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『異世界召喚された俺、現代知識を一つ教えるたびに美少女が増えていく 〜役立たず勇者と捨てられたのに、王女も聖女も竜姫も「次は私の国を救って」と押しかけてきました〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第22話 国境で待っていたのは、敵よりも面倒な味方だった(前半)

 馬車は夜明け前の街道を揺れていた。


 窓の外はまだ薄暗く、街道脇の草には白い朝露が光っている。


 俺は揺れる座席に背中を預けたまま、大きく息を吐いた。


「……眠い」


 正直、それしか言葉が出てこない。


 昨日は反乱。


 その前は倉庫火災。


 さらにその前は麦の選別。


 異世界へ来る前、ホームセンターで棚卸しが続いた週より働いている気がする。


「眠るなら今のうちです」


 向かいへ座る騎士が口を開いた。


 バルガス隊長の副官、リヒトという青年だ。


 二十代半ばだろうか。


 金髪を短く刈り込み、鎧も剣も手入れが行き届いている。


 真面目という言葉を人の形にしたような男だった。


「国境へ着けば、休む時間はありません」


「分かってますよ」


「本当に分かっていますか」


「疑ってます?」


「少々」


「正直ですね」


「孝太郎殿も十分正直です」


 それは否定できない。


 馬車には俺とリヒト、それに護衛騎士が四人。


 後ろから補給馬車が続いている。


 王都を出発してから、すでに二時間以上。


 エレオノーラは最後まで見送りに出てきた。


 出発の直前まで、


『危険だと思ったら逃げてください』


 と三回。


 いや四回くらい言われた気がする。


 俺もそのたびに、


『分かりました』


 と返事をした。


 信用されているのか、されていないのか分からない。


「そういえば」


 俺はリヒトへ向き直った。


「隊長って、いつもあんな怖いんですか」


「隊長ですか」


「笑ってるところ見たことないんですよ」


 リヒトは少し考えた。


「酒を飲むと笑います」


「人間味あるんだ」


「ただし翌日は二倍怖くなります」


「駄目じゃないですか」


 馬車の中へ笑いが広がる。


 護衛騎士の一人まで吹き出していた。


「隊長には内緒でお願いします」


「言ったら俺が斬られそうですね」


「ええ」


「否定してくださいよ」


「仕事中に冗談を言う相手ではありません」


「怖いなあ」


 異世界へ来て思う。


 騎士というのは、もっと堅苦しい人ばかりだと思っていた。


 実際には違う。


 笑う。


 飯をこぼす。


 眠そうな顔もする。


 剣を振るう前に家族の話までしている。


 結局、人間なのだ。


 少し安心した。


 そのとき。


「伝令!」


 馬車が止まった。


 外から馬の足音。


 続いて誰かが飛び降りる音。


「副官殿!」


 リヒトが扉を開く。


 泥だらけの騎士が息を切らして立っていた。


「隊長より伝令です!」


「状況は」


「橋の前で膠着しています!」


「変化は?」


「ございます!」


 伝令は一度だけ息を吸った。


「フェルナンド卿とアストレア使節が、仲違いを始めました!」


「……は?」


 俺とリヒトの声が重なる。


「詳しく」


「橋を落とした武装集団は、ベルガード側ではなく傭兵でした!」


「傭兵?」


「誰かに雇われた?」


「はい!」


 伝令が頷く。


「ところが報酬の半分しか支払われておらず、橋を落とした後でフェルナンド卿と言い争いになったようです!」


「いやいや」


 俺は思わず頭を抱えた。


「そんなことで揉める?」


「命懸けですから」


 リヒトが真顔で答える。


「傭兵にとって報酬は命そのものです」


「ブラック企業よりひどいな……」


 前世なら労基へ駆け込める。


 異世界では剣が飛んでくる。


 職業選びって大事だ。


「隊長は?」


「交渉を続けています」


「戦闘は」


「まだ始まっておりません」


「よかった」


 心からそう思った。


 戦いが始まれば、人が死ぬ。


 それだけは避けたい。


 伝令は続ける。


「ですが、新たな問題が」


「まだあるの?」


「アストレア王国使節が、孝太郎殿の到着を待つと言い始めました」


 馬車の中が静かになる。


「俺?」


「はい」


「何で」


「『本人へ直接話がある』とのことです」


 嫌な予感しかしない。


 前に会った連中もそうだった。


 笑顔で近づいてくる人ほど、ろくでもない話を持ってくる。


「急ぎましょう」


 リヒトが立ち上がる。


「いや」


 俺は首を振った。


「急がない方がいいかもしれません」


「なぜです」


「今、向こうは揉めてるんでしょう?」


「ええ」


「だったら、もう少し揉めてもらいましょう」


 リヒトが怪訝そうな顔をする。


「敵同士が勝手に時間を使ってくれるなら、その間に隊長は陣形を整えられる」


「確かに」


「俺が着いた瞬間、みんな話を止めて一致団結された方が困ります」


 護衛騎士が思わず笑う。


「面倒な考え方ですね」


「人間って面倒なんですよ」


「最近、そればかり言っていますね」


「本当にそう思うので」


 リヒトは腕を組み、少しだけ笑った。


「隊長なら『即座に進め』と命じるでしょう」


「副官さんは?」


「私は……」


 少し考える。


「今の話を聞く価値はあると思います」


「ですよね」


「ですが」


「はい?」


「隊長を説得するのは、あなたがやってください」


「何で!?」


「私は怖いので」


「副官も怖いんだ!」


 また馬車の中に笑いが広がる。


 緊張は消えていない。


 それでも笑える。


 その空気だけは失いたくなかった。


 馬車は再び動き出す。


 国境まで、あと半日。


 そこで待っているのは外交交渉か。


 それとも戦争か。


 俺にはまだ分からなかった。


(後半へ続く)

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