第11話 真下家ついに街に行く【前編】
書いていたらあまりに長くなりそうな気がしたので「前編」「後編」に分けました。
その日、平和な真下家に衝撃が走る。
ポストに入っていたそれを見て、あまりの衝撃に亘はフリーズする。
「「母様!!!どうしたの!??」」
「まさか・・・そんな・・・」
「何?どうしたの???何が入ってたの?」
二人は心配そうに、亘が握りしめている数枚の封書を見つめる。それが何なのか、皆目見当もつかなかったが亘が固まる程の衝撃を与える物だ。相当重要な物に違いないと、亘の説明を静かに待つ。
「こ、光熱費の支払いが・・・来た」
「「こうねつひ?」」
~真下家緊急家族会議~
議題:固定費支払について
数枚の支払い用紙をテーブルに置き、亘は手を顔の前に組み二人を重々しい表情で見つめる。その真剣な様子に二人も背を伸ばし気を引き締める。
「それでは会議を始めます」
「「はい」」
「えぇ、我が家の固定費は電気・ガス・水道・通信費、N〇K受信料、保険で今月の支払いは38000円です。食費、雑費は含まれていません」
「「はい」」
「ここで問題があります」
「「はい」」
「我が家にお金がありません!!!!!」
支払の事すっかり忘れてたわ!なんでこんなところまでリアル追求するんだよ!
いいだろ!そこら辺はもうなかった事にしてくれればいいのに!
いや、そもそもどうやって支払うの!?コンビニなんてないよね?
・・・とりあえず、神様に電話しよう。止められたら最悪だ
この熱帯夜をクーラーなしはきつすぎる
『お金と一緒にポストの中にでも入れとけば?』
「適当か!そもそもこういうのって免除されたりしないの!?俺向こうの世界でいないことになってんだよね?しっかり『真下 亘』宛だけどなにこのホラー!??」
『そうは言ってものぉ、使ってる分はしっかり払うのが常識じゃ』
「くぅ!正論!!」
だめだ。参考にならない
このまま支払期限切れて使えなくなるのもまずいしとりあえずまずはお金を集めよう!
・・・・どうやって?
一晩悩んで、亘は決意する。
「俺人間領地にいってくるよ。調味料とかも少なくなってきてるしちょうどいい機会だと思うんだ」
「危険だよ!止めようよ!」
「そうだよ母様、そもそもどうやってあの壁を超えるんだよ?」
「あっ」
「「・・・母様」」
「やべーそこまで考えてなかった!向こういったら皿洗いとかに雇ってもらおうくらいしか考えてなかった!まずいこのままじゃ支払いがー!!」
「俺が抜け道とか知ってたら良かったんだけど、教会しか知らないや。ごめんね」
「僕も森しか知らない。ごめんなさい」
「それ言ったら俺日本しか知らないから」
「「「・・・」」」
ダメじゃん。
3人寄っても知恵が湧かないぞ
「あと、母様の恰好たぶん向こうで浮くよ?」
「そんな細部まで考えてなかったわ!さすがにスエットはまずいか・・・」
ずっとスエットTシャツで過ごしてたからなぁ
なんだろ・・・スーツ?
絶対違うわ
ちなみに、セイの服は『ひ孫が出来たのよ~』と報告した祖母にご近所の方々がそれぞれの子供や孫のおさがりを大量にくれた物を着ている。後3、4年は買い足さなくてもいいレベルでサイズも数も豊富だ。最近の子供服はおしゃれな物が多く、儚げ美少年のセイにはよく似合っているがこちらの世界では亘同様確実に浮くだろう。
「僕も行く。僕ならあの壁くらい余裕」
何か良案ないものかと思案している亘に、シュウが提案する。
それは、人間に良い印象を持っていないシュウにとっては断腸の思いでの決意だった。本当なら一生関わらずに静かにこのまま3人で過ごしたい。しかしその為には多少のお金が必要で、それを手に入れるには人間領地に出稼ぎに行くのが最短で最善の策だとシュウも分かっているのだ。それに、この世界の事が全く分からない無力の亘を一人で行かせて自分は家で待つなど耐えられない。そう思っているのはシュウだけではない訳で
「俺も行く!この中では一番俺が向こうを知ってる!」
「ダメダメダメ!シュウは『森の主』ってことで恐れられてるんだぞ!攻撃されるじゃないか!セイも顔バレしてるんだから生き残ってるのが分かったら今度は何をされるか・・・」
「大丈夫、ばれない様に母様にくっついて隠れとく」
「大丈夫、教会にいた時と今じゃ見た目全然違うよ!分かんないって」
「でも・・・やっぱり危ないとこに連れて行くなんて」
「ダメ!家族なんだから一緒!!」
「そうだよ!それに俺と兄さんよりも、母様の方が弱いんだから何かあったらどうするの」
「くぅ!正論!!」
母様大好き兄弟を説得する材料もなく、結局真下家総出で明朝に壁越する事になってしまったのだった。
