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『異世界召喚された俺、現代知識を一つ教えるたびに美少女が増えていく 〜役立たず勇者と捨てられたのに、王女も聖女も竜姫も「次は私の国を救って」と押しかけてきました〜』  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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15/24

第15話 火をつけた犯人より、腹を空かせた人間の方が怖かった

 油を染み込ませた布が見つかった。


 その報告が王城へ届いたのは、倉庫火災の翌朝だった。


「放火、ということですか」


 エレオノーラの声は静かだった。


 静かすぎた。


 王城の会議室には、国王代理としてエレオノーラ、宰相ザイフリート、騎士隊長バルガス、倉庫を管理する官吏、それから、なぜか俺まで集められていた。


 俺は長机の端で、出された白湯を飲んでいる。


 できれば部屋へ戻って寝たかった。


 身体中が痛い。


 昨日は火事場で水桶を運び、麦袋を担いだ。普段使わない筋肉が、そろって反乱を起こしている。


「断定はできません」


 バルガス隊長が机の上へ、焦げた布を置いた。


「しかし布には油が残っており、北棟の壁際から発見されました。火元と推測される場所にも近い」


「倉庫では油を使わないのですか」


 俺が尋ねる。


 宰相の眉が動いた。


「発言を許した覚えはないが」


「では、帰っていいですか」


「孝太郎」


 エレオノーラに睨まれる。


「だって、呼ばれたから来ただけですよ。黙って座ってろっていうなら、ベッドで寝てたいです」


「もう少し言い方を選びなさい」


「身体が痛くて、選ぶ余裕がありません」


 バルガス隊長が咳払いをした。


「倉庫内で油を扱うことはあります。荷車の車輪や器具の手入れに使いますので」


「なら、その布があっただけで放火とは決められないでしょう」


「その通りだ」


 宰相が答える。


「だが、倉庫番によれば、油を保管する場所と発見地点は離れている。布を壁際へ置く理由もない」


「誰かが火をつけたとして、何のために?」


 俺が聞くと、倉庫の管理官が青い顔で答えた。


「王国を混乱させるためでは」


「誰が?」


「それは……」


「隣国。反王家派の貴族。穀物価格を上げたい商人。盗みの証拠を消したい役人」


 宰相が指を折りながら言う。


「考えられる者はいくらでもいる」


「嫌な国ですね」


「孝太郎!」


「いや、この国だけじゃなく、人間って怖いなって話です」


「今の言い直しで、何も改善しておらんぞ」


 ザイフリートが額を押さえた。


 この宰相とは、昨日から相性がよくない。


 向こうも俺を、得体の知れない無礼な若者だと思っている。


 俺も向こうを、形式ばかり気にする頑固な爺さんだと思っている。


 たぶん、どちらも半分くらいは当たっている。


「北棟に入れた人間は?」


「倉庫番が六名。荷役人が二十七名。前日には三つの商会が荷を運び込んでおります」


「三十人以上か」


「出入りする御者や護衛を含めれば、さらに増える」


「全員を捕まえて尋問するんですか」


 バルガス隊長が頷いた。


「すでに身柄の確保を進めている」


「全員?」


「当然だ」


「その人たち、今日の仕事は?」


「何?」


「荷役人を全員捕まえたら、残った麦を誰が運ぶんです?」


 部屋が静かになる。


「濡れた麦を乾かす。焼けた袋から無事な分を選り分ける。王城へ運んだ分も、また倉庫へ戻す必要がある。それをする人がいなくなりません?」


「放火犯を逃がすわけにはいかん」


「でも、全員が犯人じゃないでしょう」


「孝太郎。では、どうしろと言うのです」


 エレオノーラが疲れた声で尋ねる。


「分かりません」


「分からないのですか」


「俺、警察じゃないですから」


「では口を挟まないでもらいたい」


 バルガス隊長が吐き捨てる。


 腹が立った。


