…
なんかボディに入るとしても
小動物とかそんなんかなあ(役にたたなさそう)