翌日早朝、シュウは亘とセイ二人を抱えて守備兵に気づかれる事無く軽々とそそりたつ壁を飛び越える。朝日に照らされる広大で美しい城塞都市を、3人は要塞尖塔先から呆けて見ていた。
「RPGかよ・・・」
中世ヨーロッパの街並みを彷彿させるような大小様々な石造りの建造物、舗装されていない土がむき出しの通路。
家屋と思われるものから看板が出ている店らしき物、緑豊かな公園も見える。中央には観客席がある巨大なグラウンドもある。騎士団の訓練場なのか早朝にも関わらず数十人が訓練に勤しんでいるのが見えた。国の端にある辺鄙で危険な場所にも関わらず立派な一つの大きな街がここにはあった。街を抜けた先には雑木林が広がっている。ここからではよく見えないその先は恐らくこの国の中心街になるのだろう。ずっと向こうに小さく城らしきものがみえた。そこまで行くのは骨が折れそうなので手前のこの街で働き口を探そうと、亘はシュウに耳打ちして人気がない場所に下りるよう指示する。
家屋と家屋の隙間に着地した3人は早朝からウロウロするのはあまりに不審すぎるので、街が賑わうまで公園のベンチで朝食をとることにした。本日の朝食は梅おにぎりとポットに入れてきた味噌汁だ。
「俺はこのまま飲食店っぽいところを回って雇い口を探すけど、2人はどうする?」
「せっかく来たし、ちょっと街探索してみようかな」
「なら、シュウはセイと一緒にいなよ。俺何時上がりになるか分からないけど一度昼過ぎにここに集合しようか」
「分かった。セイにくっついとく」
「俺が無事日給もらえたら美味しい物食べて帰ろうな」
せっかく来たのに、何もなしに帰るのは寂しすぎるもんな
絶対就職先見つけて2人に美味い物食わしてやるぞ!!俺もこの世界の食事食べてみたいし!
あぁ、でもここで2人に少しの小遣いも渡せない自分が不甲斐ない
せっかく危険を冒してやってきた街で食べるのがいつもと変わらないメニューなのが申し訳なく、昨日からずっと思っている資金調達への意欲がより増す亘だった。
そんな亘の気持ちが嬉しい2人は、温かい気持ちになりながらおにぎりを食べ進める。
昨日話し合った結果、今亘の恰好は畑作業着のつなぎでセイは亘の大きめなTシャツを着て腰をベルトで絞めてワンピース風に着ている。下にはショートパンツを着用している。中性的な装いになってしまったが見た目と年齢的に大丈夫だろうと判断した。シュウはそんなセイにくっついて服の中に隠れている。
人々の声と馬車の走る音。街が次第に賑わい動き出す。亘も腰をあげ準備を始める。
「じゃあ、行ってきます!!」
「「行ってらっしゃい!」」
「いいか、短い針が3に来たらまたここな。それまで大丈夫か??ちゃんと来れる??」
「大丈夫大丈夫」
「お腹空いたらこれ食べてな」
「俺も兄さんも大丈夫だから!心配しすぎ!」
「でも、よく知らない街で2人きりだし・・・」
「「大丈夫だから!!!」」
公園にある時計台を指し昼用のおにぎりを渡しながら二人に言い聞かせる。こんな小さい子を残して行くことに心配が尽きないが仕方ない。何度も振り返りながら亘は街の方向に消えていった。
《亘サイド》
2人と別れてすぐに亘が目を付けたのは早朝からやっていた騎士団訓練場近くにある食堂だった。ここに来る前に上から見た訓練者数は結構な数だった。勝手なイメージだが軍人はよく食べるだろうから、そんな人々を相手に商売をしているなら人手も欲しいだろうと踏んだ亘の読みは当たり、飛び込みで来た亘を恰幅のよい店主は喜んで即採用してくれた。どうやら先日森で魔獣討伐騒ぎの上『森の主』の怒りを買ったハンターたちのせいでいつ襲撃が来るか分からない恐怖におびえた従業員数人が消え、連日猫の手も借りたいほどの忙しさだったそうだ。
それ俺の息子です
襲撃はしないけど、すでに街に来ています
たぶん公園で遊んでます
とは言えるわけもなく。
「最近こっちに来たばかりで情報が届いていなかったです。でも子供を育てるのにどうしてもお金が必要で・・・」と、訳あり感を前面に出し店主の同情を誘い、給料即日支払の交渉に成功した。
「6番テーブルにこれ持って行って!」
「はい!!」
「お金ここ置いとくよ!」
「ありがとうございます!!」
「注文いいかな!!」
「はい!ただいま!!!」
「ワタルこっち手伝って!」
「はい!!」
訓練を終えた騎士団一行がやってきて店内は戦場と化す。前回、寿命をいじってもらった際に追加で異世界補正がされたのか亘にもメニューを読む事も書く事も出来るが、いかんせん会計だけは会計システムも紙幣価値も分からないのでそれ以外の案内、水出し、オーダー聞き、配膳、片づけ等を担う。初出勤だが、内容は日本の飲食店アルバイト時とそう変わらないのでなんとか対応できた。仕事内容自体は問題ない。問題は客だ。
全員帯刀してる!!怖い怖い怖い!本物?本物だよな!?
