3
慌てて顔を逸らしたフィオナに、相手はきょとんとした表情をする。
「男同士なんだからいいじゃないか。その格好でそんな反応をすると、本当に女の子に見えるぞ」
本当に女なんだよ! と言いかけた口を閉ざす。これは絶対に知られてはいけない秘密だ。
「僕は向こうで着替えてくるから!」
「別に男同士なんだから、ここで一緒に着替えてもいいだろー?」
「……」
本当に、彼らはフィオナが男性であると疑っていない。その様子を見ていると、女としてのなにかがボロボロと崩れていくような気がする。自分って、本当は男だったんだろうか、と少しだけ遠い目になってしまった。
そのまま構わずに着替え始めた一団に背を向け、「遅れるなよ」と言ってからフィオナは部屋を出る。
少し早歩きで部屋から遠ざかりながら、周囲に人がいないことを確認してから、大きく息を吐く。
「あ〜、バレなくてよかった」
小さくつぶやいて、着替えに使った部屋に戻ろうと歩き出す。王宮は白いレンガで造られており、国内外では白亜王宮と呼ばれている。中庭に面した廊下を歩いていると、前から見慣れた姿が見えてどきりとした。
どうしよう……。思わず立ち止まる。
ここはノーブル騎士団のためだけに存在する区画だが、関係者以外の立ち入りを禁じているわけではない。しかし、基本的に男しかいないこの場所でこんな格好をしている者がいたら不審に思われるのは確実だ。
しかし、相手の視線は目の前にある資料に向けられており、こちらに気づいている様子はない。その間にどこかに隠れようにも一直線の廊下で駆け込める部屋もなく、何食わぬ顔でやり過ごすしかないと覚悟を決める。
あの馬鹿たちは気づかなかったが、かなり優秀であると噂されている彼にはバレてしまう可能性はものすごく高い。
それでもなんとかしてこの窮地を脱しなくては。せめてもの抵抗に、顔を少し俯き気味してわからないようにしてから、早く歩いてすれ違おうとする。
ちらり、と視線を向けると、ちょうど向こうもこちらの存在に気づいたらしく——目が合った。
バッと目を逸らして、反射的にぺこりと頭を下げて素早く立ち去ろうとすると、「待ちなさい」と声をかけられた。
「すいません。失礼します!」
やばい! バレた? もしかして、バレちゃった?
駆け出そうと一歩を踏み出そうとした直前、がしっと二の腕を掴まれてそれ以上先へ行くことができなくなる。
「!」
突如引き止められたことによって、大きく身体のバランスを崩したフィオナが転びかけ、支えるように腰に手が回された。それで転ぶのは避けられたが、逆に支えてくれた相手の顔が間近に迫った。
突然の出来事に大きく目を見開き、驚いて相手を見てしまう。意外と近くにあった端正な顔が、フィオナと同じような表情でこちらを見下ろしていた。
——この人、こんな顔するんだ……
思わず、そんなことを思ってしまった。
表情がまったく変わらないことで有名な、超絶クールなノーブル騎士団団長様がフィオナを見て驚愕の表情を浮かべているのだ。
しばし、二人で見つめ合ってから、空気に耐えられずにフィオナから口を開く。
「あの……」
離してほしくて戸惑いながら声をかけると、騎士団の団長であるグレンははっとした様子で「すまない」と言いながら、フィオナの腰を支えている手を離した。
しっかりと自分の両足で立ったフィオナに、澄んだ空を思わせる空色の瞳をまっすぐに向けて問いかけてきた。
「よろしければ、名前を教えてもらえませんか?」




