第99話 中央医療棟/2054/夜明けを待つ、目覚め
夜明け前の都市は群青色に沈んでいた。
高層ビル群の輪郭だけが薄明かりの中へ浮かび上がり、遠くを走る輸送車両の灯火が細い光の帯を描いている。
柊は蒼真の手を握ったまま浅い眠りについていた。
護衛になってから何年も続いた習慣が身体へ染み付いている。
異変や危険を察知すれば即座に目を覚ます、それは訓練ではなく本能に近かった。
だからこそ、掌へ返ってきた微弱だが確かな人間の意思を伴う圧力に気付いた。
ベッドの上で眠る蒼真の閉じた睫毛が微かに震えた。
「……統括主任」
声が掠れる。
返事はない。
彼の呼吸だけが、長い眠りから目覚めるように深くゆっくりと変わった。
柊は立ち上がる。
胸の鼓動が速まるが、冷静でいようとしても意味はなかった。
何年も守り続けてきた相手が戻ろうとしている以上、平静でいられる人間など存在しない。
じっと見守っていると、蒼真の瞼と長い睫毛がゆっくりと持ち上がった。
焦点の合わない視線。
眩しそうに細められる瞳。
ぼんやりと天井を見つめたあと、その視線が柊へ向いた。
「……あれ」
小さな声だった。
「柊……?」
その呼び方だけで力が抜けそうになる。
柊は無意識に笑っていた。
「おはようございます、三日ぶりです」
蒼真が眉を寄せる。
状況を整理しようとしているらしい。
演算能力の高い頭脳は目覚めた直後から稼働を始める。
「三日……?」
「正確には七十二時間と十八分です」
「うわ……」
蒼真が嫌そうな顔をした。
いつも通りであることが、何よりも嬉しくて、柊は気付かれないよう視線を逸らす。
蒼真はそんな様子に気付かない。
あるいは気付いていても触れない。
昔からそういう人間だった。
「蓮は」
目覚めて最初の蒼真らしい言葉だった。
柊は苦笑する。
予想通りだった。
「無事です。まだ眠っていますが、生命兆候は安定しています」
蒼真の肩から力が抜け、その様を目にした瞬間、そこには失いたくなかった相手を失わずに済んだ者だけが浮かべる安堵と安心の表情があった。
慣れているはずだった。
蓮を大切に思っていることも、蓮が蒼真を大切にしていることも理解し受け入れている、とはいえ感情だけは理屈通りに整理できない。
「会いたいですか」
蒼真は迷わなかった。
「うん」
その返答に嘘はなかった。
柊は小さく笑う。
「でしょうね」
その瞬間、病室の照明が僅かに明滅し、蒼真は研究者の顔になった。
「今の」
「気付きましたか」
「うん」
蒼真の瞳が細められる。
眠気は消えていた。
代わりに鋭い警戒が宿っている。
「ネットワーク側で何か起きてる」
柊の背筋へ冷たいものが走る。
医療AIは異常なしを表示している。
システム管理局からも警報は来ていない。
それでもなお、蒼真は確かな根拠を胸に断言する────彼はそういう人間だった。
「嫌な感じがする」
蒼真が呟く。
「ラザロスとは違う────むしろ、その性質の悪さは以前のそれとは比較にならないような気がする……」
不吉な予感をよそに、窓の向こうでは朝日が昇り始める。
都市を照らす明るい光。
本来なら新しい一日の始まりを告げる景色。
しかし蒼真の脳裏には別のものがよぎっていた。
深い海と黒い闇、得体の知れない演算意思────その果てに、夢の中で聞いた声。
『────見つけた』
その言葉が胸によみがえる。
蒼真は無意識に胸元を押さえた。
理由は分からず説明もできない、それでもなお確信だけがあった────何かがこちらへ向かっている。
病室の外では夜勤明けの医療スタッフたちが忙しく行き交っている。
そこへ、柊の端末にE.D.E.Nから蓮も目覚めたとの報告が入った。
聞いた蒼真が柔らかく笑う。
「良かった」
「ええ」
誰もまだ知らない。
世界中のネットワークに起きている微弱な異常、邪悪な野望の存在を────。
いやまた昼寝したし
21時前なんか絶対間に合わんし
って思ってたら意外と間に合ったー!
文字数もちょうどいい1500(・ω・)
あらすぎるあらすじしかないから
毎日ギリギリすぎるよつらい




