死せる孔明、碁会所へ
【これまでのあらすじ】
「来世はのんびり碁が打ちたい・・・!」
そんな三国志の諸葛亮 孔明が、
猫の姿になって異世界に転生。
そんなネコ―メイを拾ったのは、
劉備と芙蓉の兄妹。
平穏に碁を打ちながら、
彼らは日常を過ごしていく・・・。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
猫として別の世に生まれ変わった私が、
この家に住み着いてから二十日は越えたか。
「フニャ~」
「ああ、
おはよう孔明」
「おはよう、
コーメイちゃん」
主である劉備 玄徳様と、
妹君の芙蓉殿。
仲睦まじい兄妹は、
相変わらず周りの家の者たちとの関係も良い。
道ですれ違う者たちが、
親し気に声をかけてくる。
「おはよう劉備。
これから仕事かい?
気を付けてね」
「はい、
いってきます!」
とか、
「芙蓉ちゃん、
この間は子供たちの面倒を見てくれてありがとうね」
「いえ、
わたしも楽しかったです」
とか、
「よお劉備!
一局打たないか?」
とか、
「芙蓉お姉ちゃん、
あ~そ~ぼ!」
とか、
「劉お兄ちゃん、
囲碁を教えて!」
とか、
「お姉ちゃん、
この字なんて読むの?」
とか、
「はぁはぁ・・劉備・・・、
付いててお得・・・!」
とか・・、
「でゅふふ・・・、
芙蓉たん萌え・・・」
とか・・・。
一部、
比類なき知性を持つ私でも、
理解不能な好かれ方をしている様だが・・・。
「フニャ~・・・」
何にせよ、
前の世の主同様、
こちらの劉備様も皆に慕われているようだ。
私としても鼻が高い。
『どにゃ!』
● 〇 ● 〇 ● 〇 ●
「じゃ、
ちょっと行ってくるね」
「うん、
わたしもこの後、
夕方まで出かけるから」
「ニャ~」
今日は、
主にとって休日。
果樹園の仕事は、
三日に一度 休みがあるのだ。
というわけで、
「じゃ、行こうか孔明」
「ニャ~」
私は、
主の外出に付いていく。
「ずるい・・・」
と、
背後から聴こえる妹君の声が痛い。
「ニャ・・・」
お許しあれ、
芙蓉殿・・・。
私とて、
貴女を ないがしろにするつもりはない。
(だが・・・、
今日だけは主と行きたいのだ・・・!)
なぜなら・・・。
「さ、
ここだよ」
「ニャ」
川沿いの通りをそれて、
大通りを少し歩いたところで、
主と私は目的地に たどり着く。
目の前には、
塀付きの白塗りの建物があった。
「ニャ~」
「そう、
ここが碁会所だよ」
『【碁会所】・・・!』
主いわく、
囲碁好きたちが集まり、
自由に碁を打っていく寄合所。
(これは、確かに・・・)
中へ入ってみると、
部屋には沢山の碁盤が横長の机に並び、
老若問わず、
囲碁好きの者たちが、
思い思いに楽しんでいる。
パチッ、パチッ・・と、
部屋中から響く碁石の音。
「ここはコスむより、
二間に開いたほうが・・・」
「いや、
ハサミかツケたほうが有利じゃないか?」
などと、
対局を振り返る声。
(これはこれは・・・)
私も興奮してきた。
これこそが、
私が前の世から望んでいた場所!
約束の地!
「ニャオ~ン!」
「ちょっ・・孔明!
しーっ!」
思わず声を上げてしまった私を、
主が慌てて制す。
部屋にいる何人かが、
碁石を打つ手を止めて こちらを見る。
「お、
劉坊じゃないか」
「ひさしぶりだな。
猫を拾ったのか」
何人かの大人が、
親し気に主に話しかけてきた。
「ええ、
すみません大声を上げて。
このコ、
猫なのに囲碁が大好きで、
つい嬉ニャ~しちゃったみたいで・・・」
(嬉・・ニャ~・・・?)
主はときどき、
意味の解らない言葉を放つ・・・。
「囲碁が好き?
はっはっは、
面白い猫だな」
「きっと、
飼い主のお前に似たんじゃないのか?」
「だったら嬉しいかな。
というわけで、
今日はこの孔明も一緒で参加させていただけますか?」
「ああ、
かまわないぜ。
皆もいいよな」
「よろしくな、コーメイ」
「ニャ~」
「おお、
利口な猫だなぁ」
という風に、
私は主と共に皆に囲まれる事となった。
(これも、
主の人柄のなせるわざか・・・)
――だが、
その後 私は、
人柄以上に主に感心させられる事となった。
何と席に着いた主は、
目の前に四つの碁盤を置き、
そのうちの三つを使って、
三人相手に対局を始めたのだ。
「請多多指教」」」」
相手の大人たちは何も言わない。
それどころか、
みな楽しそうに盤面に集中している。
(これがここでは・・、
主たちにとっては普通の事なのか・・・)
ちなみに、
四つめの碁盤は私用だ。
私の指示する手を主が代わりに打ち、
相手と対局しようというわけだ。
「請多多指教」」
「ニャ~」
そこから主は、
三面打ちに加え、
私の対局にも協力する。
「ニャ~」
【16の四】と、
私は主に打つ箇所を指示する。
パチッ。
主が盤に黒石を打つ。
パチッ。
相手が白石を打つ。
「ニャ~」
私が指示する。
パチッ。
主が黒石を打つ。
「こりゃ驚いた・・・。
本当に その猫が打っているみたいだな・・・!」
パチッ。
やはり、
本当に私が打っているのだとは思わない・・か。
「ニャ」
パチッ。
主が打つ。
パチッ。
相手が打つ。
その間も、
残り三面の対局は止まらない。
主はまったくぶれずに、
三つの碁盤に石を打ち続ける。
むしろ、
相手の大人たちの手のほうが止まるくらいだ。
「う~ん・・・」
「この攻め合いは・・、
いや待てよ・・・」
などと、
長考に入ることも しばしばだ。
(すごい・・・)
そんな風に、
膝に乗った私が、
感服して主を見上げた その時、
「つまらねえ碁を打ってんな~」
私たちの背後から声がした。
「え?」
主が振り返ると、
そこには一人の少年が立っていた。
その腰に、
黄色い布を巻いて・・・。
〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
【あとがき】
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