小さな包み
引き出しの奥にあったのは、指先ほどの小さな包みだった。
白い布に丁寧にくるまれていて、一見しただけでは何の変哲もない。
けれど――
「それ……です」
はっきりと言い切る。
さっき感じた、あの刺すような違和感。
間違いなく、そこから漂っていた。
ノクスは無言のまま包みを取り上げ、慎重に布をほどく。
中から現れたのは、乾いた粉末のようなものだった。
「……触るな」
短く制されて、伸ばしかけた手を引っ込める。
代わりに彼は机の上に小皿を置き、そこへほんの少しだけ中身を移した。
そして――
「下がっていろ」
そう言ってから、火を灯す。
熱が加わった瞬間。
「っ……!」
思わず口元を押さえた。
さっきよりも、ずっと強い。
喉の奥が焼けるような、鋭い刺激。
「……これ、は……」
「毒、だな」
静かな断定だった。
迷いがない。
「先ほどの茶と同系統か」
「……似ています。でも、少しだけ違う……もっと強いです」
息を整えながら答えると、彼はわずかに頷いた。
「なるほど」
それだけ言って、火を消す。
部屋に再び静けさが戻る。
でも、その静けさはさっきまでとは違った。
はっきりとした“確信”がある。
ここには、何かが仕込まれていた。
「リゼ」
「は、はい」
名前を呼ばれて顔を上げる。
視線が、まっすぐに重なる。
「お前の言葉は正しい」
短い一言。
それだけなのに。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(……信じて、もらえた)
今まで、こんなふうに認められたことなんてほとんどなかった。
“変だ”って思われるのが怖くて、ずっと隠してきたのに。
「この部屋に細工をした者がいる」
ノクスは淡々と続ける。
「内部の人間の可能性が高い」
その言葉に、背筋が冷たくなる。
城の中に、犯人がいる。
「お前は」
一歩、近づかれる。
自然と息が止まる。
「ここから動くな」
「……え?」
「俺の目の届く場所にいろ」
命令のはずなのに。
その言葉はどこか――
(守られてる……)
そう感じてしまう響きだった。
「危険がある」
淡々とした説明。
「だから、離すわけにはいかない」
それはきっと、合理的な判断。
なのに。
どうしてこんなに、胸がざわつくんだろう。
「……はい」
小さく頷く。
本当は怖い。
でも――
この人のそばにいられるなら。
そう思ってしまった時点で、もう駄目だ。
「それと」
不意に、彼が少しだけ言葉を区切る。
「体調は」
「え……?」
「さっき、顔色が悪かった」
覚えていたんだ、と驚く。
ほんの一言だったのに。
「だ、大丈夫です……」
「……そうか」
短く返される。
それだけなのに。
ほんの少しだけ、安心したような気がした。
「無理はするな」
ぽつりと落ちる言葉。
視線は書類に向けられたまま。
でも。
確かに、私に向けて言われたものだった。
胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
(優しい……)
きっと本人は無自覚だ。
だから余計に、ずるい。
――怖いはずなのに。
この人のそばにいる時間が、少しずつ好きになっている自分がいた。




