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EP 3

紅蓮の戦乙女と、広域掃討スイープオペレーション

「くっ……! 冗談じゃないわよ、5.56ミリの魔導徹甲弾、これで品切れ!? また今月の収支が赤字になっちゃうじゃない!」

森の開けた場所で、紅蓮色の装甲クリムゾンアーマーを纏った少女――ダイヤ・マーキスは、手にした魔導サブマシンガンの空弾倉を舌打ちと共に放り捨てた。

彼女の周囲には、およそ二十体を超える『ジオ・リザード』の群れが迫っていた。

本来は騎乗用としても重宝される魔獣だが、この群れは先ほどのバイソンと同様、目が血走り、口からは紫色の粘液(明らかな毒液)を滴らせている。

「ええい、持っていきなさい!」

ダイヤは魔法ポーチから『魔導プラスチック爆弾』を取り出し、ピンを抜いて群れの中央へ投擲した。

――ドドドドンッ!!

激しい爆発と炎が巻き起こり、数体のジオ・リザードが吹き飛ぶ。

だが、爆煙を突き抜けて、生き残った個体がダイヤへ襲いかかってきた。

「……ッ!」

ダイヤは咄嗟に背中の『天魔竜聖剣』を抜き放ち、炎魔法を纏わせて迎撃する。

『ウェポンズマスター』のユニークスキルを持つ彼女の剣筋は完璧だった。しかし、多勢に無勢。さらには連戦の疲労と、何より「武器のメンテナンス費用」を気にする貧乏性が、彼女の動きにほんの僅かな鈍りを生ませていた。

「(しまっ、死角――!)」

背後から跳躍した一体が、鋭い毒の爪をダイヤの肩口へと振り下ろす。

装甲の隙間を掠め、浅く肉を裂いた。

「きゃあっ……!?」

痺れが全身に走り、ダイヤは片膝をついた。

群れが一斉に彼女の息の根を止めようと殺到する。

――その時だった。

「安全確認が甘いな。現場の動線管理ゾーニングがまったくできていない」

呆れたような、ひどく落ち着いた男の声が森に響いた。

ヒュンッ!!

ダイヤの頭上を、銀色に輝く「長い棒」が通り抜けたかと思うと、襲いかかってきたジオ・リザードの顔面を正確に打ち抜いた。

頭蓋骨の砕ける鈍い音と共に、魔獣が吹き飛ぶ。

「え……?」

ダイヤが振り返ると、そこにはMA-1に身を包み、咥えタバコをした見知らぬ男――大和尊が立っていた。

「同業者の手伝い(害獣駆除)か? 随分と人手不足のようだが」

「あ、あなたは……!?」

「ただの清掃員だ。……少し下がっていろ。ここからは俺の『現場』だ」

尊はスッと息を吐き出すと、手に持ったURデッキブラシを前に構えた。

(さて。柄の材質変化はさっき確認した。次は――形状変化のテストだ)

シャフト、伸長」

尊が短く命じた瞬間。

URデッキブラシの柄が、まるで如意棒のようにシュルルッ! と音を立てて十メートル以上も伸びた。

尊はそれをテコの原理で軽々と振り回し、遠距離から迫る魔獣たちを次々と薙ぎ払っていく。

「なっ……何よその武器!? 槍? いえ、先端についているのは……ほうき!?」

ダイヤが目を白黒させている間にも、尊の思考は極めて冷静だった。

(物理打撃だけでは効率が悪い。数が多いなら、広域掃討スイープに切り替える)

「ブラシ、展開」

尊の意思に呼応し、デッキブラシの先端に密集していた無数の「ブラシ」が、まるで意志を持った生き物のように蠢き始めた。

シュルルルルルッ!!

数千、数万という強靭なブラシの毛が、一斉に数十メートル先まで爆発的に伸びていく。

それはまるで、獲物を絡め取る巨大な鋼線の投網だった。

「ギャァァァッ!?」

ブラシの毛は、森を逃げ惑うジオ・リザードたちに次々と巻き付き、完全に拘束した。

どんなに暴れても、鋭い牙で噛み付いても、UR(絶対に壊れない)素材の毛は傷一つ付かない。

「ゴミは一箇所にまとめるのが清掃の基本だ」

尊が手首をスッと引くと、伸びたブラシの毛がジオ・リザードたちを空中に吊り上げ、一塊の巨大なボールのように密集させた。

「仕上げの脱水(絞り)だ」

ギリッ……!

尊がブラシの柄を力強く握り込むと、魔獣たちを拘束していた無数の毛が、万力のような力で一気に収縮した。

断末魔の叫びを上げる暇すらなく、空中に浮かんだ十数体のジオ・リザードは、その凄まじい圧力によって完全に圧殺された。

ドサササッ……。

ブラシの毛が元の長さにシュルリと戻り、機能を停止した魔獣の残骸が地面に転がる。

開始からわずか数十秒。

圧倒的かつ、あまりにも規格外な「掃討オペレーション」だった。

「……ふぅ。これで粗大ゴミの片付けは終わりだな」

尊は何事もなかったかのようにブラシを肩に担ぎ、タバコの灰を落とした。

「…………は?」

ダイヤは口をポカンと開けたまま、その光景を呆然と見つめていた。

彼女の『ウェポンズマスター』の常識が、激しい音を立てて崩壊している。

どんな名工が打った魔剣でも、あんなデタラメな動きをする武器など存在するはずがない。

「おい、あんた。怪我の具合はどうだ」

尊が歩み寄り、ダイヤの肩口の傷を覗き込む。

装甲の隙間から流れる血は、毒の影響でどす黒く変色し始めていた。

「あっ……くっ……」

アドレナリンが切れたのか、強烈な痺れと痛みがダイヤを襲い、彼女は再びその場に崩れ落ちそうになる。

尊は舌打ちをし、すぐさま彼女の体を支えた。

「毒持ちか。……まったく、現場のトラブルってのは連鎖するもんだ」

尊の目は、魔獣を狩る戦士のそれから、人命救助を行う『衛生管理者』の冷徹な目へと切り替わっていた。

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