「だったら、何で俺をここに呼んだんですか!」


「殿下が、異世界の知見を聞きたいと」


「異世界人は何でも知ってる生き物じゃないですよ!」


「孝太郎」


 エレオノーラの声が低くなる。


「怒鳴らないでください」


「隊長が先に喧嘩を売ったんでしょう!」


「売っていない!」


「今の言い方で?」


「事実を述べたまでだ!」


「事実を言えば相手が腹を立てないと思ってるなら、昨日の俺と同じですよ!」


 バルガス隊長が立ち上がる。


 俺も反射的に立った。


 ただ、立った瞬間、腰へ痛みが走った。


「いっ……」


「何をしているのです」


「腰が」


「馬鹿ですか、あなたは」


「昨日、王女様と麦を運んだからでしょう!」


「私のせいにしないでください!」


「二人ともお座りください!」


 マーサの一喝が飛んだ。


 会議室が静まり返る。


 王女も。


 騎士隊長も。


 宰相も。


 ついでに俺も座った。


 マーサは侍女なのに、この部屋で一番強いかもしれない。


「一つずつ話してください。まず孝太郎様」


「様はいらないです」


「今は黙ってください」


「はい」


「全員を拘束せず、どのように調べるおつもりですか」


「だから、俺には分かりません。ただ、犯人捜しで麦を駄目にしたら、犯人の思うつぼじゃないかって」


 宰相ザイフリートが顎へ手を当てる。


「一理ある」


「宰相閣下」


「バルガス。倉庫番と、火元付近で働いた者を優先して聴取せよ。その他の者は身元を確認し、監視をつけた上で作業へ戻す」


「逃亡の恐れが」


「家族の所在まで確認すれば、簡単には逃げられまい」


「家族を人質に?」


 俺が言う。


「違う」


「今の説明だと、かなり近くないですか」


「監視するという意味だ!」


「孝太郎、いちいち言葉尻を取らないでください」


「気になったので」


「あなたが一番会議を混乱させています」


「呼んだの王女様ですよ」


「それを今、少し後悔しています!」


 エレオノーラは本気で頭が痛そうだった。


 俺も同感だ。


 会議は苦手だ。


 正しい言葉。


 王国の都合。


 騎士の責任。


 役人の面子。


 それぞれが違う方向を向いている。


 ラウル村の井戸の方が、まだ分かりやすかった。


「火事の原因は調べるとして」


 俺は机に置かれた帳面を見る。


「焼けた麦の量は、分かったんですか」


 管理官が帳面を開く。


「北棟に二千百二十袋。東棟に千四百袋。うち、完全に焼失したものが千八百袋ほど。水濡れや焼損した袋が八百以上」


「無事なのは?」


「正確な確認は、まだ」


「では、今日中に数えましょう」


「簡単に言うな!」


 管理官が声を荒らげた。


 四十歳ほどの、目の下に濃い隈のある男だ。


「皆、昨夜から寝ておらんのだ! 袋は破れ、麦が混ざり、濡れたものもある。数えろと言われて数えられる状態ではない!」


「俺だって寝てませんよ」


「そなたと我らでは責任が違う!」


 その一言が刺さった。


「そうですね」


 俺は言った。


「俺は、この国の人間じゃないですから」


「孝太郎」


「失敗しても、ラウル村へ帰ればいい。責任を取れって言われても、取れる身分も金もない」


 自分で言いながら、気分が悪くなる。


 事実だ。


 俺はいつでも逃げられる。


 エレオノーラたちとは違う。


「だから、余計な口を出すなってことですよね」


「私は、そこまで」


 管理官が言葉を濁す。


「でも、数えないと配れないでしょう」


「分かっている!」


「なら、怒鳴る相手を間違えないでくださいよ!」


「孝太郎も怒鳴っています!」


 エレオノーラが間に入る。


「みんな疲れています。責任を押しつけ合っても、麦は増えません」


「では、殿下はどうなさるのです」


 管理官の声には、隠しきれない苛立ちがあった。


「私どもは三年、足りないものを数え続けました。穀物、金、人手、馬、荷車。数えるたび、足りないと分かるだけです」


「……」


