EP 6
ヤバい村の「圧迫面接」と、泥を落とす不法投棄者たち
ポポロ村、村長宅の客間。
尊がリバロンの淹れた完璧な陽薬茶を味わい、今後の「現場改善計画」を脳内で練っていた、その時だった。
「――邪魔するぞ!!」
バンッ! と乱暴に扉が蹴り開けられた。
現れたのは、ルナミス帝国軍の軍服を着た横柄な小太りの役人と、武装した数名の護衛兵たちだった。
尊の目が、スッと細められる。
彼らの軍靴には外の泥がべっとりと付着しており、客間の磨き上げられた床に、無惨な足跡を次々と残していったのだ。
「税の特別徴収に来てやったぞ! さっさと金と酒、それと手頃な女を出せ!」
尊が立ち上がろうとした瞬間、彼の横でキャルルがふわりと立ち上がった。
「あれれ〜? 役人さぁん。私達はただの、無害な村人達ですよ〜?」
キャルルは明後日の方向を向きながら、すっとぼけた顔で口笛を吹いた。
「こ、これがどこが無害な村人なのだ!!」
役人が窓の外を指差す。
そこには、紅蓮の装甲を着たダイヤや農民たちが、鼻歌交じりに『魔導戦車』や『魔導誘導バズーカ』をピカピカに磨き上げている姿があった。
「お客人、ぬるい陽薬茶でもいかがですか」
リバロンが、明らかに歓迎していない温度の茶をテーブルにコトリと置く。
「き、貴様ら、帝国を敵に回す気か!」
「きちんと税は納めております。それに、わざわざ騎士団を派遣してこの村を潰す『コスト』など帝国には無いでしょう? 万が一制圧しようとすれば、私共は真っ先に他二カ国に救援要請を出します。……三カ国の全面戦争の引き金を、貴方の一存で引くお覚悟で?」
論理的かつ冷徹なリバロンの恐喝。
役人の顔からスッと血の気が引く。
「……グダグダ言うと、顎を砕いちゃおっかなぁ〜?」
キャルルがにっこりと笑うと同時に、窓の外の自警団たちが『魔導ライフル』を一斉にチャキッ! と構えた。
「あぁ、せやせや」
客間の隅で煙管を吹かしていた猫耳族の青年、ニャングルが算盤を弾きながらニヤリと笑う。
「ポポロ村の通貨はPGや。経済戦争でも通貨戦争でもしまっか? あんたらの札束、ただの『ケツフキ(紙屑)』にしてもええんやで? いや〜怖い顔しなさんな、冗談や♡ ほら、震える口でポポロシガー(有料)でも吸いなはれ」
役人はすでに、ぷるぷると小刻みに震え始めていた。
だが、ポポロ村の「圧迫面接」は終わらない。
「あ~! 役人さんのイキリ顔、晒しちゃおっかな〜♡」
頭上から声が降り注ぐ。天使族のT-チューバー、キュララが空中にカメラを構えていた。
「あ~、リスナーさんからの情報! この人、浮気して隠し子も出来てんだって〜! 奥さん今見てるかな〜?」
「ひっ!?」
「あらあら」
今度はふわふわのドレスを着たエルフ、ルナがニコニコしながら鉢植えを持って近づいてきた。
その鉢植えには、ダラダラとヨダレを垂らした不気味な幻覚催眠植物『ハッピー・ドリーム』が植えられている。
「植物さんたちからタレコミが来ましたわ。え? 最近あの方、酔っ払っておねしょをしたの? 大きい方も? 山の中に埋めて隠してるの? ……まぁまぁ、ハッピドリームでキメて『教育』をやり直しましょうか?」
触手をうねうねと伸ばし、役人をナデナデしようとする不気味な植物。
「大丈夫? おもらししない歌でも歌おうか? だっぷんだぁおじさんする?」
いつの間にか現れた芋ジャージ姿の人魚姫・リーザが、純真無垢な顔で追い討ちをかける。
「お、じゃあ地下のメインサーバーに入力しときますわ。ブラックメール入りやな。あんたらの恥ずかしい情報は幾らでも握ってまんのや♡ パンドラの箱、空けてみるか?」
ニャングルの言葉に、役人と護衛たちの目には完全に絶望の涙が浮かんでいた。
客間の隅で静かに壁に寄りかかっていた大柄な男、鬼神・龍魔呂が、真鍮製のオイルライターを取り出す。
――カチッ。
冷たい金属音が響いた。
それは、裏社会で『処刑の合図』として恐れられる絶望の音。
「ひいいいいっ! き、貴様らは悪魔だあああ!!」
役人たちは完全に精神を破壊され、武器も放り出して裸足で逃げ出そうと扉へ向かって駆け出した。
「――待て」
地を這うような、絶対的な威圧感を持った声が客間を制圧した。
立ち上がったのは、大和尊だった。
役人だけでなく、キャルルやリバロンたちも思わず息を呑むほどの、冷徹な『現場責任者』のプレッシャー。
「あ、悪魔の手先め! なんだ貴様は!」
役人が涙声で叫ぶ。
「俺はただの清掃員だ。……お前らが他所でどう生きようが、女を囲おうがおねしょをしようが知ったことじゃない。だがな」
尊の目が、ドス黒い怒りに沈む。
彼の視線の先には、役人たちが持ち込んだ『靴の泥』と、恐怖で漏らした『冷や汗』でドロドロに汚れた客間の床があった。
「清掃直後の俺の現場に、土足で泥を落とした罪は重いぞ。……不法投棄には『原状回復』の義務が伴う」
尊が右手のURデッキブラシを軽く振るう。
「ブラシ、拘束展開」
シュルルルルルルッ!!
デッキブラシの先端から無数の強靭な毛が爆発的に伸び、逃げようとした役人と護衛たちを一瞬にして絡め取った。
「ぎゃあっ!?」
そのまま毛が巻き付き、全員を一本の巨大な『簀巻き(すまき)』状態にして床に転がす。
「ひっ、お、俺は帝国の――」
「肩書きは清掃の役に立たん」
尊は魔法ポーチからモップと木綿の雑巾を取り出し、簀巻きにされた役人の顔面にポンッと乗せた。
「床の泥、冷や汗、その他もろもろの汚れ。自分たちで招いたバグだ。……這いつくばって、ピカピカになるまで磨き上げろ。終わるまで帰社さん」
絶対的な命令。
その異常なまでの「現場第一主義」と、一切の情を挟まない冷徹な処理能力に、役人たちはついに白目を剥いて気絶しそうになりながら、必死にモップを握らされるのだった。
ポポロ村の面々――キャルル、リバロン、ダイヤ、ニャングル、ルナ、キュララ、リーザ、そして龍魔呂までもが、その光景をポカンと見つめていた。
「……ねぇ、リバロン」
キャルルが小声で呟く。
「あの人、私たちより容赦なくない……?」
「ええ。……どうやらこの村に、恐るべき『現場監督』が就任してしまったようです」
リバロンは冷や汗を拭いながら、恭しく一礼するのだった。