ザクッとやられたらどうしよう!!
平和な日本に住んで22年。刀を見たことのない亘にとっては朝から刺激が強すぎた。さらに職業柄なのか聞こえてくる会話も不穏だ。聞かなければいいのだが、会話の所々で聞こえる『森の主』というワードに引っ張られてついつい盗み聞きしてしまう。
こちらの人々より小柄な体格の亘が、店内厨房を走り回り真面目に丁寧に仕事する姿に店主他従業員だけでなく客の騎士団たちも感心する。『真面目すぎる』と言われる日本に育った亘からすれば当たり前のレベルなのと、刀で切られたらどうしようという恐怖心から不興を買わないよう丁寧に接客しているだけで知らず知らず自分の評価が上がっているなど微塵も気づかず必死になって駆け回る。
地獄の朝食タイムを過ぎ、しばしの休憩をもらった亘は厨房奥で他従業員と共にお茶をしていた。
「ワタルは相当な田舎から来たんだな!!今時物々交換ってなかなかないぞ!!」
「その服も見たことないぜ!お前のとこは皆そういうの着てるのか??」
「子供って何歳だ?俺んとこも先月2人目が生まれてよ、女の子なんだけど本当に可愛いんだよ・・・男の子だって?俺の娘は嫁にやらないからな!」
「・・・ははは」
急に飛び込みでやってきた、見慣れない服装の紙幣価値が全く分からない怪しすぎる亘に対して、この店の人々はとても親身なって色々と教えてくれるのだった。
おかげでこの世界の流通通貨の価格知識を得た亘は、午後からは会計も担うことになったので忙しさは朝の比ではない。昼は騎士団以外の一般客も入ってくるので目が回るほどの忙しさだった。そんな怒涛の出勤初日を終え、当初約束していたよりも多めの日給と『子供と食えよ』ともらった賄を抱えて亘は意気揚々と待ち合わせの公園に向かった。
約束の3時まで多少の時間があったので、朝は余裕がなく見ていられなかった異国の地を眺めながらゆっくり公園に向かって歩いている時、前方から朝店に来ていた数人の騎士たちが走ってくるのが見えた。素通りするのもどうかと思い、会釈をすると向こうも気づいて立ち止まった。
「君はあの店の子か。今終わり?」
「はい。お仕事中ですか?お疲れ様です」
「いや違うんだよ!今から俺たちが訓練場にしている闘技場で無双している少年?がいるっていうから見に行くんだ。いい人材だったら騎士団にスカウトしようと思って」
「はぁ・・・世の中にはすごい子がいるんですねぇ」
「なんでも縦横無尽に飛び回り、目にもとまらぬ速さで相手の武器を奪い取り次々と叩きのめして戦闘不能にしていくそうだ。ここまで話がでかくなるとちょっと嘘くさいけどな」
そう言って、騎士は「はははっ」と豪快に笑う。対して亘はそんな将来有望な子が将来軍に入り、森に侵略してきたらどうしようかと不安を募らせて表情が硬くなる。
これは一度、未来の敵候補を確認したほうがいいか?
でも、もう待ち合わせの時間だし一緒に行くべき?
あぁ、でももう3時だしお昼あれだけじゃ2人ともお腹空いてるよな。また今度見に来るか?お店には明日以降も出勤するって言ってるし・・・
まぁ、いいか。あいつらには敵わないだろ
と、結論付けた亘は騎士たちと別れ、再度公園に向かおうした。
「いや、でもさすがにその話盛りすぎだよな!」
「そうそう!そんなやつ今まで聞いたことねぇしな」
「なんか、見た目はすげぇ儚げな美少年?美少女?らしくて、そのギャップにすごい会場は盛り上がってるらしい」
・・・儚げな美少年?
「あの、やっぱちょっと気になるんで他にも教えてもらえないですか??」
先を急ごうとする騎士たちを呼び止め、尋ねる。『人間業と思えないアクロバティックな動きで活躍する儚げな美少年』に、亘は1人心当たりがある。
「ん?あぁ、さっきの子の話?といってもさっき言ったくらいだよ。後は、なんか服装がこの辺じゃ見かけないような感じっていうのと、右手が義手が武器らしい」
「あいつらーーー!!!!すみません!その闘技場ってどこですか!??」
「えぇ!?どうしたの急に!!?」
亘は騎士たちに聞いた闘技場に向けて全力疾走する。
いや、もしかしたらとは思ったけど
それ絶対セイでしょ?
縦横無尽に飛び回るってそれ絶対シュウが加担してるでしょ??
あいつら全然大丈夫じゃなかった!!
そんな目立ってどうするんだよ!
もーーーーーーーーーー!!!!無事でいてくれ!!!
ぶった切った後半部分は出来るだけ早く投稿します。
次話もよろしくお願いします。