「昨日は火を消しました。今日、残った麦を数えれば、さらに足りないと分かる。それで明日は、何を数えればよろしいのですか」


 エレオノーラは答えられなかった。


 誰も答えられない。


 男は王女を責めたいわけではない。


 もう限界なのだ。


 正しい命令に従い続け、正しく足りないと報告し、それでも状況が悪くなった。


 人間は希望がないと、正しいことすら続けられない。


「まず飯にしませんか」


 俺が言うと、全員がこちらを見た。


「何を言っているのです」


「朝から誰も食べてないでしょう」


「今は会議中です」


「腹が減ってるから、全員怒りっぽいんですよ」


「孝太郎は、いつも怒りっぽいではありませんか」


「今日は普段より二割増しです」


「何を根拠に!」


「体感です!」


 ザイフリート宰相が、突然笑った。


 最初は小さく。


 やがて肩を震わせる。


「何がおかしいのです、閣下」


 管理官が困惑する。


「いや。国の一大事を話し合う席で、飯にしようと言い出した者は初めてだ」


「悪い意味ですよね」


「半分は」


「残り半分は?」


「儂も腹が減っていた」


 宰相は侍従へ向き直る。


「簡単な食事を用意せよ。会議は食べながら続ける」


「宰相!」


 エレオノーラが目を丸くする。


「殿下も昨夜から、ほとんど召し上がっておられぬでしょう」


「ですが」


「倒れられる方が迷惑です」


 宰相の言い方は冷たい。


 だが、心配しているのは分かった。


「マーサも同じこと言ってましたよね」


「孝太郎は黙っていてください」


「仲間が増えたと思ったのに」


「増えていません!」


     ◇


 運ばれてきたのは、薄い粥と小さな黒パンだった。


 王城の会議とは思えない粗末な食事。


 それでも温かい。


 管理官は最初、手をつけようとしなかった。


 俺が食べ始めると、バルガス隊長が続く。


 やがて、全員が黙って匙を動かした。


 不思議なもので、腹へ物が入ると、少しだけ声が穏やかになる。


「袋ごと数えるのが難しいなら」


 俺は粥を食べながら言う。


「状態で三つに分けましょう」


「三つ?」


「そのまま配れる麦。乾かせば食べられそうな麦。駄目な麦」


「境目は誰が決める」


「穀物に詳しい人」


「倉庫番たちが最も詳しい」


「容疑者じゃないですか」


「だから困っているのだ」


 バルガス隊長が苦い顔をする。


「では、農民を呼べませんか」


「農民?」


「カレル農園の人たち。麦を見る目は確かでしょう」


 エレオノーラが俺を見る。


「昨日、帰れと言われたばかりですよ」


「分かってます」


「頼めるのですか」


「頼むしかないでしょう」


「断られたら?」


「頭を下げます」


「孝太郎が?」


「嫌ですけど」


「嫌なのですね」


「昨日、思い切り喧嘩した相手ですよ。平気なわけないでしょう」


「それでも行くのですか」


「火を消すとき、王女様も麦袋を運んだでしょう」


「何の関係が」


「嫌でも必要ならやるってことです」


 エレオノーラは、しばらく俺を見た。


「私も参ります」


「来ないでください」


「なぜです!」


「王女様が行ったら、カレルさんが断れなくなる」


「だからこそ、話が早いでしょう」


「また同じ失敗をする気ですか!」


 声が大きくなる。


 エレオノーラが睨む。


 俺も睨み返す。


「昨日、農民の本音を聞けなかったのは、王女様がいたからでもあるんです」


「私が邪魔だったと?」


「はい」


「即答しますか!」


「国を救うためなら、嫌われてもいいって言ったでしょう!」


「限度があります!」


「じゃあ、好かれるために農民を黙らせます?」


 エレオノーラの顔が強張る。


 言いすぎた。


 分かっている。


 だが、引っ込められなかった。


「……勝手になさい」


 王女は匙を置いた。


「私は邪魔なのでしょう。農民へ頭を下げるのも、倉庫の麦を数えるのも、すべて一人でなさればよい」


「王女様」


