第27話 門出を祝う
前夜に恋話で盛り上がりすぎた故に、翌朝は寝不足で食卓についた皆の顔は死んでいた。
覚醒しきれない尊たちに亘が朝食とともに空のコップを配る。そして突然シュウが触手の先からオレンジ色の液体を注ぎだした。
「「「「「!?????」」」」」
「ジュース飲んでやっと頭さえてきた。シュウありがとう」
「まだ飲む?」
「今日も安定の美味しさですねシュウ様!!」
「朝からそのテンション本当すごいよね。兄さん、俺もおかわり」
触手から出されたジュースを亘たちは平然と飲み干していく。その様子を見ながらも得体の知れない液体になかなか手が出せない。普段好奇心旺盛な賢者ニルギルも魔導師キームンもさすがに躊躇している。
「あれ?食べないの??朝食は取らないスタイルだった?」
「いえ、食べますけど・・・このジュースは?」
「あぁ、それはうちの畑でとれた野菜のジュースだよ。絞りたてで美味しいよ」
「・・・(絞りたて)」
善意で勧める亘に断れず、意を決してジュースに口をつける。初めて飲む未知の味、触手ジュース。その感想は
「「「「「美味しい!!!」」」」」
思わずおかわりを頼む尊たち。そしてなぜかドヤ顔の亘。
「美味しいでしょ。シュウはね、取り込んだ物を体内で加工出来るんだよ!すごいでしょ」
「僕が体内精製できるって知った母様が『じゃあ、体の中でジュース作れるんじゃない?牛乳でアイスもいけるじゃん!』って」
「扱いが調理家電」
「高い能力をそんな事に使うなんて逆にすごいですわ」
「母様が美味しいって言ってくれればそれでいい」
「うちの子可愛いだろ」
「そのドヤ顔止めてください」
起き抜けに心臓に悪いパフォーマンス(絞りたてジュースの件)や、一宿一飯の礼に宝石や金貨を渡そうとするルフナたちと頑として受け取らない亘との応酬があったりと朝から濃い時間を過ごした後、やってきた別れの時間。
「亘さん、お世話になりました。また遊びに来てもいいですか?」
「もちろんだよ!いつでも遊びに来て!!」
「良かった。一晩だけだったけどすごい楽しかったから」
「俺も日本の話できるの尊君だけだからさ。戦いが終わったらまた遊びに来て欲しいな。どうか無事で」
熱い握手を交わす尊と亘の横で、他メンバーと真下家も抱擁を受けたり触手実験を行ったりしている。一晩でだいぶ親交を深められたようだ。
再会を誓い、いざコウを先頭に出発しようとしたその時、シュウが爆弾を落とす。
「母様、僕も魔族国に行こうと思う」
「え!?」
「それは、私たちと共に戦うって事?それとも・・・敵対するって事かな?」
突然のシュウの宣言に戸惑う亘とは逆に、ルフナは冷静に聞く。返答によってはこの場で戦う可能性もあり先ほどの穏やかな雰囲気から一転緊張が走る。
「どちらも違う。ただ、僕は・・・母様の力になりたいだけ」
「何言ってるんだよ?今までずっと助けてくれてたじゃないか」
「だって今の僕、完全にパラサイト・シングルだもん。ニートだもん」
「兄さんは俺の仕事も手伝ってくれてるじゃん!大丈夫ニートじゃないよ!!」
「でも、僕家に1ルギーもいれてない」
「そんなのいいのに。家の事よく手伝ってくれるしさ。いや、そもそも俺に甲斐性があれば・・・」
「だから僕、向こうで就職活動してくる!!」
「え?それって・・・」
「それは向こう側につくってことかな?」
『魔族国で就職』を敵意ありと判断したルフナは戦闘態勢に入り、剣を構えて再度聞く。他メンバーもそれぞれ武器に手をかけている。
その様に反射的に亘はシュウの前に立ち、守る。数秒遅れて、セイやコウも同じくシュウの前に立つ。
ルフナが放つ威圧に亘の足はガクガク震える。
それでも、シュウが頼れるのは自分しかいないと自身を鼓舞して対峙する。
「僕はどちらにもつかない。けど、そうだね今は君たちについててもいい」
「それは・・・どういうことでしょうか?」
己を守る亘とセイに触手を絡めて、今度はシュウが守る態勢を取りながら話す。それに真意を求めるニルギル。
「魔王を倒すんでしょ?それを手伝ってあげる。僕も魔王が大嫌いだから」
「まさか、就職って・・・魔王の座を!?」
「いや、そんな面倒な席はいらない。僕は、サービス残業なしの基本定時あがりで、福利厚生が整ってて、有給もとりやすいホワイト企業に勤めたい。高給ならなお良し」
「企業戦士なめてんのか!」
「社畜に謝って!!」
「えっ・・・すごい怒られた。なんで?」
「なんでって、そんなホワイト企業はな、もはや都市伝説なんだよ。ないんだよシュウ」
「なければ作ればいいじゃん。魔王を倒すの手伝うから、向こうでホワイト企業つくって雇ってよ。僕、週3日勤務くらいがいいなぁ」
「魔王討伐より難易度高い!」
「でも、待って。魔族国で起業・・・私の力が試されている?」
「え?ニルギルさん?」
「何の為に私の存在があるのかと、ずっと模索していた答えにたどり着いた気が致しますわ!」
「世界平和の為だよね!?」
「シュウさん!!私があなたの力を活かしてみせますわ!」
「わぁーい!社長よろしくお願いします!じゃあ、そうと決まればちゃちゃっと終わらせよう!母様、行ってきます!」
「え?あぁ、うん。気を付けて。内定おめでとう」
シュウの勤務希望条件を聞いてなぜかやる気をだした賢者。『だから結局どっちの味方なの!?』というルフナの突っ込みとコウの存在を無視して、シュウは勇者一行を抱え森を爆走していった。彼女たちの悲鳴が森に響いている。
亘は、長男の就職が上手くいく事を祈りつつ、置いてきぼりをくらい地面に伏して落ち込んでいるコウのフォローに尽力する。
入れたかったけど、入れる場面が分からなかった小話(長っ)
尊「セイ君も精霊に好かれてるんだよね?」
セイ「そうみたいだけど、見えないし、声もたまに聞こえる程度だから実感ないよ」
尊「え!?今僕の精霊と盛り上がってるのも聞こえないの?」
セイ「聞こえない。何て言ってる?」
尊「『美少年尊い』『見た目儚げなのに一人称俺って最高か』『ほんとそれ』『可能性無限大』」
セイ「・・・」
尊は神直々にスカウトされてきているので、精霊にも好かれやすく見えるし聞こえる。魔族の動向を教えてもらったり、『今日のアッサム』の報告をうけたりしています。セイはそこまでの域にないけど、力を欲しいとも思っていないので放置。




