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いずれ知られる関係

次の日――


 朝の光が、静かに差し込んでいた。


 執務をこなすノクスの横顔は、いつも通り整っていて、いつも通り近寄りがたい。


 ――はずなのに。


(……違う)


 リゼは、少し離れた位置からその姿を見つめていた。


 昨日までと同じ景色。


 同じ距離。


 それでも。


(……ちゃんと、繋がってる)


 そう思えるだけで、胸の奥がやわらかくなる。


「……何を見ている」


「っ……!」


 不意に声をかけられて、びくっとする。


 いつの間にか、ノクスがこちらを見ていた。


「な、何でもないです……!」


 慌てて視線を逸らす。


 でも。


「嘘だな」


 即座に言い切られる。


 逃げ場がない。


「……顔に出ている」


 淡々とした指摘。


 それなのに。


(……ちょっと、嬉しい)


 見抜かれていることが。


 嫌じゃない。


 そのとき。


 す、とノクスが近づいてきた。


「っ……」


 距離が一気に縮まる。


 もう、驚くことじゃないはずなのに。


 やっぱり、少しだけ緊張する。


「……髪」


「え?」


 短く言われる。


 次の瞬間、指先が触れた。


 そっと。


 やさしく。


 髪を整える。


「……乱れている」


 それだけ言って、手はすぐに離れる。


 自然な動作。


 まるで当たり前みたいに。


(……当たり前、になってる)


 そのことに気づいて、胸が少し熱くなる。


 そのとき。コンコン――


「リゼ!」


「っ、はい!」


 外から声がかかった。


 扉を開けると、同じ給仕の少女がこちらを見ている。


「仕事中にごめんね!」


 軽い調子で近づいてくる。


 でも。


 途中で、ぴたりと足が止まった。


「……え」


 視線が、リゼとノクスの間を行き来する。


 リゼが後ろを向くとノクスが先程と同じ距離にきていた。


「……あの」


 言いかけて、止まる。


 何かを察したような顔。


「な、なんでもない!」


 急に声が裏返る。


「用事、終わったから!じゃあね!」


 早口で言って、そのまま去っていった。


 ぱたぱたと足音が遠ざかる。


 沈黙。


(……今の)


 顔が熱くなる。


 どう見えてたのか、想像できてしまう。


「……気にするな」


 ノクスが言う。


 いつも通りの声。


 でも。


「いずれ知られる」


 さらりと続ける。


「え……?」


「隠すつもりはない」


 淡々と。


 当然のように。


 その言葉に、胸が大きく跳ねる。


(……隠さない)


 それはつまり。


 この関係を、ちゃんと認めているということ。


「……はい」


 小さく頷く。


 嬉しい。


 少しだけ、照れる。


 でも、それ以上に――


(……安心する)


 そのとき。


「行くぞ」


 ノクスが歩き出す。


 反射的に後を追う。


 そのまま、廊下に出る。


 人の気配。


 仕事の空気。


 いつもの日常。


 でも。


 ほんの少し違う。


 歩幅を合わせる。


 隣に並ぶ。


 自然と。


 そのとき。


 ふ、と指先が触れた。


「っ……」


 一瞬だけ。


 でも。


 そのまま、離れない。


 軽く、絡められる。


 視線は前を向いたまま。


 何も言わない。


 それでも。


(……繋いでる)


 誰かに見られるかもしれない場所で。


 それでも。


 離さない。


 その意味が、はっきりと伝わってくる。


 顔が少しだけ熱くなる。


 でも。


 そっと、握り返す。


 今度は、自分から。


 そのまま歩く。


 何も変わらない日常の中で。


 ほんの少しだけ、特別なものを抱えながら。


 それだけで。


 十分すぎるくらい、幸せだった。


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