「話しかけないでください」


 席を立つ。


 マーサが追いかける。


 扉が強く閉まった。


 会議室に重い沈黙が落ちる。


「追いかけないのか」


 宰相が尋ねた。


「今行っても、もっと喧嘩するだけです」


「慣れているのだな」


「この十日くらい、毎日なので」


「殿下と毎日喧嘩をする者など、そなたくらいだ」


「自慢になりませんよ」


 冷めかけた粥を食べる。


 味がしない。


 正しいことを言った。


 王女が同行すれば、農民は本音を言いにくい。


 たぶん間違っていない。


 だが、言い方が最悪だった。


 俺はいつもそうだ。


 正しさを急ぐあまり、相手の気持ちを後回しにする。


 ラウル村でも。


 カレル農園でも。


 そして今も。


「正しいことを言えば人が動くなら、世の中はもっと楽なんだよな……」


 思わず呟く。


「ようやく気づいたか」


 ザイフリートが言う。


「気づいてましたよ」


「知っていることと、できることは違う」


「それ、俺が一番嫌いな言葉です」


「なぜだ」


「その通りだから」


 宰相は、また少し笑った。


     ◇


 午後。


 俺は一人でカレル農園へ向かった。


 正確には、一人ではない。


 道に迷う可能性があるため、騎士が一人、離れてついてきている。


 エレオノーラは来なかった。


 出発前にも会っていない。


 怒っている。


 当然だ。


「帰れ」


 カレルは、俺を見るなり言った。


「昨日も聞きました」


「なら、なぜ来た」


「お願いがあります」


「断る」


「まだ言ってません」


「お前の頼みなど、ろくなものではない」


「王女様と同じこと言うなあ」


「殿下を馬鹿にするな!」


「馬鹿にしてません。毎日喧嘩してるだけです」


「それを馬鹿にしていると言う!」


 カレルは鍬を肩へ担ぎ、畑へ戻ろうとする。


 俺はその前へ回り込んだ。


「倉庫で火事がありました」


「知っている」


「大量の麦が濡れたり、焼けたりしました」


「それで」


「食べられる麦を選ぶのを、手伝ってください」


「倉庫番にやらせろ」


「放火の疑いがあって、全員を信用できません」


 カレルの足が止まった。


「放火?」


「まだ可能性です。でも、油を染み込ませた布が見つかった」


「……」


「農民なら、麦の状態が分かるでしょう。濡れたものをどう乾かすかも、俺たちより知ってる」


「昨日は異世界の知識を教えると言っていた男が、今日は農民に教えを乞うのか」


「はい」


 頭を下げた。


「お願いします」


 返事はない。


 土だけが視界に入る。


「昨日は、すみませんでした」


「何に対してだ」


「偉そうに、畑を見せろって言ったこと。新しい方法なら何とかなるかもしれないって、簡単に考えてたこと」


「簡単ではないと分かったか」


「全然分かってなかったと分かりました」


「同じではないか」


「違いますよ。分からないことが分かったんです」


「屁理屈だ」


「よく言われます」


 カレルが深く息を吐く。


「顔を上げろ」


 顔を上げる。


 男はまだ険しい顔をしていた。


「手伝えば、我々に何がある」


「……何が欲しいです?」


「倉庫に残った麦を選別するのだろう。その中から、春に蒔ける種麦を確保してほしい」


「配給用の麦を?」


「食えば一度で終わる。蒔けば増える」


「でも、今食べる麦も足りない」


「だから選べと言っている」


 人間は面倒だ。


 今日を生きるための食糧と、明日を生きるための種。


 どちらも必要で、どちらかしか残らない。


「俺には決められません」


「では帰れ」


「王城へ戻って、王女様たちと相談します」


「また王宮へ任せるのか」


「違います」


 俺はカレルを見る。


「農民も一緒に決めてください。種にどれだけ残すか。配給へどれだけ回すか。王宮だけで決めたら、また現場と数字がずれる」


「殿下が認めると思うか」


「認めさせます」


「喧嘩しているのではなかったか」


