第10話 ついに己の立ち位置を知る
「君も名前ないの!?」
「おいとか、お前って呼ばれてたから・・・俺も名前欲しい!」
「えぇ!?うーん・・・なら『セイ』は?」
「セイ?」
「そう。生命力強いしさ。よくあの状況で生き残れたよな」
「へへっ、セイ・・・セイか。真下セイ!母様ありがとう!!」
「セイも母さん呼びなのね・・・いいけどさ」
「シュウハ?シュウハナニ??」
「お前は兄さんだろ」
「シュウ兄さん!よろしくお願いします!」
「ニイサン!ヨキニハカラエ」
「それ、使うとこ違う」
『うちに・・・いる?』
帰る場所がないと呟く小さい子供を一人になんてできるはずもなく、亘は無意識に誘ってしまった。確かにここなら衣食住に困ることはない。だが、ここには少年が恐れる人外も住んでいるのだ。その事に気づいてやっぱり街まで送り届けようかと先ほどの言葉を撤回しようとしたら
「いいの!?俺も・・・ここにいていいの!??」
キラキラと目を輝かせている少年自身に肯定されてしまった。逆に亘たちの方が驚いてしまったほどだ。
「え?いいよ、いいけど、誘った俺がいうのもなんだけど・・・俺たちの事不審に思ったりしないの?こんな森深いところに住んでるのに」
「コワクナイ?ボク、コワクナイ?」
「そりゃ、最初はやっぱ『森の主様』は怖かったけど、でも俺にハンバーグくれたし・・・今は怖くない。それに、ここはすごく温かくてご飯も美味しくて、俺には絶対無理な願いだと思ってたのに、一緒にいていいって言ってもらえてすごい、嬉しい・・・俺、頑張ります!なんでもします!!よろしくお願いします!!!!」
そういうと少年は、その場に土下座して許しを請う。
その必死な様に、亘たちが考えていた疑問等少年にとっては取るに足らない些末なものだと知った。
真下家に次男坊が誕生した瞬間でもある。
そして冒頭のやりとりに繋がるのだった。
それぞれの生い立ちの話や、祖母に新メンバー加入の連絡をしたりとセイが来た初日こそは慌しかったが、その後の日々は比較的穏やかに過ぎていった。
「兄さん、兄さん」と懐いてくれる弟が可愛いのか、シュウも張り切って森の中を連れ回すのでセイの身体能力は飛躍的成長を遂げる。
成長はセイだけでなく、シュウの言語能力にも表れるようになった。セイに絵本の読み聞かせや複数での会話をしていくうちに徐々に流暢に話せるようになってきたのだ。
二人の著しい成長を嬉しく思っていたある日の昼、畑仕事を終えた亘が昼食を作ろうと家に戻ると知らない白髪の老人が居間でテレビを見ていた。
「おぉ、戻ってきたか。すまんね、上がらせてもらってるよ」
「うぇあ!??え??あっ・・・ど、どなた・・・ですか??」
「まぁまぁ、疲れとるじゃろ。ここに座らんね」
「いやいや!!どなた!??」
「あっ、その前にお茶をもらえるかの」
「なんだこの図々しいじじいは!??」
「ほっほっほっ」
誰!?ほんとに誰だよ!??こんな森の奥に一人で来るなんて絶対やばいやつじゃん
早くシュウたち帰ってきてーーー!!お母さん一人じゃ処理しきれないよ!
早く飲んでさっさと帰ってもらおうそうしようそれが一番に間違いない、大丈夫だ、落ち着け落ち着け俺
突然の展開に頭が追いつかないまま亘は、不本意ながらもお茶を用意し謎の老人に差し出し、相手の出方を窺う。妙な緊張感が部屋に漂う。
「ところで、お茶菓子とかはでないのかの」
「でていけーーー!!!」
あまりの図々しさに切れた亘は、手元にあったリモコンを投げる。それをひょいと避けた老人はまた「ほっほっほっほっ」と軽快に笑うだけで立ち去る気配はない。と思ったら突然その場に土下座し出した。
「えっ??え?何??」
困惑する亘を置き去りに、老人はその姿勢のまま話始める。
「真下亘殿、この度はこちらの不手際で君をこのような状況に置いてしまい大変申し訳なかった。しかもその事に今日まで気づかず何のフォローもせずに放置してきたこと重ね重ね申し訳ない」
「え?それはどういう・・・」
意味で?
