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「いやぁ、いいもの見させてもらったな。なぁ」
「そうだな。こんなに似合うとは思わなかったぜ」
「入団式の顔合わせの時から、エリオットは女顔だとは思ってたけど予想通りだな」
「たまにはそういう格好してくれよ。騎士団は男ばっかりで潤いが足りないからさ」
「……お前ら……っ!」
フィオナは弟のふりをして騎士団に入団しているため、エリオットと呼ばれている。最初はバレるかもと気が抜けなかったのだが、今ではこいつらには気づかれないかもしれないと気が緩んでしまっている。実際、女の格好をしても気づかない奴らばかりだ。
しかし、バレなかったのは嬉しいものの、この言われようは納得がいかない。
「伝統あるノーブル騎士団が、こんな馬鹿の集まりだとは思わなかった……!」
歴史ある大国、シンクレア王国。
無数の国が存在する大陸の中で最大の国土を誇るシンクレア王国には、ある伝統が存在していた。
将来、父親の爵位を継ぐ子息を王宮に預けるというものだ。
元々は、戦乱の時代に戦場での指揮官を育てるために貴族の男児を王宮が預かって教育していたのだが、戦争が終わり、平和な時代が訪れた今では同年代の跡継ぎ同士のつながりを作るために王宮が交流の場を設けるという名目で、形だけの伝統が残った。
だからこそ、賭けのゲームとかある程度の悪ふざけは黙認されている。
どんな人たちが集まってくるのだろうかと不安を抱きながら入団したフィオナだが、入団式の後でその不安は見事に吹き飛んだ。
とにかく、同期はみんな貴族の子息なのかと思うくらいに気のいい奴らで、付き合いやすい上に、まったくフィオナの正体に気づかない鈍感ばかりだったのだ。
だからこそ楽しい毎日を過ごすことができているのだが、こればかりは怒りを隠しきれない。
「……今回のこれを提案した者は名乗り出ろ」
地の底から響くような怒りの滲んだフィオナの声に、笑いがぴたりと止まった。
にっこりと満面の笑みを浮かべているフィオナから漂うただならぬ気配に、やっと本気で怒っていることに気づいたようだ。
少し慌てた様子で、「あいつ」「こいつ」「そいつ」と責任をなすり付け合い始める。
「あいつだよ、あいつ」
「噓つけ。お前だろ」
「エリオット。断じて俺じゃない。信じてくれ」
「おれは巻き込まれだけで、まったくの無関係だからな」
……とにかく、みんなで楽しく計画したというわけか。
はぁ、と怒りを逃すように大きくため息をつく。その姿を見ていた者たちが、びくりと肩を振るわせた。
そんな彼らをじろりと睨みつける。
「今度同じことをしたら、お前らの日頃の行いを団長に報告してやるからな」
「……あ、それは本当に勘弁してください」
ノーブル騎士団の入団時期は、十五歳から十八歳の間だと決められているが、退団の時期は決められていない。騎士団を預かる団長から、一人前だと認められたら退団することが許されるため、人によっては一年でいなくなる者もいるし、逆に五年経っても残っている者もいる。噂では、最長で十年も在籍していた人がいたらしいとか。
普段の悪ふざけが団長の耳に入ると、在籍期間が長くなる可能性がある。この騎士団を早く退団することで箔を付けたい彼らにとって、フィオナの脅しは効果覿面だったらしい。
みんな、もうしません、としょんぼりした様子で頭を下げる。
その様子を見ていると、もう怒り続ける気にもなれず、フィオナは片手を腰に当てて、再びため息をついた。
「今回は特別に許してやる。二度目はないからな。僕はもう着替えてくる。訓練時間も近づいてきていることだし」
「え?」
一人が顔をあげてポケットに入れていた懐中時計の蓋を開く。そこでやっと午後の訓練時間が迫っていることに気づいたらしく、慌てて訓練用の服に着替えようとその場で服を脱ぎ出す。
「ちょっと! いきなり脱がないでよ!」




