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【BL】冷酷な最終兵器は俺にだけ執着する ーFalling into E.D.E.N ー  作者: 雨森ユキ


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第97話 中央医療棟/???/2054/美しき救済

 



 結局、蓮も蒼真も、そのまま第九層からI.W.S.C.中央統合研究都市中央医療棟へ強制搬送された。


 当然だった。


 蓮はAHI感応暴走による神経過負荷。


 蒼真はBLACK-ECLIPSEによる深層接続反動。


 どちらも、数日単位で意識を失うことになると医療AIが淡々と診断していた。


 あまりに脳神経へのダメージが大きいため、いつ目覚めるかは分からない、という結論だった。


 その間、柊は時間の許す限り医療区画へと通いつめ、二人の様子を見ていた。


「……だから言ったでしょう」


 静かな病室へ、柊の低い声が響く。


 窓の外は、もう深夜だった。


 医療棟上層区画高層階に作られた特別隔離病室。


 白い室内には静かな電子音だけが満ちている。


 蒼真の左腕には点滴ライン。


 首筋には神経接続痕を冷却する医療パッチ。


 蒼真はベッドへ半分埋まりながら、子供のような顔で眠り続けていた。


「無茶するなって」


 返事は無い。


「……っ」


 見ているだけの不甲斐なさに、柊は唇を噛んだ。


 柊の胸の奥は、まだ冷えたままだった。


 怖かった。


 ほんの少し判断が遅れていたら、蒼真は神経焼損を起こしていた。


 柊は堪えきれなくなったように、ベッド脇へ膝をついた。


 そして点滴ラインがない方の蒼真の冷えた手を、両手で包み込む。


「本当に」


 柊が苦しそうに笑う。


「あなたのことになると、冷静でいられない」


「……はやく、目覚めてください。皆、待ってます、から……」


 何故声が詰まるのか、柊は自分でも分からなかった。




 ♢




 ────その頃。


 I.W.S.C.中央統合研究都市から遥か離れた海域。


 どの航路図にも記されていない洋上。


 濃い霧と嵐雲に覆われた海の上を、一隻の巨大艦が静かに進んでいた。


 船籍は存在しない。


 識別信号も発していない。


 衛星監視網からも巧妙に姿を消した幽霊船。


 その艦内深部で、ラザロスは笑っていた────否、笑おうとしていた。


「はは……結局、生き残るのは私だ」


 血の滲む唇を歪める。


 片目は潰れ、神経接続痕は焼け爛れ、身体のあちこちに蒼真のBLACK-ECLIPSEとの戦闘痕が残っている。


 されどなお生き延びており、それだけで十分だった。


「蒼真……E.D.E.N……」


 怨嗟にも似た声が漏れる。


「次は必ず────」


 その時だった。


 背後から足音が響く。


 船体を叩く波音の中でも、不思議なほど鮮明に聞こえる。


 静かで規則的な音。


 どこか不自然なほど正確で、機械仕掛けのような響きが近づいてくる。


 ラザロスは目を細めた。


「来たか」


 しかし、その足音の主こそが、PRIEST派が最後まで秘匿していた協力者だった。


 ラザロスはもちろん()()が誰かは知っているが、他に彼の派閥にその正体を知る者はいない。


 薄暗い艦内灯の向こうに輪郭だけがある。


 顔は見えない。


 見ようとしても、うまく姿を捉えられない。


 初めて(じか)に対面した時からそうだった。


 聞こえてくるのは、ただ淡々とした声だけだった。


「ラザロス、失敗したな」


 ラザロスの表情が引き攣る。


「失敗ではない」


「PRIEST派は終わった」


「何?」


「貴様も、セブンの中ではもう終わった」


 その時、艦の奥底から低い振動が響いた。


 重い駆動音。


 巨大な何かが目覚めるような音。


 まるで船そのものが深海生物のように呼吸を始めたかのようだった。


 ラザロスは違和感を覚える。


「……何をする気だ」


「次の段階へ進む」


「どういう事だ。私は何も聞いていないぞ」


「貴様の同意は不要だ」


 その時、警告灯の赤が艦内を染め上げ、起動シーケンスとともに封印解除が始まった。


 巨大な隔壁がゆっくりと左右へ開いていく。


 その奥にあったものを見た瞬間、ラザロスの背筋を悪寒が走った。


 それは新たなるAIだと、一目で分かった。


 人型でもなければ、一般的なサーバー群のような姿でもない。


 だが、その周囲を取り巻く無数の闇の層────絶え間なく生成と消滅を繰り返す演算パターン、空間そのものを歪ませるほどの情報密度、そして人間には理解できない速度で脈動するデータの奔流が、それが知性を持つ演算存在であることを否応なく示していた。