と、続く言葉は元気よく帰ってきた二人の声に掻き消された。
知らない土下座する老人と困惑している亘を見て、状況が分からないが母の窮地と理解した二人は亘を己らの後ろに隠すように庇い、警戒心を露わにする。
「だれ?だれこいつ?殺す?」
「兄さん、俺も手伝う」
「物騒か!!やめなさい二人とも!!あなたも、顔を上げてください。その、さっき言ってたのはどういう事ですか?」
「ほっほっほっ、お主の息子は威勢がいいのぉ。シュウとセイや、儂はただお主らの母上に謝りに来たのじゃ。亘よ、お主をここに呼んだのは儂なのじゃ。本当に申し訳ないことをした」
「俺を呼んだって・・・え?」
「儂の名は、アイテール。この世界の責任者だな」
「世界の責任者って・・・・神様??」
「まぁ、そうとも言うが、自分で『我は神である』っていうのはちょい抵抗があってなぁ。ちょっと痛くない?そんな事いったら引かれない?儂今、大丈夫?」
「えっ!?本当に神様!??え??あの、なんで俺この世界に呼ばれたんでしょうか?薄々気づいてはいるんですが・・・」
「それはのぅ・・・儂のうっかりミスじゃ」
「やっぱり!!!そうじゃないかと思ってたんだよ!!ここに来てだいぶ経つのに俺最弱なんだもん!セイより弱いよ!そうだよ10歳児に歯が立たないんだよありえないだろなんだよやっぱり巻き込まれ系かよ」
「あぁ、セイは精霊に好かれやすい体質なんじゃな。色々と彼らが手助けをしてくれる訳じゃ。この森とお主は相性が良いな」
「俺に精霊が・・・?確かに、俺小さいうちに捨てられたのによくここまで育ったなとは不思議だったけど・・・周りに助けられていたんですね。今までありがとう」
自分が世界に飛ばされた理由が『うっかりミス☆』な事に絶望している亘の横で、見えない協力者へ感謝を述べるセイ。精霊たちが見えないセイと違って、神にはセイの周りをクルクル回りながら嬉しそうにしている精霊たちがよく見え、その光景を穏やかな表情で見ていた。
「母様を、連れて行くの?」
シュウだけが冷静に現状を理解していた。恐れていた亘との別れが現実味を帯びてきたのだ。その恐怖は思っていた以上で、無意識に亘を抱きしめる。シュウの言葉にその可能性気が付いたセイも、亘の服を掴む。
「本来ならこの世界にいないはずの存在だからな、亘が望めばすぐにでも元の世界に戻すつもりじゃ。この世界に呼んだ神子にも、世界を救い終えた後は戻す約束をしているしな」
「神子?その子に巻き込まれて俺も来たってことですか?」
「いや、お主はなぁ・・・その、今は神子を呼ぶのもデジタル化していて適任者を自動検索できるんじゃが、マップに出ている神子だけを押しているつもりが、タッチパネルを持っていた左手の親指がな、鹿児島のちょうどお主がいた現在地も押しとってなぁ・・・気づかずにそのまま決定ボタンを押した儂の操作ミスじゃ。・・・だから年寄りにコンピューターは難しいとあれほど言ったのに、召喚術じゃ非効率的だとかなんとか全くやな時代になったもんじゃ」
ぶつくさと文句を言うアイテールをフォローする気も起きないし、神界のハイテク化に突っ込む気も起きずただ自分の不運さを嘆く亘だった。そんな亘を慰めながら、シュウとセイは不安一杯だ。亘が一言「帰る」と言えば別れは決定するのだから。
しばらく落ち込んだ後、亘はアイテールに向き合う。
「俺は、この世界に残ります。ここで家族が出来たし二人を置いていくことは親として無責任すぎるから」
「「母様!!!」」
シュウとセイはたまらず亘に抱き着く。アイテールは先ほどまでの軽い雰囲気から厳しい顔つきになって亘を見つめる。
「いいのか?最初に言っておくが、向こうの世界とこちらを行き来する事は無理じゃぞ。そんな事をすれば全世界に影響が及んで消滅する恐れがあるからな。だからこれが最後のチャンスになるのじゃぞ」
「はい、大丈夫です。でも、俺を召喚した事に罪悪感を感じているのなら、一つお願いしてもいいですか」
「もちろんだ。こちらに責任があるからな。何じゃ?スキルを2つ3つ付けようか?無双でハーレム作るか?」
