第14話 初めてのお客様
誤字直しました。
報告ありがとうございます。見直したつもりで出来てなかったです
この機能いいですね
特にこれといった解決策を見出だす事も出来ず、さらに1週間が過ぎた本日2度目の定休日。
1週間溜めに溜めた家事と、若干放置気味になってしまっていた畑作業、合間合間で「かまってかまって!」と煩い息子2人の相手と、亘の午前は目の回る忙しさで過ぎ去って行った。
そして、やっと一息つけた昼御飯タイム。疲れて素麺だけの手抜きメニューに文句一つ言わない息子たちに『夕飯はもう少し手が込んだやつ作ってやろう』と、ひっそり決意している亘。3人でワイドショーを見ながらのんびり寛いでいた時、玄関のチャイムが鳴る。
固まる3人。誰一人動かない。面倒臭くての「お前行けよ」「いや、お前が」という押し付けではない。完全な戸惑い故にである。
「「「・・・」」」
どう考えてもおかしい!
え?誰!?こんな森深い中に佇む日本家屋に訪ねる知り合いとかいないんだけど!?
怖い怖い怖い怖い!
すでにシュウとセイは戦闘モードに入っている。大黒柱の亘はただリモコンもって固まっているだけだ。
緊迫した空気を壊したのは、襖を勢いよく開けた珍客の呑気な声だった。
「こんにちはー居るなら出迎えてよ~お邪魔しま~す」
「「帰れーーーーー!!!!」」
「あぁーーーー!靴!靴!土足はやめてーー!!!」
入ってきた珍客の正体は、日々セイを追いかけ回している騎士団副団長ダリンジーだった。
直ぐにでも飛び掛かりそうな真下家兄弟の威圧もなんのその、全く気にした様子もなく物珍しげに部屋を見渡している。大物だ。
「えぇ~この箱どうなってるの!?小さい人が入ってる!精霊??え?これは何?この食べ物は??これは?これは??」
「え?あっ、ちょっと待って待って!!そんな色々急に言われても・・・いや、その前にどうやってここに!?」
しれっと、ちゃぶ台前に座って寛ぎ始めたダリンジーに慌てて亘は一番の疑問をぶつける。ダリンジーの目的も分からない今、警戒心が溶ける訳がない。それに、いつもは隠れているシュウも今は姿を現しているにも関わらずこの余裕。既に周りを囲い混んで一斉攻撃の合図待ちなのではないかと亘は勘ぐる。
「ん~~・・・どうやってって言うのはね~実はママさんの鞄に・・・これを入れてました☆」
そう言うと、ちゃぶ台近くに置いてあった仕事鞄の中からビー玉サイズの翡翠色した石を取り出す。何時の間に。
「これはねぇ~俺の魔力を微量だけ込めてあるのね~んで、その魔力を辿ってここまで来たって訳で~す!いやぁ、感付かれないように本当にちょっとしか込めてないから来るの大変だったんだよ~」
「ひぃぃぃぃぃ!!GPS!?怖い怖い怖い怖い!」
「お前ガチのストーカーじゃねぇか!!!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
完全に戦闘モードに入った2人は自分たちの後ろに亘を非難させ、シュウは部屋ギリギリの大きさまで巨大化し、威嚇。セイは右手を巨大化させた上に鋼鉄化させて鋭い指先をダリンジーに向ける。そんな変貌した2人を前にしても、ダリンジーは余裕を見せる。それどころかお茶を催促する図太さまで見せてきた。
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。俺は別に戦いに来た訳じゃなくて~友達の家に遊びに来ただけなんだからさぁ~」
「ふざけんな、帰れ」
「セイはつれないな~」
あはははと笑いながら腰を上げる様子が一切見られないダリンジーに、さっさと要件聞いて帰って貰う方向にシフトする。亘は言われた通り、お茶をダリンジーに差し出し切り出す。
「それで、本当は副団長さんは何をしに我が家へ?シュウを見ても驚かないのは・・・知っていたんですか?」
「いやぁ~何かしらの魔獣を飼ってるとは思ってたんだけど~まさか・・・『森の主』・・・とか~??あははは」
「え?知らなかった??」
「いや知らないよ!!!何だよ森の主って!!!腰抜かしちったよ!!」
先程までの余裕はどこへ?ちゃぶ台を叩きながら半泣きで訴える姿にいつかの自分を重ねる亘。
え?・・・腰抜かしてるの!??これで!?めっちゃ余裕そうだったじゃん!!!