「喧嘩してても、話はできます」


 自信はなかった。


 今は口も利いてくれないかもしれない。


 それでも、あの王女なら最後には話を聞く。


 怒鳴る。


 怒る。


 嫌味も言う。


 だが、国民のためになることなら、自分の面子より優先する。


「本当に変な男だな」


「昨日も言われました」


「今日も言う」


 カレルは畑の仲間たちを振り返った。


「おい。王都へ行ける者を集めろ」


「手伝ってくれるんですか」


「勘違いするな。麦を見に行くだけだ」


「十分です」


「種麦の話を殿下が拒めば、すぐ帰る」


「分かりました」


「それと」


「まだあるんですか」


「昨日、お前は話を聞きに来たと言ったな」


「はい」


「倉庫の仕事が終わったら、畑を見せてやる」


「本当ですか」


「ただし、土に触らず口だけ出したら、今度こそ放り出す」


「触りますよ」


「泥で服が汚れるぞ」


「洗えばいいでしょう」


「王都育ちの若造は、口では皆そう言う」


「俺は王都育ちじゃありません」


「異世界育ちだったな」


 カレルが初めて、わずかに笑った。


 農業改革は、まだ始まっていない。


 麦を増やす方法も見つかっていない。


 ただ、昨日は閉ざされた畑の入口が、ほんの少しだけ開いた。


 そして俺は王城へ戻り、もう一つの閉ざされた扉の前に立った。


 エレオノーラの部屋。


 何度ノックしても、返事がない。


「王女様」


 沈黙。


「さっきは、言いすぎました」


 沈黙。


「カレルさんたちが、麦の選別を手伝ってくれます」


 扉の向こうで、わずかに物音がした。


「それから、種麦を残したいそうです。王宮だけじゃなく、農民も交えて配分を決めたい」


 まだ返事はない。


「俺一人では決められません」


 扉へ額をつける。


「だから、手伝ってください」


 しばらくして、内側から鍵が外れた。


 扉が細く開く。


 赤くなった青い瞳が、隙間からこちらを睨んでいた。


「私は邪魔なのでは?」


「邪魔になるときもあります」


 扉が閉まりかける。


「待って! でも必要です!」


 慌てて言う。


 扉が止まった。


「どちらなのです」


「両方です」


「意味が分かりません」


「俺は農民に頭を下げられる。でも、王国の配給を決める権限はない。王女様は権限がある。でも、王女様がいると本音を言えない人もいる」


「……」


「だから、俺たちは別々のことをした方がいいときがある。でも、最後は一緒に決めないと駄目なんです」


 エレオノーラは、しばらく黙っていた。


「謝罪は?」


「言いすぎて、すみませんでした」


「私を邪魔だと言ったことは?」


「そこは一部事実なので、全部は謝れません」


「孝太郎!」


「でも、傷つける言い方をしたのは謝ります!」


 王女は扉を開き、俺を睨みつけた。


「本当に、あなたは謝罪が下手ですね」


「王女様も、仲直りが下手でしょう」


「私は悪くありません」


「そういうところです」


「何ですって?」


 また始まる。


 そう思った。


 だが、エレオノーラの口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


「では、農民たちを王城へ招きます」


「種麦の話は?」


「簡単ではありません」


「分かってます」


「ですが、話し合いましょう」


「はい」


「それと孝太郎」


「何です?」


「もう一度、私を邪魔者扱いしたら」


「したら?」


「ラウル村へ帰る馬車では、床に座っていただきます」


「まだ帰りの席のこと根に持ってるんですか!」


「当然です」


 ようやく、いつもの王女へ戻った。


 翌日。


 煤で黒くなった王城の中庭に、麦袋と農民と官吏が並ぶことになった。


 国を救う会議は、立派な会議室ではなく、泥と濡れた麦の匂いの中で始まろうとしていた。


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