第12話 真下家ついに街に行く【後編】
時は少し遡り、亘が公園を去った後の話
《シュウ・セイサイド》
「行っちゃったね。この後どうする?兄さん行きたいとこある?」
「特にない。任せる」
「えぇぇー・・・しょうがねぇなぁ、じゃぁとりあえずブラブラするか」
亘を連れてくることだけが目的の2人とっては、それが果たされた今特にここに留まる理由も目的もないので街を気ままに徘徊する事にした。
セイにとっては馴染み深いはずの教会すら興味がなかった。
そんな2人が徘徊している最中、壁に貼られた1枚の張り紙に目が止まる。
『フェルムから英雄を!!!来たれ勇敢な者どもよ!第56回コロシアム闘技戦!!!』
「兄さん」
「セイ」
「「行くしかないよね」」
2人は目を合わせて笑い合う。
張り紙によれば、勝者は勇者一行に同行する栄誉を得られるという。戦闘方法は自由。勝ち残った1人が優勝という実にシンプルな戦いだ。正直、栄誉も勇者と同行することも毛ほども興味はなかったが、優勝賞金が出るとなれば話は別だ。それがあれば亘が働く必要などなくなる。また静かに3人森で過ごせる日々に戻れると意気揚々と2人(はた目からは1人)は受付窓口で手続きを行う。
名前と年齢、使用武器の申請だけの簡易な受付を済ますとセイは出場選手控室の隅で静かに待機しながら他の選手を観察していた。ちなみにセイは右腕の武義手(に変形させている)と背中の特殊魔獣を武器として申請している。
腕に自信がある者が集まっているだけあって、筋肉隆々で屈強そうな者ばかりであった。自分の背丈以上の大剣を軽々と素振りしている者、細く造りの美しい剣を磨いている者,巨大獣と戯れている者等個性的である。なかにはセイ程ではないが華奢な人も数人いるし中には女性もいる。その様な者からシュウは強い魔力を感じ取っていた。恐らく魔術師なのだろう。
人が多い控室でセイは長年の習性から壁際に座り込んで静かに自分の存在感を消していた。おかげで華奢な子供のセイが浮くこともなく淡々と試合は進んでいく。
「あれれ~ここは子供が来る場所じゃないよ~どうしたのかな?迷子かな~??」
「っ!??」
「あれ~驚いてる?気づかれて驚いてる??」
「迷子じゃねぇし」
「えぇ~じゃあ、出場者なのかな~??やめときなよぉーその年で生き急ぎはよくないよ~」
「アンタには関係ないだろ」
「・・・・」
「・・・・」
もはや壁と同化しているのでは?というくらい馴染んでいたセイに話しかけてくる男が現れた。明るい茶髪でくせ毛の若い男は間延びした話し方とは逆に鋭い目つきでセイを物色する。男はセイから感じる只者ではない雰囲気(シュウの魔力)を感じ取っており警戒しているのだ。セイもまた、突然話しかけられた事に驚いたが、男が向ける目に警戒心を強める。無言の応酬に決着が着いたのはセイの出場する試合が始まると知らされてだった。
「俺ね、ダリンジーっていうの。よろしくね~」
「・・・・・」
「頑張ってね~最終決戦で会おうね~セイなら来れるでしょ??」
「・・・・なんで知ってんの?」
「受付用紙みたから、てへっ」
そんな最初から自分に目を付けていたのかと思うと、男に対して底知れぬ恐怖を感じ警戒を強める。こいつは危険だと直感する。無意識に右手を握るセイを安心させようと、背中についているシュウは触手で背中をさする。『僕もいるから大丈夫だよ』と言えない想い込めて。
そうだ。俺はもう一人じゃない
母様の助けになりたい
そもそも、兄さんもいて負けるわけがないのにビビって格好悪すぎだろ俺
心に余裕を取り戻し、不敵な笑みをダリンジーに向けるとセイはそのまま試合会場の入口に悠々と歩いていった。
入口を抜けると空が広がり歓声が沸き起こっている。
朝方上空から見た時も大きいと感じたこの闘技場は、いざその場に立ってみるとよりその大きさを実感する。セイ含むこの試合参加者数は約20人。会場の方々から様々な名前の声援を聞く。そこそこ有名な人が同じ組なのかなとセイは呑気に考えているが、実は『そこそこ』で片付けられないレベルの者が多数参加しているのだ。
本来、この闘技戦は騎士入団試験を兼ねたものでそれ故、参加者もこの国出身者が多くを固めているような小さな催しだったのだが、今回は魔王討伐の為に抜けなくてはならない森探索の『勇者同行権利』の付加価値が付いたことにより、名誉・名声を求めた世界各国の猛者が名乗りをあげてこの外れの街に集っているのだ。彼らにとって勇者一行に選ばれなった自分たちにはこれが最後の有名になれるチャンス。並々ならない決意をもって試合に挑んでいる。まさかそこに『森の主』自ら参加しているとは思いもしていない。しかも参加理由が『生活費の足し』とは考えつきもしないだろう。
