死せる孔明、主の膝の上で見守る
【これまでのあらすじ】
猫の姿になって異世界に転生した、
三国志の諸葛亮 孔明。
そんなネコ―メイを拾ったのは、
劉備と芙蓉の兄妹。
ある日、
劉備が孔明をつれて、
碁会所で対局していると、
生意気なガキが現れ、
『つまらない碁』と、皆を馬鹿にし始める。
問答の末、
劉備はガキとの対局に望み・・・
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「請多多指教」」
「ニャ~」
碁会所の一席。
皆の見守る中、
我が主である劉備様とガキの対局が始まった。
ガキが黒石、
先番だ。
「俺に黒を持たせるとは、
余裕のつもりかよ・・・」
と、
言うガキに対して主は、
「年功序列だよ。
どう見ても君のほうが年下だしね」
そう静かに答えた。
膝に乗っている私の背中をなでながら・・・。
「フニャ~」
それに反して、
目の前のガキは、
みるみる不快そうな顔になった。
「なめやがって・・、
後悔させてやるぜ・・・!」
ガキはそう言って、
盤に叩きつけるように一手目を打った。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
ここで囲碁の対局について、
簡単に説明しておこう。
囲碁とは、
碁盤に碁石を打ち、
自分の石で囲んだ枠がそのまま自身の陣地・・【地】となる。
盤の右上を黒石で囲めば、
そこは黒の【地】・・【黒地】となり、
真ん中に白石で円を描けば、
その円の中は白の【地】・・【白地】となる、
というわけだ。
囲碁の対局とは、
最終的に【黒地】と【白地】、
どちらの陣地のほうが広いかを競う遊戯である。
ここから、
少し想像してもらいたい。
自分の陣地を創るうえで、
何もない まっさらな盤面に石を打つのと、
すでに相手の石が打たれている盤に打つのと、
どちらが有利かを・・・。
例えるなら、
人が手つかずの土地を手に入れるのと、
すでに住人がいる土地を手に入れるのとでは、
どちらが難しいか。
『――お解りいただけたにゃろうか?』
つまり囲碁の対局とは、
先に石を打てる黒のほうが、
確実に有利なのだ。
そのため、
暗黙の了解として、
囲碁の実力・・【棋力】が上の方が、
あとに打つ白石を持つのが通例となっている。
――黒石を譲られたガキが、
主に怒りを覚えたのは、
おそらくそれが理由だ。
自分のほうが格下として扱われた・・、
そう感じたのだろう。
「ニャ~」
大人げないガキだ・・・。
そして・・・、
その気性に違わず、
ガキの戦法・・【棋風】は攻撃的だった。
空いている箇所に自分の【地】を創るのではなく、
主が【白地】を創ろうとしている箇所に、
黒石を打ち込んでくる。
自分の打った石が【地】を創る前に相手の石に邪魔され、
つぶされてしまった場合、
その石は【死に石】となって、
逆に【地】を減らすことになる。
どういう理屈か簡単に説明すると・・、
主が石 十個分・・10目の【白地】を創ったとする。
だが、
それとは別の箇所で、
ガキに攻められ白石 十個・・10子が【死に石】となった場合、
10ひく10で【白地】はなし、
という計算だ。
ガキは徹底的に主の白石を攻めて、
黒地に変えてしまおうという腹づもりなのだ。
「全部つぶしてやるよ・・・」
「・・・典型的な【ケンカ碁】だね」
主の表情は変わらない。
ガキの攻めに対して反撃するでもなく・・、
かといって別方向に逃げるでもなし。
いわば【地】を分け合うような形で、
場を収める。
『こっちの6目は【黒地】でいいから、
その隣は【白地】にさせてもらうね』
といった感じか・・・。
「チッ・・・」
それまで早打ちだったガキの手が、
ここにきて少しずつ時間をかけるようになってきた。
「ニャ~・・・」
――打ちづらそうだ。
(無理もない・・・)
どんなにケンカを売っても、
相手がまったく嫌そうな顔をしないのだから・・・。
そのまま対局は進み、
終盤戦・・【ヨセ】に差し掛かる。
(形勢は・・ほぼ互角か・・・)
【黒地】と【白地】、
どちらも同じくらいだ。
「君、強いね・・・」
主のその声に、
盤面をにらみつけていたガキが顔を上げる。
「あ?」
「君の攻めの力はすごいよ。
【ケンカ碁】で君くらい打てる碁打ちは はじめてだ」
「嫌味か?
ムカつく奴だな てめえ・・・」
「そんな事ないよ。
――結局、
勝つ事が出来なかったんだから」
「?
何言ってんだ?」
すると、
主は盤面を見ながら静かに言った。
「【白地】が合計35目に対し、
【黒地】が37目。
黒の・・君の2目勝ちだね」
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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