信じる理由
日頃より読んでくださりありがとうございます
こちらの話を1話飛ばして投稿してしまい、話が噛み合わなくさせてしまい申し訳ありません!
修正させていただきましたので、よろしければもう一度ご覧くださいm(_ _)m
祝賀会は中止となり、大広間は重苦しい空気に包まれていた。
貴族たちは小声で何かを囁き合い、使用人たちは不安そうな表情で後片づけを進めている。
その視線の先にいるのは――リゼだった。
「……あの給仕だけが毒に気づいたらしい。」
「偶然とは思えないな。」
「何か知っていたのでは?」
ひそひそとした声が耳に入る。
リゼは俯き、ぎゅっと手を握った。
助けたはずなのに。
王子を守れたはずなのに。
疑いの目を向けられることが、こんなにも苦しいとは思わなかった。
「リゼ。」
聞き慣れた声に顔を上げる。
ノクスだった。
「来い。」
それだけ言うと、彼はリゼを人の少ない回廊へ連れ出した。
しばらく歩いたあと、ノクスは静かに立ち止まる。
「……怖かったか。」
リゼは少しだけ笑おうとした。
「少しだけ、です。」
でも、その声は震えていた。
「私、本当に助けたかっただけなんです。」
「ああ。」
「なのに……。」
それ以上は言葉にならなかった。
涙がこぼれそうになる。
すると。
ノクスは何も言わず、そっとリゼの手を包み込んだ。
「俺は信じている。」
短い言葉。
でも、その一言で張りつめていた心が少しほどける。
「お前は誰かを傷つけるために動く人間じゃない。」
まっすぐな瞳。
迷いはひとつもなかった。
「……ありがとう。」
小さく微笑むリゼに、ノクスもわずかに表情をやわらげる。
「それに。」
ノクスは続けた。
「初めて話した時もそうだったが、お前の嗅覚は、殿下の命を救った。」
「……。」
「それは誰にも否定できない事実だ。」
その言葉が胸に染み込んでいく。
涙をこらえて、リゼは大きく頷いた。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
王子の執務室では、薬師と騎士団長が調査結果を報告していた。
「毒は杯の縁にだけ塗られていました。」
「巧妙ですね。」
「ええ。飲んだ者だけが中毒を起こすように細工されています。」
王子は腕を組み、静かに考え込む。
「犯人の手がかりは?」
「今のところありません。」
薬師は首を横に振った。
その時、扉が開く。
「失礼します。」
ノクスだった。
「リゼの様子は?」
王子が尋ねる。
「落ち着いています。」
「そうか。」
少し安心したように王子は息をついた。
「……殿下。」
ノクスが真剣な表情で口を開く。
「彼女への疑いを放置すべきではありません。」
「私も同じ考えだ。」
王子は即座に頷いた。
「彼女は命の恩人だ。」
その声には揺るぎない信頼があった。
「それでも、貴族たちは納得しないでしょう。」
騎士団長が言う。
「だからこそ証拠が必要だ。」
王子は立ち上がる。
「必ず犯人を見つける。」
その瞳には強い決意が宿っていた。
◇ ◇ ◇
その夜。
城の庭園。
月明かりの下で、一人の青年と黒い布を被った男が静かに笑っていた。
あの香水の匂いをまとった貴族だった。
「まさか、またあの娘に止められるとは。」
楽しそうに肩をすくめる。
暗闇から、低い声が響く。
「計画は失敗ですね。」
「いいや。」
青年は首を横に振った。
「ある意味では成功であろう。」
「……どういう意味ですか。」
青年は夜空を見上げ、口元だけをゆがめた。
「毒は、人を殺すためだけのものじゃない。」
その笑みは、ぞっとするほど静かだった。
「人の心を疑わせるためにも使える。」
城では今、リゼへの疑いが少しずつ広がっている。
それこそが、彼の狙いだった。
「疑いは、信頼を壊す。」
青年はゆっくりと踵を返す。
「さあ、次の一手を始めよう。」
夜風に香水の香りが溶けていく。
その甘い香りの奥には、リゼだけが気づける、あの不穏な匂いがまだかすかに残っていた。