2人は優勝賞金さえもらえればさっさと帰る気満々なのだが。
今回は参加者数が過去最多の為、普段は2部構成の勝ち上がり戦を、まずは数十人ずつに分けての第一回戦、その後勝ち残った者同士を4組に分けて第二回戦。そして最後にそれぞれで勝ち残った4人で決着をつける最終決戦の3部構成になっている。
「1回戦、第9試合目開始!!!」
ゴングと共に歓声がより大きくなる。ついに試合開始だ。この試合では誰が勝ち残るのか。
南の国からきた、1人で魔獣100匹討伐に成功した大剣使いのヨーレンか。
西の国からきた、巨大従魔使いのレイナーか。
それとも・・・観客それぞれが勝者予想を考えている一瞬の内に勝敗はついていた。試合開始と共に舞い上がった土埃が晴れるとそこには中央に立つ少年以外全員が地に伏しているのだ。レイナーが連れてきていた従魔は尻尾を丸めてガタガタ震えながら蹲っており、なぜか参加者が所持していた武器具は少年の足元に転がっている。
司会者にも何が起こっているのか理解出来ず、拡声器をもったまま固まっている。
「あっ・・・・え?え??あ・・・第9試合勝者は・・・・・えっと・・?」
「セイです。もう戻ってもいいですか?」
「え?あ・・・はい、どうぞ?」
会場全体に困惑を残したまま、セイは堂々とした足取りで元の控室に戻っていった。戻って早々、ダリンジーに捕まるセイ。
「やっぱ強いねぇ~ねぇねぇ、その右手どうなってるの??さっきのすごかったね」
「・・・うるせぇ」
「つれないんだからもぉーーあっ、次俺の組だ。行ってくるね~」
なんだあいつ?
俺の右手の変形スピード見えてたのか?
兄さんの事も??
・・・やっぱあいつ危ないな
「兄さんはどう思う?」
「んー・・・見えてたのがセイの変形だけなのか、僕の事も見えてたのかで変わるかな。セイだけなら大丈夫でしょ」
「えぇぇぇー俺、今回過去最高に早かったと思うのに」
「まだまだだね」
「ちぇっ」
「ふふふっ。でも、強くなってるよ」
最初同様、壁の一部になりながらコソコソと2人は試合の出来を振り返る。
ゴングが鳴ったと同時に、セイはその場で回転しながら指を伸ばしそれぞれを兄に習って触手のように使いこなし参加者の武器を奪い無効化していく。弟が無効化した参加者を今度はシュウが触手で殴って気絶させていく。その際持ち前の魔力を放出させ従魔を威圧し敵意を根こそぎ奪う。
これが、一瞬で勝負がついた第5試合目の結果内容である。誰も分からないと思っていたスピード戦をダリンジーは見れていた訳で、やはり侮れない相手だと気を引き締める。
第10試合勝者は難なくダリンジーに決まり、その後も続々と勝敗が決まって最期の12試合目が終了し、昼休憩を挟んで、午後から2回戦が始まる。
静かにお昼を食べらる場所を探して、闘技場をうろつくセイを目ざとく見つけたダリンジーは昼食に誘う。セイからすれば兄を人前に出せないので迷惑極まりない。それを露骨に態度に出して距離を取ろうとするも、ダリンジーもしつこくつきまとう。結果、お昼を食べそこなったまま2回戦に突入する事となった。
接戦での前2組と違い、昼を食べそこなった事とダリンジーに対する苛つきでセイは1回戦時とは違い、今度は右手武義手はそのままに縦横無尽に飛び回り、他参加者を煽りながら叩きのめしていく。今回シュウの出番はない。セイにすればただの八つ当たり行動なのだが、見た目華奢な美少年が大の大人を物ともせずに叩きのめしていく姿に観客は歓声をあげ会場は熱気に包まれる。1回戦目より時間をかけた割にセイ自身に全くダメージも疲れもなく余裕で勝ち抜けた。もちろん第4試合目勝者はダリンジーだ。
そしてついに来た最終決戦。
中央国からやって来た5大魔法を使いこなす魔術師カリネオか。
東の国からやって来た一子相伝の剣術使いコウか。
この守備国要の騎士団副団長ダリンジーか。
それとも突如現れた今大会最年少の少年セイか。
「アンタ副団長だったんだ」
「えぇ~俺を知らないの~??・・・君、どこから来たのかな~??」
「・・・・・」
「だんまりよくないよぉ~」
「最終決戦スタート!!!!」
ゴングが鳴り、本日最高の歓声が上がる。