いやー騎士団は腰の抜かしかたも格好いいなぁー
「母様、これ放って大丈夫。ザコ」
「こらっ!!シュウ言い方言い方!思いやりを持たないとダメだ。そう言われたら俺は悲しい」
「はーい。ごめんなさい」
「あの、残虐非道な『森の主』を謝らせるなんて・・・ママさん何者?」
亘とシュウのやり取りに度肝を抜くダリンジー。見た目からは想像出来ない強さを秘めているのかと観察する。それを斜め上方向に勘違いする次男セイ。
「お前!さっきから母様をジロジロ見て!母様はお前なんかに渡さないからな!」
「えぇ!?違うよ~!!セイに会いに来たのに~!」
「わざわざこんな場所まで!?まさか・・・え?ショタコン??」
「うわっ、お前終わってんな」
「お巡りさん、こいつです」
「違うよ~!!誤解だよ~!!」
ドン引きする真下家と必死に弁明するダリンジー。話が全く先に進まない。気を取り直し、話を軌道修正させる。話をまとめると、何の事はない、何時もと一緒の『騎士団スカウト』話だっただけだ。その為に家を突き止めるその執念が恐ろしい。
「いつも、家はぐらかされるから~気になってさ~。それに住所録見てもセイたちの名前ないし~団長からはそんな怪しい奴を入団させる訳にいかないって反対されるしさぁ、それで最終手段で後つけたんだよねぇ~最初はセイに付けようと思ったけど隙がないんだもん~!!」
「騎士団には入らない。興味ない」
「もー!・・・本当は今うち、いづれ来るかもしれない魔族との戦争に備えて戦力強化中なんだけどさぁ~ここ100年くらい平和で暇だったから『平和の為に!』っていう意識よりも『安定した生活の為に!』っていう意識のやつらばっかりでさ~全然弱いの!武装国家が聞いて呆れるくらい弱いんだよ~!騎士団って国家職だから給料いいんだよね~ハンターと違って歩合制じゃないし」
次第に仕事の愚痴っぽくなっていくダリンジーを慰めながら、世知辛い内部事情に同情的になる。
あぁ、どこの世界も『安定した職』がいいのか・・・
日本でも公務員って人気だもんなー
上からの要望と、下からの不満に板挟みの中間管理職は辛そう
「うんうん」と、相槌打って聞いてくれる亘に、ダリンジーの愚痴はなかなか止まらない
「それにさ~勇者一行が来た時にこの体たらくが露見するのを恐れて上が『森の主でも狩って国の力を見せつけよう』とか無茶な要望押し付けてくるし~そんなの無理に決まってるじゃん!魔王の弟だよ!?冷酷無慈悲のあのアグリーだよ!」
「すごい言われよう・・・あの、なんでシュウそんな風に言われてるんですか?俺が知ってるシュウは優しくて素直ないい子なんですけど」
「いい子!?あぁ~確かに~2人のやり取りみてるととてもそんな風には見えないね~・・・まぁ、俺も会うのは今日が初めてで~『森の主アグリー』は伝承として残ってるだけなんだよね~」
ダリンジーの知っている話は、昔突然フェニング国王の元に魔王が現れ『不可侵の森に我の弟を置いた。我を倒したくば弟アグリーを倒してこい。出来るものならばな』と挑発して去った。それを受けた国王自ら軍編成を行い森に向かったが、手も足も出ずに撤退を余儀なくされた。それ以降何度も討伐に向かうが100年たった今も倒せずにいる。街では悪さする子供に『そんな事してるとアグリーに連れていかれるよ!』と脅しの象徴としてずっと恐れられている存在。それが森の主アグリー。
「って話~俺も小さい時散々脅されたよ~まさか、そのアグリーがこんな・・・マザコンだとはねぇ~」
「アグリーじゃない。シュウだもん」
「兄さんすごい!そんな昔から強かったんだね!!」
「へへへ~母様は?僕すごい??」
「すごいすごい!シュウは最強だー!」
「へへへ~」
「えぇ~人間を滅ぼそうとしてるなんて全然想像出来ないなぁ~」
「人類滅亡!?そんな事するわけないでしょ!!誤解です!皆さんはシュウを誤解しすぎです!!そんな酷い事が出来る子じゃないんですよ!!実際、2週間街にいたけど何もしてないでしょ?それに、各国では魔獣被害が出ているのにこの国ではそれはないと聞きました。なんでだと思います?」