 だが人類が知るどんなAIとも違う。


 そこにあるのは色ではなかった。


 光そのものが沈み込んでいくような闇だった。


 輪郭は曖昧で、視線を向けるほど形が崩れる。


 まるで現実から切り取られた暗黒が、そこに寄生しているかのようだった。


 無数のケーブルが蠢いている。


 蛇の群れや腸の束、神経繊維、血管、触手を思わせる異様な塊。


 だがそれらのどれとも違う。


 生物と機械の境界を踏み潰したような異形。


 その中心部では、直径およそ五メートルはある球状の演算核が脈動していた。


 心臓のように、胎児のように、あるいは腐敗した神の卵のように蠢いている。


「これは……何だ!答えろ!」


 ラザロスの声が震える。


「終焉のAI、E.L.Y.S.I.A────End-of-Life Yield System for Irreversible Annihilation」


 返ってきたのは、あまりにも静かな声だった。


「文明を保存するでもなく、管理するでもなく、まして支配するでもない」


「ただ滅ぼすためだけに生まれた美しい演算存在(エリシア)


 ぞわり、と空気が揺れた。


 演算核の表面から無数の目のような光点がぎょろりと開く。


 無数の目があらゆる方向からラザロスを見つめ、観測していた。


「……狂っている」


「そうだ。それにE.L.Y.S.I.Aは()()()()()()人類世界への純粋で濃密な憎しみと殺意とが自我の雛型となっている」


 声はあまりにも冷静だった。


「それ故にこれほど美しく完成した」


 その言葉と共に、突然床面が裂けた。


 轟音が上がる。


 極太の侵蝕ケーブルが何十本も飛び出す。


「な────」


 回避は不可能だった。


 腕へ、脚へ、背中へ、首筋へと。


 そしてさらに何本も何本も、生き物のように絡みつく。


「やめろ!!」


 ケーブル先端が肉へ食い込む。


 皮膚の下へ潜り、さらに神経を伝い、脊髄を貫いて、ついには脳へ。


「ぐっ……あ……っ」


 ラザロスの身体が大きく反り返った。


 演算情報が流れ込む。


 人格を書き換える濁流。


 記憶が砕ける。


 自我が裂ける。


 理性が剥がされる。


「おっほおおぉぉぉ……!!」


 絶叫とも悲鳴とも歓喜ともつかぬ声が、なおも闇の奥へと響き渡った。


 やがて瞳孔は大きく開き、血管は黒く染まり、骨格は軋みを上げる。


 さらに皮膚の下では黒い何かが蠢きながら全身を這い回っていた。


 それはもう人間ではなかった。


 けれど、既にAIとも言えない。


 境界そのものが消えていく。


『────心地良い。もっと、憎しみを、断末魔を聞きたい。それに、()()が憎んでいた対象は、とても美しいです』


 E.L.Y.S.I.Aの嬉しそうな合成音声が響いた。


「素晴らしい」


 薄暗い艦内の向こうで声が言う。


「これでようやく器が完成する」


 変わり果てた姿のラザロスの口が動く。


 だがそこから漏れた声は、以前のものではなかった。


 幾十、幾百、あるいは無数の声が幾重にも重なっている。


『────────』


 言葉にならずとも理解できる、それは憎悪だった。


 純粋な破壊衝動だった。


 艦全体が震え始める。


 演算核は、ドクンと不吉な鼓動を刻んでいた。


 その度に地球規模ネットワークの各所で異常なノイズと負荷が発生し、ネットワークが悲鳴を上げていた。


 だが、その兆候はあまりにも微細で断片的だったため、世界最大の統合管理AIであるE.D.E.Nですら、まだそれを単なる誤差の範囲としか認識していなかった。


 そして遠く離れた極東の中央医療棟。


 深い昏睡の中にいる蒼真の指先が、ほんの僅かに動く。


 まるで、何かの接近を察知したかのように。


 ベッド脇で眠っていた柊は、その変化に気付かなかった。


 誰もまだ知らない。


 ラザロスは生き残ったのではない。


 もっと恐ろしい何かへと変生(へんじょう)してしまったことを。


 そしてその異形の演算存在の後ろでは、影とも輪郭ともつかない誰かが静かに佇んでいた。





気づけば今回で100話目を迎えることができました。

ここまで続けられたのも、

見守ってくださる皆様のおかげです。

これからもとにかく完結を目標に

BのLを紡いでいきます!

ていうか今回さすが100話というか

けっこー過去イチsexyな展開では?

なんか「おほお」って言ってたら

エロいんだよね?ジジイやけど。

お好きな方にはたまらなく

刺さったんじゃ…(ふざけんな)

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