カゾマート
今日は久しぶりにカゾマートを訪れた。
カミツレさんと買い出しである。
あいかわらず、チンケな店だぜ、ヘッ。
柄の悪いカスハラムーブをキメつつ、顔見知りと談笑を交わした。おハーブのおの字も出ない会話に、正常とは何か深く考えさせられた。
「最近、言葉巧みに事業拡大を謳い、利益だけかすめ取る悪徳商人が出没するらしい」
壁に貼られた犯罪注意ポスターを指差して。
「全国展開の勧誘でしょ。この前、もう来たよ?」
「まことか? なぜ、私に言わぬのだ? 厄介払いは任せておけ」
「悪徳商人、ローレルさんのおハーブ談義で恐慌状態に陥っちゃった……」
「……小悪党には、割に合わない精神攻撃か。ゆえに、私が成敗した方が建設的なのだ」
同情せずにはいられない、カミツレさん。
……おハーブですわ……おハーブですわ……おハーブですわ……っ!
夜。目を閉じれば、耳の奥でドップラー効果が垂れ流される。心的外傷、辛いね。
「とにかく、招かれざる客の対処は請け負った。エンドー氏は荒事に向かず、ローレルを出せば二次被害が大きいからな」
「クレーマーの戯言を、右から左へ受け流すのは得意です」
おそらく、おじさんは幾多数多のコンビニ夜勤を乗り越えた者だ。面構えが違う。
カミツレさんがおじさんを見つめ、歴戦の兵かと独り言ちた(錯覚)。
茶番はさておき、メモを見ながら生活用品をカゴへ入れていく。
ついでとばかりに、店長に今日は何時まで残業か拝聴した。
「今日は……7時出勤23時上がりだ」
「テッペン回る前に帰宅するのは甘えですよ」
「エンドー。妙に当たりが強いじゃないか」
「そりゃ、クビにされた以上仲良くできません」
本気で怒ってるわけじゃない。彼も雇われ店長。オーナーの意向が絶対なのだ。
「お前が抜けて、ワンオペできる奴が全然いない。代わりに俺がよく入らされるんだ……」
「店長なのに、シフトを牛耳られているのか」
「いや、聞いてくれ。試しにハーブショップで買ったやつを飲んだらな……疲れが吹っ飛んで、元気が出たんだ! 目がスッキリして、脳が冴える! 昨日の残業タイムを乗り越えられたのは、間違いなくハーブティーのおかげだ! また買いに行く! 絶対在庫を切らすなよッ」
店長、ハイなテンションがキマっていた。
ローレルさんじゃあるまいし、副作用を極力抑えた配分ですが。
「エナジードリンク扱いされてる!? ハーブティーは社畜の栄養剤だった?」
仕事に疲れたあなたへ、みなぎる活力!
今度、POPに書くフレーズが決まった。
カゾマートに別れを告げ、駅前広場を横断すれば。
「おう、ハーブ屋じゃねえか!」
「はぁ、どうも……カミツレさんの知り合い?」
「私の知人ではない。もしや、先ほど語った悪徳商人の一派か? よし、退治するぞ」
「いい加減覚えろや! カマセだって! 中堅冒険者でこの村じゃあ、そこそこ有名なッ」
あぁ、大剣の人か。
おじさんは、戦闘モードに入ったポニテ美人をどうどうと宥めていく。
「そういえば結局、グンマーではバトルシーンを拝めませんでしたね」
「ローレル一人で十分対処できたからな」
「カミツレさんはどんなスキルをお持ちで?」
おじさんが興味本位で問うと、カミツレさんは薄い笑みを携えた。
「私はナイトだからな。派手さはなく、極めて地味なスキルだ。武器の耐久力を削って、攻撃力に変換する。たとえば、剣の破壊を代償に斬撃を飛ばしたり、ビームを出すくらいさ」
「オウ、騎士道とは一体……」
完全に、攻め攻めストロングスタイル。もっと守って、防御に振り分けて。
先日のグンマー遠征。はたして、護衛役がこの人で正しかったのか?
おじさんは、深く考えるのを止めた。思考放棄が多い気がするも、杞憂にあらず。
カマセがこちらの様子をチラチラ窺っている。何か用があるみたい。
「俺は、おめーらに礼が言いたくてよお」
「なら、消費者アンケートに協力してもらいましょ」
「クエスト前にハーブティーを飲むと、すこぶる調子が良いんだぜえ。モンスターとバトっても、普段より力が漲って強敵とも渡り合えた! ハーブティー、様々だぜエッ」
バフ効果もあるハーブティー、すごーい。やっぱ、お買い得。
「ローレルのネーチャンにも感謝を伝えといてくれや! 初めて見た時は、頭のおかしい誇大妄想信者かと思ったけどよお……」
「ハーブ狂いは否定できんよ。いつもあの調子で、困った奴さ」
「ま、とにかく、あんがとな。また近いうちに、買いに行くぜッ」
そう言って、カマセはギルドへ向かった。
大剣の人を見送り、ふと呟いたカミツレさん。
「ローレルの珍妙な奇行が人の役に立つ、か」
「なんか、嬉しそう」
「エンドー氏にはそう見えるか? 確かに、一種の安堵かな」
カミツレさんは、小さく息を吐いて。
「アレは奔放な振る舞いが空回りして、中身が伴っていなかったからな。最近、真の仲間とやらのおかげで、進むべき道を邁進している。これからもよろしく頼むぞ」
「控えめに言って、おハーブ道はUターン推奨かと」
「フッ、それは言わぬ約束だろう?」
そして、ドヤ顔である。
旅は道連れ、世は情け。いくら望んでいなくとも。
おじさんとカミツレさんもまた、おハーブロードを追随していた。