「それに関しては俺らも謎だったんだけど~え?・・・まさか」
「シュウが狩っていたからですよ!だから他に比べてこの国は安全だったんです!魔族領と隣接していて彼らが襲ってこないことも気にしなかったんですか?全部シュウが止めていたのに!!それを貴方たちは!!!シュウの、セイの苦労も知らないで・・・!!」
「母様好き。大好きだよ。僕は、2人がいればいい」
「俺も!!」
「俺も2人が大好きだよ」
亘は、シュウが魔獣や魔族を人知れず撃退していたからこそ、国の安全が保たれていたにも関わらず討伐しようとしていた人間側の身勝手さ、畏怖の目を向ける人々の差別
くだらない見栄の為にセイを含めた奴隷の人々が体験した残酷な所業
捨てた癖に、シュウを利用する魔族側の身勝手さへの怒り
そして、それらを知っていて『家族がいればそれでいい』と受け止める2人が不憫で堪らないのだ。
(実際には2人は本当にこれっぽっちも全く微塵も気にしていないし、心の底からの本心で『家族以外どうでもいい』と本気で思っている)
我が子が理不尽に嫌われている事を亘が許容できるわけもなく、大人げなくダリンジーに気持ちをぶつける。シュウとセイは、自分たちの為に必死になってくれる事が嬉しくて亘に抱き着く。
そんなやりとりを空気と化していた傍観者ダリンジーは、帰ったら上司に『森の主』の脅威は全く心配ない事だけは報告しようと思っていた。
あぁー、でもこんな話信じてくれるかな~
『森の主』はただのマザコンだなんてなぁ~無理かな?無理そうだなぁ
でも、ママさんをこちらに取り込んだら、人間軍最強じゃない??
欲しいなぁー
セイも欲しいなぁ~この年齢であの身体能力は欲しいなぁ~まだまだ発展途上だもんなぁ~これから・・・
「俺が誤解していました。これまでの失礼な発言申し訳ありません」
突然頭を下げるダリンジーに困惑する真下家一同。
「いや!こちらこそ生意気な口きいてすみません!!ずっとそう教えられていれば誤解するのも仕方ないっていうか・・・本当のシュウは素直で可愛いってことだけダリンジーさんに分かってもらえただけで十分ですから!!顔上げてください!!」
「あっ、ほんとに~??ごめんねぇ~。じゃあ、仲直りということで!」
「切り替え早っ!!さっきまでの雰囲気はどこに!??」
「それで俺ちょっと思ったんだけど~、ママさんはお金が必要なんだよ?」
「スルー!?俺の話スルー・・・え?お金??・・・まぁ、生活していく為にもある程度は必要かなとは思って働いてはいるんですが、いつシュウやセイの正体がばれるかと思うとあんまり長く街にはいれないなと思っています」
「シュウさんは分かるけど・・・なんでセイ?あっ、右手?その能力恰好いいよね~どうなってるの~?」
「えっ?知ってて詮索してたんじゃないんですか?てっきり教会と繋がりが・・・」
「ん~~~~???それはどういう事でしょう??」
本気で分かっていなさそうなダリンジーに、セイが家族になるまでの経緯を説明する。騎士団と教会が繋がっている可能性も考えて報告できなかった人身売買等犯罪関連の事まで詳しく説明する。もちろん亘が異世界人であることやセイの右手が神からの贈り物であることはさすがに秘密だ。そこは苦し紛れの『昔からここに住む一族の末裔』『気が付いたら生えてた』で押し通す。ダリンジーも嘘と気づきながらもそこは大人の対応でスルーする。何れはしっかり聞き出すつもりではあるが。
あらかたの説明が終わった頃には、最初の軽い雰囲気はどこへやらダリンジーの顔は険しいものに変わっていた。
「それを聞くと益々、セイはもちろんママさんも騎士団に入った方がいいかと」
「えっ!?俺も??無理無理無理!無理です!俺何にも武術も剣術も出来ないですし、ましてや魔力すらないです!」
「あっ、ママさんは騎士団としてではなく騎士団宿舎や執務棟管理です。弱いのは分かるからねぇ~さすがにママさんのレベルじゃうちは無理だよ~」
「・・・そうですよね」
勘違いした自分が恥ずかしい!!!