「え?ハーレム何それ魅力的・・じゃなくて、あの、向こうの世界にいる俺の家族や友人の記憶から俺の記憶を消して下さい」
「なぜそれを?」
「テレビで両親を見ました。すごいやつれてて・・・見てるの結構きつかったです。俺はここで楽しく過ごしているのにそれを知らせる術がないから、両親はいない俺をずっと探すなんてそんなのつらすぎるでしょ。急にいなくなったら、こんなにつらい事はないって親になった今なら分かるんです」
「そうか・・・分かった。約束は守ろう。本当につらい思いをさせて申し訳ない」
再度、頭を下げるアイテールに慌てて、亘はフォローする。
「だから、やめて下さいって!さっきも言ったけど俺、結構ここでの暮らし気に入ってるんです。そりゃ魔獣とかいて未だにビビるけど、息子ができましたし。向こうにいたら俺絶対一生独身でした。間違いないです言い切れます」
「そんな悲しい事を力説せんでも・・・」
「母様、恋人いなかったの?」
「母様はね、どーてーなんだって」
「はい、二人は夕飯抜きね。お前たちは俺の触れてはならないところをつついた許さん」
「「ごめんなさい!!」」
「ほっほっほっほっ、お主らは本当に仲がいいな。どれ、サービスじゃもう一つ何か願いを聞き入れよう」「「セイの右腕をお願いします!!」」
「えぇぇぇ??俺!?ダメダメダメ!!そんな事に使えない!俺は母様が強くなるか、兄さんの寿命を俺らと一緒にしてもらおうと思ってたのに!」
「あぁ、俺ら人間とシュウじゃなぁ・・・シュウ一人にするのも・・・確かに悩むな」
「ダメ!絶対セイの右腕!!!僕一人でいいから!」
「ダメダメダメ!!俺の事はいいから!」
「ほっほっほっほっ、そうかそうか、お主らは本当に良い家族じゃな。亘を飛ばした上に放置していた件もあるし、特別大盤振る舞いじゃ!セイの腕とシュウの為に二人の寿命を伸ばそう!縮めるのは神としてご法度なのでな。伸ばすのは余裕じゃ」
「「「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!ありがとうございます!!」」」
「そんじゃあ、ほいっ」
「呪文雑!!・・・・おぉぉぉぉぉ!セイ!腕が!!じいさん本物だったんだ!!」
「えっ??儂の事疑ってたの?今までのやり取りは一体」
正直ちょっとだけ、頭のおかしいじいさんなんじゃないかって疑ってましたごめんなさい。
てか俺、寿命何年まで伸びたんだろ、全然実感湧かないや・・・
セイは突如として現れた右腕の感覚に戸惑っているようで、手のひらを開いたり握ったりしている。シュウもつついたりして興味津々だ。
「せっかくだからオプションもつけといたぞ。それじゃ、邪魔したな何かあったらここに連絡してくれ」
「オプションって何!?あっ、ちょっ・・・消えた、マジかよ」
忽然といなくなった事に驚きを隠せず、その場に茫然としばらく突っ立っていた。二人が呼ぶ興奮した声でやっと現実に戻ってきた。
「ごめんごめん、そういや昼ごはんまだだったねちょっと待っててぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「母様見て!俺すごくない!??」
「セイかっこいい!似合ってる!」
「いやいやいや!なんで右腕そんななってるの!?この数秒間に一体何が」
亘が現実から意識を飛ばしている間にセイは右腕の可能性を探求した結果、右腕が自在に変化する機能を持つ事に気づいたようだ。トランスフォーマーか
現在は、再放送アニメの影響で5年3組の某教師になりきって「地獄の底からやってきた・・・」と似てないモノマネを披露している。シュウには激ウケのようだ。
すごいオプションなのに、モノマネに使うって
まぁ、いいか
腹減ったなぁ・・・飯作るか
セイは今度は某錬金術兄弟の兄モノマネで「格の違いを見せてやる!!!」とかやっている。シュウは爆笑している。平和だ
神様、ありがとうございました。うちの子たちはとても幸せそうです。
もう一つの約束もよろしくお願いします。
父さん、母さん今までありがとうございました。
「母様みてみて!!ゴムゴムのぉぉ」
「それはだめーーーーーーーーー!!!」