カリオネは炎と水で火龍と水龍を造りだし、襲いかかる2龍の隙間に素早く潜り込んだコウが目にもとまらぬ速さで攻撃する。それをすかさず防御呪文のバリアで対応するカリオネ。
防御バリアを出しながらも、今だ消えないカリオネの2匹の龍がそれぞれセイとダリンジーに攻撃の矛先を向ける。
水龍と対峙するダリンジーは手から出した炎で焼失させた後、セイに狙いを定め突進する。一方火龍と対峙したセイもまた難なくシュウの絶対防御力で跡形もなく消し去りダリンジーを迎える。
魔術攻撃を出させる隙を与えない速さで攻撃するコウと、次第に体力をそがれていくカリオネ。こちらの勝負はもう間もなくつきそうだ。
方やダリンジーvsセイの勝負はつきそうにない。
剣術、時に魔法を繰り出しながら息つく間もなく攻撃をし続けるダリンジーを、必死でさばいていくセイ。
「ねぇねぇ、さすがにきついんじゃないの~」
「うっせぇ・・・はぁはぁ、そんな、余裕ぶっこいてていいのかよおっさん」
「おっさんじゃありませーん!まだまだ若いでーす。ねぇねぇ、そろそろさ、背中の魔獣も出したらいいんじゃないの~このままじゃ負けちゃうよ~・・・・それとも出せない理由があるのかな??」
「・・・・・ちっ」
「舌打ちよくなーい」
とは言ってもこのままじゃ本当にまずい。
けど、ここで大きく右手を変形させるのもまずいし、兄さんに助けてもらっても・・・こいつはすぐに気づくだろうし
どうするか
「やろうセイ」
「・・・いいの?」
「バレてここにいる全員が来たとしても・・・余裕」
「さすが」
小声でブツブツ言っていたセイが、ダリンジーから1歩下がる。『来る!!』と直感的に感じたダリンジーは浮かべていた笑顔を消し身構える。得体のしれない目の前の少年がどんな攻撃をしかけてくるのか、彼は久々に感じる緊張感に高揚していた。
次の一撃で決まると、互いに確信した瞬間
「こらぁぁぁぁぁ!!!!!!止めなさい!!!!!!!!」
熱気包まれる会場内では、大声で叫んでも掻き消されてしまう。が、シュウとセイが亘の声を聞き逃すはずがなくすぐに振り返り亘に手を振る。
「母様みてみて!俺決勝まで来たよ!!優勝したら賞金もらえるから待っててね!!!」
「賞金!?いや、それは魅力的だけどそんなのいいから戻っておいで!!!危ないから!!怪我したらどうするの!!!!」
「「「いや、あの強さでそれはないだろ・・・」」」と会場全体が心で亘に突っ込む。
突如現れた平凡な青年の静止の声に、戦っていた他3名も動きが止まる。ダリンジーなど突然現れた『母様』と呼ばれた青年とセイのやり取りに
『男で『母様』って何~??え?セイ口調違うじゃん!?何その幼い感じ!??さっきまでの乱暴そうな感じどこいった訳~???』と突っ込みが追いつかない。
「えぇぇぇーせっかくここまで来たのに・・・・」
「ダメダメダメ!!本当に危ないって!遊びじゃないんだから!!すぐ棄権しようよ!!」
「本当に賞金いらないの???300万ウェンって書いてあるよ」
「300万!すげぇ!!けど、俺にとってはセイたちの安全の方が大事だから早く帰ろう!ご飯もらったから帰ったら食べよう!ね??」
「やったーーー!ご飯!!帰ろう帰ろう」
『えっ??優勝いいの!?』と、思わず全体が突っ込むも、当の本人であるセイはさっさと棄権すると観客席まで飛び上がり亘に抱き着いた。
「お腹すいたー!早く帰ろう!!」
「やっぱお昼あれだけじゃ足りなかったよな?ごめんな。それにしても決勝までくるなんて本当2人はすごいよ」
「やった!褒められた!!」
「でも、もう危ない事はするなよ?本当、聞いたとき心臓止まるかと思ったわ・・・」
「ごめんね、賞金もらったら楽になるかと思って」
シュンとするセイの頭を撫でながら、子供にそこまで気を遣わせた事に申し訳なさと自分を思って行動してくれた事に感動する亘だった。そんなほのぼのとしたやり取りをしながら闘技場を後にしようとした3人(傍目には2人)を呼び止める人物がいた。もちろんダリンジーだ。
「えっと??セイの?知り合いですか?」
「知らない人」
「違うでしょ~俺たち友達じゃん~」
「違うから」
「友達とかふざけんな」という呆れた目線をダリンジーに向けつつ、セイは亘の服を引っ張り急ごうと強請る。ダリンジーはそんなセイをニヤニヤ笑いながら見つつ、2人の進みの邪魔をするように前に立つ。亘はと言えば、
やたら年齢差のある友達だけど、セイにも友人が出来るなんて!