恥ずかしさに悶絶する亘をそのままに、ダリンジーはさらに説明する。
「セイが参加した闘技戦からセイに目を付けているのは俺だけじゃないんだけどぉ~、まぁ、俺がずっと周りをけん制してたから声かけられなかったでしょ?他の国も欲しがってたしさぁ。でもセイはこの森から離れるつもりないでしょ?」
「もちろん!」
「だから、もういっそ俺の騎士団に入団しちゃえば大丈夫じゃない~??最近またハンターたちが集められているっていう情報きてるんだよね。前回は失敗に終わったとは聞いていたけどまさかそんな非道なやり方でやっていたとは思わなかった。教会自体は運営が怪しいとは睨んでいるんだけど上と繋がっているせいで証拠が掴めなかったんだよねぇ~助けてあげられなくてごめんね」
「別に。今は母様も兄さんもいるからいいよ」
「いや、良くない。国の治安を守るべき騎士団隊員として謝らせてほしい。必ず尻尾を掴んで一掃する」
「・・・潜入する時は言えよ。地下までの行き方なら教えてやる」
「ありがと~セイは優しいなぁ。あ、話がそれたけど、騎士団としてセイの能力が欲しいっていうのもあるけどさっきの話を聞いて思ったんだよね~俺たちはずっと『森の主アグリーは恐ろしい魔物だ』って教わって来たからなかなかその印象を覆すのは難しいと思うんだけど、それが好転する可能性はゼロじゃないと思うんだよねぇ~」
「えっ?どうやって??」
「えぇぇぇーーシュウは別にこのままでいいもん」
「勇者一行と一緒に魔王退治する!!!そうすれば、『森の恐ろしい番人』から『フェニングの守護神』に好転!!」
「いや、それシュウを利用しているだけじゃ・・・」
「今後もここに住み続けるなら、やっぱりフェニングで働くのが一番だと思うんだよねぇ~。でも今の状況でシュウさんの正体がばれたら国総出で討伐開始になるのは明らかです。その為には印象を変える事が必要かと」
真面目な顔付で、この街に留まる事のメリットとバレた後のデメリットの差を説明していく。
「そりゃ、俺も騎士団として戦力底上げになるからって理由でずっとセイを追いかけてたけど~でも、一緒にいてセイは面白いし一緒にいれたら楽しそうだなっていうのも本当。2人の力があれば正直それだけで魔王退治も出来そうだけど、勇者と共にこの世界の為に戦ったって肩書きがあれば見る目も変わるんじゃないかと。ただそうなると、突然出てきたセイが同行するってなっても納得できない人もいるだろうから、その下準備の為に騎士団に入団してその能力を発揮して圧倒的知名度を手に入れて同行権利を取っちゃえばいいじゃん!あっ、それか給料を考えたら教官として俺と一緒にしごき役するのはどう~???騎士団なら、教会からも他国からも守ってあげられる。武装国家なだけあって、この国は他と違って実力主義なところあるから騎士団の権力も結構強いんだよ~」
そこまで言われれると、亘としてはかなり良い条件な気がした。このまま食堂で働くよりは安全面が確保される騎士団管理の方がずっと働きやすそうだ。事情を知っている人間がいるというのも心強い。何より給料が破格だ。とはいえ、一番は働くシュウとセイの気持ち次第だが。
「母様は?どう思う??」
「俺は、今の食堂よりは給料上がるし安全面では申し分ないしいいなと思うけど、2人の気持ち次第だよ。最悪バレたら違う国に旅する生活にするのもありだしな」
「そしたらこの家には住めない??」
「・・・まぁ、そうなるな」
「分かった。俺入団する!ついでに教会潰す」
「僕も!ついでに魔王潰す」
「物騒!」
「やったぁ~!!!さっそく団長に報告しよ~明日から同僚だねぇ~よろしく!!」
「明日から!?早っ!!ちょっと待って下さい。食堂の皆さんにも挨拶とかしたいし何より今は人手がなくて辞めるわけには・・・」
「大丈夫大丈夫!数人やってくれそうな当てがあるから、お願いしとく~」
そんな人がいたんだ?顔広そうだもんなー
それなら良かった、やっぱ筋を通したやり方で退職したいもんな
勇者一行とかどんなんだろう・・・そっちの不安もあるけど
とりあえず、生活の基盤が出来そうで良かった!!!副団長万歳!!
話がまとまり、最初はシュウを恐れていたダリンジーも今では完全にリラックスした様子でお茶を飲んでいる。最初のニコニコとした人好きそうな笑顔を浮かべずっとセイに話しかけている。
「セイはさぁ、まだまだ発展途上(戦闘力の話)だと思うんだよねぇ~これからが楽しみだな~」
「発展途上好き・・・やっぱり・・・副団長さんは、そっちの・・・」
「心底気持ち悪い」
「セイ、僕から離れたらダメ。こいつ危ない」
「違うからーー!!!やめて!蔑んだ目で見ないで!!!」
俺は、安定した職の対価に可愛い息子を変態に・・・
決断を早まったかもしれない