やっぱ街きて良かったかも!
これで、明日また俺が仕事にいっても寂しくないよな!良かったー
呑気に思っていた。
「セイのお母さん?お父さん?ちょっと聞きたいんだけど~今、どちらに住まわれてます??」
「えっ!?えぇっと、む、向こうの方に・・・」
突然そんな事を言われ、咄嗟に正直に自宅方向を指してしまった亘。
「へー・・・向こうは、俺たち騎士団の宿舎だけどなぁ~一度も会った事ないですよねぇ~??」
「最近、その、越してきたものでして・・・ご挨拶遅れてすみません。それじゃ、俺たちそろそろ帰らなきゃいけないんで・・・すみません」
「いやいやいや、行かせるわけないでしょ~。副団長の俺が知らないって可笑しくない~??ねぇ、本当はどこから来たの?」
先ほどまでの、軽い雰囲気を消し、完全に敵を見る表情を浮かべるダリンジーに亘は緊張で足が震える。顔色悪くなる亘に反し、セイは顔色変えずに無表情のままダリンジーを見つめている。都合よくまだ決着のついていない決勝戦への盛り上がりで、人気のない通路に亘たちはいる。
『突然2人棄権した試合にも関わらず、盛り下がらないなんてすごいな』とあまりの緊張に余計な事を考え現実逃避している亘の手を掴み自分の後ろに下げるセイ。目が完全に語っていた。
『見逃さないのなら、容赦しない』
セイの気迫と、セイの後ろから少し見える得体の知れない生物の目にダリンジーは形勢不利と判断し、道を譲る。その横を2人が通る。妙な緊張感が漂う。
「あ、えっと、副団長さん?」
「・・・なんですか?」
そのまま帰るのかと思ったダリンジーは、呼び止められ亘に向き合う。
「息子がお世話になったようで、ありがとうございました」
そういうと綺麗な角度でお辞儀する。先ほどまで疑われて睨まれていたというのに・・・
亘はと言えば、それは祖母の『子は親をみて育つで、お前がちゃんとやらにゃいかんよ』という教えと、本で読んだ『子供が「ありがとう」や「ごめんなさい」と言えるようにする為には、まずは親が手本となりその姿をみせてあげる。決して無理やり言わせてはいけない』という教えを実践しただけの事だ。
だが、言われたダリンジーはまさかお礼を言われるとは思っていなかったようで、呆けている。それはセイもだった。
「なんでお礼いうの??」
「えぇ??だって、セイ遊んでもらってたんじゃないの?さっき楽しそうだったし」
亘には、闘技場での対峙を戯れだと思っているようだ。実際、セイは少しだけ強敵を相手する事に本当に少しだけ気持ちが高揚していたのだが、それを気づかれているとは思ってもいなくて恥ずかしい気持ちになる。
「楽しかったの!?あれが??あれで??」
「違うし」
「年上にそんなタメ口で・・・すみません」
「いやいや、全然いいんで~じゃあ、セイまた遊ぼうね~」
「絶対いや」
「ほら、また!」
「アレはいいの」
「人をアレとか言わない!」
先ほどまでの緊張はどこへやら。亘たちは穏やかな会話をしながらその場を立ち去って行った。残されたダリンジーは、久々に味わった未知への興奮が抑えられず執務室にて書類作業に追われている上司の元に報駆ける。騎士団にぜひとも欲しい人材がいると報告する為だ。
来たるべく魔王討伐に向けて、ここ、最前線の守りもより強固なものにする為ダリンジーは騎士団スカウト目的で今回の試合に参加した。素性は怪しすぎるが、己の直感が『害はない』と判断している。こういう勘は外れたことがない。絶対に彼が欲しい。また会えるとも分からない相手に対して、どうやって懐柔するか執務室に向かいながら考える。しばらくは楽しくなりそうだと、ほくそ笑むダリンジーだった。
一方その頃、まさか自分たち対象の討伐隊に入れられようとしている事等思っていない真下家兄弟は、今後危険な事はしないようにと、亘から懇々と説教されていた。
食べられなかったお昼のおにぎりは帰ってからちゃんと食べました。




